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初めまして 2

「あ、此処かも。ほら!……当たりじゃん〜っと、おじゃまします」 「……アレ?先生とか…居ねえのか。入学式にでも出てんのか?」 廊下の端の方、漸く見つけた目的地に声を上げてはそのドアに手を掛けてそっと扉を開いてみる。 ツン、と薬品の匂いが鼻を掠める。無音の室内に緩く首を傾げては室内を見渡すが、二人の足音、話し声が響き渡るだけで無人だと知る。ふと、備え付けのホワイトボードに気付き視線を向けてみれば……なるほど、用があれば職員室まで来い、と。 まぁ、湿布さえ拝借出来ればわざわざ呼び出す必要も無いと備品が並ぶ棚を覗き込めば目的の物を探して 「え〜っと、湿布あるかな。ん〜、どこだろ」 「俺が探すから、その間そこに座って他に傷が無いか見ててくんねえか?」 「大丈夫だと思うけどぉ…わかった。ありがとう、アキ」 心配性なのかそれとも元々正義感の強い正確なのか、座ってて。そう告げられた言葉に軽く視線を自分の身体に向けてみるが、ピンと来る箇所がある訳でも無く。 棚を漁るアキの姿をぼんやりと眺めながら、ここは素直に言葉に甘えようと頷けば近くの腰掛けに座り改めて怪我の有無を確認し。 あ、ここ擦れてるや。薄くじんわりと血の滲む手の平、同様に今まで意識をしてなかったが、ジンジンと痛む膝。ズボンを捲って見てみれば同様に青い痣と共に滲む血。あちゃ、なんてその様を見つめていればいつの間にか目の前にやって来たアキがその場に腰を下ろして低くなった姿勢。 同じ視線になった事で互いの瞳が向かい合えば、どう?と聞かれる言葉にへへっと照れくさい笑みを浮かべて 「やっぱり、ぶつけちゃってたみたい。ここと、そこ。血が出ちゃってる」 「あ〜本当だな。ちょっと染みるかもしれないけど、我慢しててくれ」 手早く怪我を確認するアキの視線を追う様に同じ箇所を眺める。念の為、と持ってきていたのらしい消毒液や絆創膏、湿布を一度傍のテーブルの上に乗せてその中から消毒液を選べば告げられた言葉と共にそっと掛けられる液体。ピリッ、と染みる感覚に瞳を細めたが、その位慣れっこだと唇を噛み締めて耐える。絆創膏を貼ってくれる手元を痛みから思考を逃す様に見守って。 「悪ぃ、ちょっと歪んじゃったわ。湿布も…下手だな俺」 「イイよ〜平気。この位気になんないし、そもそもやってくれた事だけでも有難いし」 慎重に貼ってくれたのだろうが、不慣れな手先では綺麗に出来なかったとそう詫びるアキの姿に、大丈夫だとズボンの裾を下ろしながら伝えて。自分でやった方が更に歪んでいただろう。と続けると安心した様に浮かぶ笑み。 壁掛けの時計が目線の先に偶然入り、確認してみれば丁度入学式を終える時刻を指している事に気付き、あ、と短い言葉で口を開けばその主旨を伝えて 「そろそろ入学式終わるかも。バレない内に戻ろっか?」 「おわ、本当だ。出てくる奴らに混ざれば大丈夫だろ」 「そうだねぇ!こっそり並んじゃお」 ふっ、と悪戯に笑みを浮かべる姿につられてにやりと口許を緩める。使用した備品を棚に戻し、保健室から出ては目的の場所まで歩みを進めながら、ふと掛けられた言葉に緩く首を傾げて。 「それにしても悪かったな。目の前で見てたのに止めらんなかった。夕が転ぶとこ」 「へぇ…?あんなの俺がドジなだけだから。アキは何も悪くないでしょ?」 「いや…でも、その、痛かったろ。手捻ってたし」 「この位たいした事ないよ。いつもの事。よくやっちゃうからさ、こう、ドテッ!って」 優しい人だな、なんてまるで自分が悪いとでも言う様に伏せられる瞳にぽっかりと暖かな感情が胸の中で染まる感覚を感じた。 ドジだのマヌケだの、そう言って笑われるか呆れられるか、それだけだった周りの反応が当たり前だとそう思っていたが、目の前の彼は違ったのらしい。明らかにしゅんと落ち込んだ様な表情を見せられてしまえばなんて事ないと彼の顔を覗き込みながら、安心させる様に笑みを浮かべてみせる。 「俺さ、ほんとにいっつも、転んだりぶつかったり。怪我ばっかしちゃってさぁ。それでいつもバカにされてたから…なんていうか、心配してくれて、逆に嬉しかった…って言うか、そんな感じ、です」 「そうだった…のか。俺があの時夕の鞄拾ってやれば良かったのかもな。そしたら一回で済んだろ、転ぶの」 「ま〜ぁそうかもしれないし、ん〜逆にまた別の所ですっ転んでたかもしんないし」 結局何処で何をしてても怪我は耐えないであろう。十分に自分の不注意ばかりな言動を理解してる為に、次からは気を付けるね、だなんて告げて。 気付けば今まで無人だった廊下にちらほらと生徒の姿が見え、校舎の中に戻ってきた事を悟る。バッ、と慌ててアキの手を取り、こっちこっち。とうまく人の波に紛れる事が出来そうな合間を見つけ出し、何事も無かったかの様にその列にそっと並べばえへへ、と得意げな笑みを向けて 「上手くいったでしょ?絶対にバレてないよ、今の」 「あぁ、よくやったな。夕」 2人で顔を見合せ、クスクスと控え目に笑い合いながら流れる様に人の波に着いて歩けば辿り着いた先はクラス発表のボードの前。 そう言えばそんなこと言ってたっけか、と入学式の後の流れについて思い出す。自分の名前は、と背伸びをしながら多数の生徒の名前が記載されてる用紙を順当に視線で追いかけていく。 「あ、あった!!!俺3組だって」 「ん〜?あっ。俺も、ほら、同じとこに名前が書かれてる。その下」 「……ウソ?!ほんと?!やったぁ〜!!アキと同じクラスになれたの?!っ、友達第一号だね、俺ら」 「そうだな。……改めて宜しく、夕」 「こちらこそっ!!」 やっと探し出せた自分の名前に気付けば隣のアキにその事を知らせる。同じ様に視線をさ迷わせていたアキの視線が、ふと止まり、そして口許に浮かぶ笑み。指し示された方向に視線を向けてみれば『白川 夕』その俺の名前の一個下、その先に表記された『宮元 明樹』の、文字。嬉しすぎる。 抑えられない感情をそのまま隣のアキに向けると、同じ様に笑い返してくれる綺麗な笑顔。思わずその身体に両腕を伸ばしてギュッ、と抱き着いてしまえば驚いた表情を浮かべながらも、軽く背中をポンポンと摩ってくれる。その優しい感触に俺の胸はまた、ふわりと暖かく色付いた。

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