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なんてことない日常 15
寮に着いた後、手早くパスタを温め空腹を満たすべく無心で食べ進めてはあっという間に完食。その間、ナポリタンを選んだのらしい夕が細かく刻まれたピーマンを隣からせっせと和風パスタの上に乗せていく様を大変そうだな。なんてある程度静かに眺め終えた後、残りは自分で食えと容器を遠ざける。
うげっ…と情けの無い声を漏らしながらも、諦めて渋々食べ始める姿を眺める側にシフトチェンジして。
「は〜美味しかったぁ!ご馳走様でした。デザートと一緒に飲み物も持ってくるから、座って待ってて」
「さんきゅ。テーブルの上簡単に片付けとくわ」
結果的に味は好みだったのらしく、食べ終える頃には機嫌良く両手を合わせて挨拶を済ませ、食後の楽しみとルンルン気分で冷蔵庫まで向かう夕に感謝の言葉を返して。
コンビニ袋に容器をまとめて入れては傍に避け、丁度戻って来た夕からお茶のペットボトルを受け取ればロールケーキの袋を開けて。
「どっち側が良いとかある?色々果物入ってるぽいけど」
「ん〜?いいよどっちでも。先にアキの好きな方から食べちゃって」
まさにふんだんに並べられた果物やクリームたっぷりの見た目に自然と頬が緩む感覚を感じながら、先に夕の好みの確認を。どっちでも良い。そう返されては、じゃあ。と一口目を口にして。
程良いクリームの甘さと果物の爽やかな風味が口内に広がる。これは美味い。そう夢中で食べ進めていたが、それなりの分厚さからスムーズに食べ続けるには難しく、度々角度を変えながら気付けば約束していた半分手前で口を止め。
後は夕に、と丁寧にスプーンで食べ掛け部分を全体的に切り離しながら綺麗に形を整えていたが、突然隣から伸びてきた腕に手を止めてその意図を確認し。
「何?もう食い終わったの?」
「あと少しだけど、良いよ。あげる。アキのさ、ここにクリームが付いてるなぁって」
気に掛けながら食べていた筈が、知らぬ間に付いてしまっていたのだろう。指先で口許を軽く撫でられては、そこを拭うべくテーブル上のティッシュ箱に腕を伸ばそうと、ソファーの背もたれに預けていた背を離すが何故か夕の手は顔から俺の胸元へ。
そのまま込められた腕の力に抵抗する間も無いまま体をソファーに横たえる形で倒されては、視界に広がる天井と、夕の顔。予想外の出来事に瞬きを繰り返しながらも手にしていたロールケーキはしっかりと死守し。
その片腕をソファー外で伸ばして横目で手元の状態を確認しながら、何事かと口を開いて。
「う、わっ…!どう言うつもりだ?急にあぶねえだろって」
「いやぁ?どうせなら俺がそのクリーム取ってあげようかなぁと」
「ならそのままでも良かったじゃん。わざわざ倒す必要もねえだろうが」
「そのまま、じっとしてて」
あまりにも大胆だな、なんて眉を顰めるがそんな気分だから。と急な心変わりを示されるだけで。胸に添えられた手が顎先を捉え、少し上を向かされる形で指先に力を込められては素直に従うしか無く。
足の間へと差し込まれる夕の身体、互いに近付く距離に視線を逸らせば口許のクリームらしきものを舌先が舐め取り、満足気に微笑む姿。
そのまま流れる様に唇を舐め上げ口付けされては、まぁ、少なからず想像は出来ていたと言うか、多少状況的に構えていた為にその行動を見守る様に身を任せ。
最初は触れるだけ、何度も重ね合わせられる唇。柔らかなその感触に普段のものとは異なる別の雰囲気を感じ取った瞬間、閉じた唇を割く様に押し込まれる舌先が深く口内を探り始めた事でちょっと待て、と夕の胸を空いた腕で押し返し、行為を止めて。
「……ストップ。それってさ、このまま続けて止められんの?お前は」
「どうだろぉ?止まんないかもしれないし、やっぱりまた今度。ってなるかもしれないし。やってみないと分かんないでしょ?」
「ハッキリしないなら今は駄目だ。それに、お前の考えそうな事位すぐ分かる。」
流石にこれ以上長引くならば、と言うかこの先の行為を求められる様な事があれば俺の片腕が持たない。と伸ばされたままの腕がロールケーキと共に微かに震え出し、そろそろ限度を迎える事を悟り。
問い掛けた内容に対して返された曖昧な答えに、まぁそうだろうなと逸らしていた視線を夕に向けて。退け。そう意志を伝えるべく胸元に添えたままの腕に再度力を込めるとすんなり離れる互いの身体。
素直に諦めてくれたのか、安堵の息を吐き出して腕を下ろしたその瞬間、やっぱり、止まんないみたい。そう呟かれると共に絡み付く様な熱い瞳に思考が吸い寄せられてしまう。
互いの呼吸が静かに交差するほんの数センチの距離間。ハッと気を取り戻して口許をキツく結ぶが唇同士が触れ合う事は無く。そのまま首筋へと埋まる夕の顔。しっとりとした感触がそこから伝わり、ゆっくりと、味わう様に舌が這わされる。同時に服の中に滑り込まれた手が腹部に触れては、相変わらずひんやりと冷えた指先に身体を震わせ、堪らず声を上げてその名を呼んで。
「.....っゆ、う!!ちゃんと聞いてたか?俺の話」
「ん〜?なぁにアキ。物足りないとかそんな感じ?それなら何処触って欲しいとか、教えてよ」
「馬鹿、そんな訳ねえだろうが。今は止めろ、そう言ってんの」
「えぇ?嘘だぁ。絶対気持ちイイのに。素直になれば?」
このまま自由にさせて居れば行き着く先はきっと、いや、やっぱり止めるべきだわ。首筋を這う舌先の感覚が無くなると共に身体を起こし、名前を呼ばれた事にはて、と緩く首を傾げる夕の姿。
真面目に会話を交わしても無駄だろう。一瞬でそう悟れば、これ以上好きにさせる訳にはいかないとハッキリ確信を持ち。
互いの胸の間で行方無沙汰になっていた腕を何とか引き抜いてそのまま夕の顔を鷲掴み目の前で固定させては、言い諭す様に、含みを持たせながら声を掛けて。
「良いのか?このまま、お前が止めないならそのケーキ、多分食えないまま床に落ちるぞ。そろそろ俺の腕も限界みたいだし」
「は…?っそうだった。……待って、分かった。また今度にするから。絶対離さないで」
俺から腕先へと向けられた視線、その表情に驚きの色が見えた事に気付けばうまくいった、そう悟って。
漸く離れる互いの距離に合わせる様にして身体を起こせばホッと一息吐き出しながら、一応仕返しにと夕の額を力の限り指先で弾いて
「次はねえからな?ちゃんと時と場合を選べ」
「いっだぁ!!っ……ちゃんとね。その時は俺絶対止めないから」
「はいはい。さっさと食わねえとクリーム無くなるかもよ、ソレ」
額を押さえ、痛みに俯くその姿をフッと鼻で笑う。そりゃ、加減してないもんな。夕にロールケーキを手渡して代わりに綺麗に半分残されたプリンパフェを引き寄せてはスプーンで掬い、その味を堪能して。
「止めないから」そう告げられる言葉を軽く受け流しながら、その時が来たら互いの位置でも丁寧に話し合わなければな、と深く心に決めては残りをゆっくりと口に運び。
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