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初めまして 1
同じ制服を身にまとい、次々と寮から出ていく複数の学生。皆、それぞれ楽しそうに笑いあったり、俺と同じ様に一人で歩く姿もちらほら見える。
入学式より前に荷物の荷解きや部屋の確認、部屋の設備や説明等を受けながら割り当てられた部屋で初めて一人の夜を過ごした。
寮から学校までの距離が離れてる訳でも無ければ直線上を進むだけ、それだけなのだが初めての道程にドキドキと高鳴る胸に今後の高校生活を思い馳せては又別の、期待と興奮に満ちた思いを寄せる。
「緊張、するなぁ」
そうポツリと呟きながら一歩ずつ確実に入学式が行われる校内まで歩みを進めていく。浮かれた気持ちで頭の中は埋め尽くされ、もうそれで脳内は容量オーバーであった。だからこそ、気付かない。玄関へと歩みを進めるその足元が、段差になっていただなんて。
「うわ、ぁあっ?!う、げっ!!……っっは〜ぁ..…い、ったぁ…。うっ…痛過ぎるかも…ぉ…」
気付いた時には時既に遅く。ふわりと宙に浮く身体を支えるものは、何も無い。そのまま前のめり状態で派手にすっ転んでしまえば、いてて…と身体を支え損ねた手元が確実にぐねりと在らぬ方向に向いていた事を悟る。
倒れていた身体を起こしながら、ゆっくりと手首を抱えてその状態を確認してみる。初登校初日、早速やってしまったと。
はぁ、どうしよぉ……。これ、大丈夫…じゃないもんねぇ
捻りでもしたのだろうが、このまま痛みを我慢して入学式、なんて耐え切れるだろうか。いや、無理だ。瞬時にそう判断してはいい加減立ち上がろう、そう心に決めて腰をあげようとした瞬間、ふと肩に触れる誰かの温もり。
肩をトントン、と軽く叩かれた事に気付き、そっとその主を見上げる様に、手首を抑えながら伏せていた顔を上げてみる。
「大丈夫か?結構派手に転んでたのが見えたけど…。取り敢えず、立てる?」
陽の光に照らされて輝く、まるでミルクティーの様な、そんな色をした髪の毛がさらりと揺れている。首を傾げるその彼の目元を軽く覆う前髪の隙間からチラリ、と覗いた綺麗な二重の奥に輝く双眸の中も同様に薄く、透き通る白い肌。透明で、そして儚い。その言葉が正しく当て嵌る。
なんて、キレイな...人...なのだ、とぼんやり口を開いたまま呆然と長い間見入ってしまう。此方に差し出された手にも気付かぬまま、どれくらいの時が過ぎたのであろうか。
目線の先で次第に不安気に寄せられる眉間の皺。そっと開いた彼の薄い唇から言葉が紡ぎ出された瞬間、はっと弾かれた様に我に返りもう一度、その顔を確認して。
「お、いっ.....?もしかして、気分が悪いのか?誰か、先生...呼んでくるから、そこで待っ.....?」
中々反応を示さない俺に更に不安感を抱かせてしまったのらしく、他に助けを、と離れてしまう彼の手を慌てて掴めば、不思議そうにぶつかる互いの瞳。「ごめん。大丈夫だから。」そう一言、安心させる様に告げてはそっと立ち上がり、未だにじんわりと痛みの広がる手首を抑えながら緩く首を傾げて微笑んでみせて
「.....へーき。どこも悪くないし、頭とか、別の所をぶつけた訳でもないし大丈夫。吐き気も無いよ。気に掛けてくれて、ありがとう」
そう告げて、彼にこれ以上迷惑を掛けないようにとお礼を伝えると転んだ拍子に何処かへ飛ばしてしまった鞄を探すべく周囲に視線を迷わせる。あっ、あんな所に。
玄関を超えて下駄箱の前に落ちている鞄の元まで向かい、無事手元に戻って来た事を安堵しつつ、背後の相手へと、再び視線を向ける。改めて頭を下げて感謝の意思でも伝えようか、離れてしまった互いの距離を埋めるべく進めた足元が再び浮き上がる。
今度は下駄箱と玄関を繋ぐ小さな段差に引っ掛けてしまった様だ。驚く彼の顔と伸ばされる腕。
その視界を最後に、気付けば視界の先に広がる玄関の灰色の景色。なんて、最悪な日なんだ。そう、自己嫌悪に浸る余裕も無いまま、慌てて駆け寄ってきてくれた彼の手が俺の腕を引いて身体を起こしてくれる。
実に情けなさ過ぎる。垂れた眉にへにゃりと下がる口許。「ごめんな、さい」そう呟くのに必死で促されるままに立ち上がれば俺の身体を必死に確認する彼に何度目かの謝罪の言葉を口にして。
「本当に、大丈夫なのか?ごめん、申し訳ないけど一人に出来ないわ。一緒に保健室探してやるから、とりあえず中に入ろう」
「ん、分かったぁ……。多分、キミ、同じ一年生、だよねぇ?入学式、は?行かなくても大丈夫なの?」
「あんなのずっと座って話聞くだけの様なもんじゃん。怠いなって、正直思ってたんだよ。」
ラッキー、と笑う彼の顔にふと、笑みが零れる。入学生の証として胸元を彩る赤い胸飾り。それが同じ学年である事を示して居たが、どうやらこのまま式に出るつもりはサラサラ無いと俺の隣を歩きながらそう語る。
それならば、と言葉に甘える事に。互いの名前は、何処の中学校だったのか、部活は、寮生活で初めての一人暮らし。その不安や期待、趣味の話等、自然と会話が絶える事は無く、初めての校内で在処の分からぬ保健室をゆったりと探し回る事にして。
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