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初めまして。 2
「あっ!ココじゃない??ほら、保健室って札あるし」
「そうだな。⋯⋯って、⋯あれ。誰も居ねえけど⋯入っても良いのか⋯?」
「ん〜⋯まあ⋯このまま素直に職員室に行ったらサボりなのバレちゃうし⋯。あ〜!もう、いっか!入っちゃえ!」
以外にも迷ってしまうくらい、少し離れた場所でその存在を見つけ出せば壁に設置されている『保健室』という小さな看板を確認して、そっとその扉を開いて中を確認してみる。
室内に入った瞬間、ツン、と病院のような、何か、薬品の匂いが鼻を掠めていく。
中に入っても無音状態は続き、何も反応が無い事を確認すると緩く首を傾げて室内を見渡すが、明らかに無人だと判断する。
ふと、入口付近に設置されている備え付けのホワイトボードの存在に気付いて書き込まれてる文字に視線を向けてみれば⋯なるほどね。用があれば職員室まで来い、と。
明らかに入学式が始まってる最中にのこのこと2人でサボってる事をバレるのも避けたいし、まあ、今回ばかりは仕方ないという事で。
改めて、「お邪魔します。」と軽く頭を下げて室内に入ってしまえば、棚の中を覗き込んで何が有るのか確認してみる。
「ん〜⋯⋯湿布とかあるかなぁ⋯」
「後は俺が探してみるから、そこに座って待ってろ」
「⋯⋯ありがと」
あくまでも俺の身体を労わってくれてるのか、大丈夫だから。と俺の腕を引いて椅子に座らせてくれるその優しさを素直に受け入れる事にしては、棚を漁るアキの姿をぼんやりと眺めながら改めて自分の身体に視線を向けて、怪我の有無を確認し。
手首は⋯そうだな、時間が少し経った事で腫れとして症状が出ている事だけは分かりやすく確認出来れば、他にも手首にばかり視線が向いてただけでその手の平にもじんわりと血が滲んでいて、そして新たにジンジン、と痛み出した膝の痛覚にもやっと気付いてしまった。
⋯⋯アキとの話に夢中で分かんなかったけど、なんかめちゃくちゃ痛えや。
負傷してる手とは反対の手でズボンを捲って確認してみれば、真っ赤に染ってるその膝からも、血が染み出していた。多分⋯明日には痣コースだな、って一目見て分かるくらいに、少しずつ変色している。
初日からだいぶやっちゃったなあ⋯なんて、呆然と見つめて居れば、やがて救急箱を手に戻って来たアキの足音に気付いて顔を上げてみる
俺の隣に腰を下ろして一旦俺の傷を確認する様に視線が向けられた後、がさごそと必要な物を分別してるのか、しばらく箱の中を漁っていたアキが顔を上げて、改めて俺に身体を向けてくる。そしてその手には、消毒液とガーゼが握り締められていた。
「多分染みると思うけど、少しだけ我慢しててな」
「は〜い。⋯大丈夫だよ、慣れっこだし」
普段から注意力が散漫だと怒られる事も多ければ、その分怪我も多く、その経験は慣れたもので。消毒液くらいなら平気だと素直に手を差し出せば、手首の腫れに気付いたのらしくあまり触れないように、そっと消毒液を手の平に垂らしてガーゼで軽く拭ってくれる。
その瞬間、ピリッ、染みる感覚が手の平から伝われば瞳を細めながらその刺激から意識を逃しつつ、続けて膝の傷痕にも垂らされる消毒液を静かに見守る。
「⋯⋯あ〜⋯悪い。うまく貼れなかったわ。」
「全然大丈夫。色々してくれるだけでも有難いし、助かるよ」
元々手首を労りながら処置してくれてる分、絆創膏を貼る際の力加減やその位置の調整が難しそうだと見て分かって居れば、確かに歪んでしまっている絆創膏の形くらい全然気にならないと笑って見せて。
膝も同じように、丁寧に貼ってくれたそれはぴたり、と綺麗に出来ていて、心なしか嬉しそうに緩んでいるアキの口許に気付いてしまう。
あまり表情の変化が見られない分、意外と笑ってくれるんだな。なんて、俺もつられて頬が緩んでしまう。
続けて手首にも湿布を貼ってもらい、全ての処置が完了したその時に室内に鳴り響いた鐘の音に気付く。
「あ⋯もしかして終わった?」
「かもしれないな。⋯⋯さっさと戻るか」
「そうした方が良いかもね」
使った道具を全て箱の中に戻して、その箱も元の場所に戻しに行くアキの後ろ姿を確認しながら、俺も椅子から立ち上がり軽く伸びをする。
やがて戻って来たアキの隣に並んで保健室から出ると、元来た道を戻りながら歩みを進めていく。
しばらく進んでいれば、無人だった廊下にちらほらと生徒の姿が見えその胸には同じ様に赤いバッジが付いていることを確認する。
「あ⋯丁度いいタイミング。入学式が終わったらさぁ⋯次ってなんだっけ」
「クラスの確認とか、そんな感じじゃなかったか?」
「確かに〜!!⋯えっ、アキと同じクラスになれたら良いのになぁ⋯。」
「そうだな、⋯⋯向こうじゃねえの?その張り出されてるとこって」
さり気なく生徒の波に混ざってしまえば、その流れに合わせて後をついて歩いていく。やがて賑やかな声が聞こえてくると共にアキの指し示す方向に視線を向けてみれば、沢山の人が掲示板の前に集まっていて、それらしき声も聞こえてくる。
人混みにのまれてしまわないように、少し離れた後方から背伸びをして掲示板を覗き込みながら、その全貌を確認してみる。
「ん〜!!⋯⋯アキ、見えた??」
「いや、まだ探しきれてねえわ。⋯⋯どのクラスだ⋯」
お互いに確認し合いながら必死に1クラスずつ名前を確認してみる。1組⋯ではない。なら、2組か⋯⋯⋯?
いや、違う。
「あ、見つけたわ」
「えっ?!どこどこ??」
「3組。⋯⋯夕の名前も、同じとこにあった気がするけど」
アキの声に反応して、ばっ!と視線を、3組と表示されているその名前の並びに集中させる。『白川 夕』、俺の名前を確認した後に、アキも一緒だと知らされるがまま、その名前も慌てて探してみる。
しばらく視線を下げた下の方に、『宮元 明樹』、と、その名前をようやく見つけ出す事が出来た。
「っ⋯やった!!!あき!!⋯俺、すっごい嬉しいよ!」
抑えられない感情をそのまま隣のアキに向けると、同じ様に笑みを浮かべてくれるその姿がたまらなく嬉しくて、感情のままに抱き着いてしまう。
顔を覗き込んだその瞬間、俺の行動に驚いた表情を浮かべているアキの姿に気付いてしまった事で、はっ!と我に返れば、流石に咄嗟の行動とは言えど距離を詰めすぎだよな。と反省する。
互いに適切な距離を保つべくアキの身体に回した腕から力を抜くが、ふと、俺の背中に回されたアキの腕が、優しくその背中をぽんぽんと叩いてくれている。
「⋯⋯どんな顔してんの。別に嫌じゃねえよ、こう言うの」
「⋯ほんとに⋯?嫌いになった、とかそんなのない⋯?」
「だから平気だって。⋯それに、俺達一人目の友達同士だろ?⋯⋯これからも宜しくな。」
「⋯⋯っこちらこそ!!」
ふわり、と俺の顔を覗き込みながら笑ってくれるアキの顔に、どっと身体の力が抜けて安心してしまう。改めて告げられた言葉に対して、更に緩む頬を抑えることが出来ないまま、再びぎゅっと抱き着いてその肩に顔を埋めてしまえば、「擽ってえから」と、その間も俺の背中を撫でてくれるアキの暖かな手。
その優しい感触に俺の胸はまた、ふわりと暖かく色付いていった。
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