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ふたつの雪だるま 1

「っ、さ、む……あ…コイツまた布団蹴飛ばしてんじゃん」 全身を包み込む寒さに気付き、ふと目を覚ます。目の前で上下する夕の胸。最近気付いたのだが、夕の胸の上で寄り添う様に寝る事で蹴落とされる回数も格段に減り、安眠が出来ると密かに解決策を見出して居れば、今日も夜中からせっせと夕の胸元まで移動し、今に至る。 きっと自由に身動き出来ない状態が吉となっているのだとぐっすり眠っていた筈が、その状態でも器用に足だけを動かして布団を蹴落としていた事で結果的に目を覚ます要因となっていて。 身体を起こして布団を引き寄せると再度お互いの身体に掛けて眠りに着こうと、夕の胸元に手を添えた際に、むくり、と動くその身体。自由になったその身が寝返りを求めてゴロン、と横を向く姿勢に変わってしまえば、やってしまった。と肩を落とす。 あの激しい寝相を止める術が無くなってしまった。その身体にそっと布団を掛け直せば仕方無しに顔を向けた窓の奥でユラユラと揺れる白い塊に視線を止めて。 「今日も雪、降ってんな」 数日続いている降雪に、そろそろ積もるのでは。と白く染まり始めていた外の景色を思い出す。 ここ最近、毎日の様に夕の部屋で寝泊まりする事が当たり前となっていて、また今日も同じ様に過ごしたばかりであった。 幸い、明日は休日で学校も休み。こうして少しばかり起きてても問題は無いだろう、とぼんやり雪を眺めて居れば、再び背後で身動きする動作がベッドの振動越しに伝わる。 また寝相でも変えてぐっすり寝ているのだろう、とそう悟り窓に向ける視線をそのままにして居れば、視界の端に捉えた暗闇の中で動く白い腕。 ゆっくりと腰から腹部へと回される感覚にびくり、と肩を揺らせば硬直する身体。 一瞬の内に脳裏に浮かぶあのホラーゲームの画像にサッ、と血の気が引いていく感覚を感じたが、聞き慣れた声で俺の名前を呼ばれた事に気付いた瞬間、一気に身体の力が抜ける。 「っ……な、んだ。起きたのか?」 「ん…なん、か、暖かいのが無くなった、なって…思って…ぇ…」 どうやら完全には覚醒してないのらしく、半分程度にしか開かれてない瞳に向けて声を掛ける。腹部に力なく回された腕に触れてみれば、なるほど。元々体温が低い夕の腕は冷たく、冷えている事に気付く 「つめ、た。結構冷えてたのな、身体」 「寒すぎ、っ…う〜…冷え冷えだよ俺…」 ゆっくりと身体を起こし、布団を引き摺りながら近付いてきたかと思えば、ピタリと背中に寄り添われる体温。そのまま背後から身体を包み込む様に布団で包まれてはその端を掴み、身体の前で交差させて互いの身体が覆われる様にギュッと握り締めて。 「あったかぁ…アキのからだ、きもちいね」 「夕は冷えすぎ。しかも、ほら、また雪降ってるみたいだし」 「ん〜?あ、ほんとだ。結構量、多そうだねぇ」 「そうだなぁ。後で外の様子でも確認してみるか」 肩に乗せられた夕の顔に気付けば、ふと、横目に確認する。ぼんやりと窓の外を眺める瞳に合わせて同じ様に視線を向けては、積もってたら良いな。なんて笑い掛けて。暫く互いに窓の外を眺め続けていたが、少しずつ温まる体温が心地良いのか、肩に寄せられた夕の顔がゆらり、と揺れ始めた事に気付き、その名を呼んで振り返り。 「ゆう、そろそろ眠ろうか?俺も眠いわ」 「……いっしょに、寝る。アキが居てくんないと、おれねむれないし…」 眠気と共に舌っ足らずな言葉で告げられては、分かった。そう応えて元居た場所へ。先にごろん、と寝転がる夕の隣に並んで身体を横たえるが、「ちがう」そう言って腕を引かれるがままに身体を起こし、その意図を問い掛けて 「え、なに、どういう事?眠いんじゃねえの?」 「そうじゃなく、て、いつも居るでしょ。おれの上に。こっち」 「……気付いてたのか。良いの?俺そこに居て。」 「いいよ、その方がおれも寝やすいし。アキあったかい」 ほぼ毎回、夕が起きる前に目を覚まし、先に支度等を始めて居た為に寝姿等殆ど見た事が無いだろう、と思い込んでいたが、そうでは無かった様で。 俺が居たらキツイだろうから、と気遣ったつもりだったが別に気にならないから。と再度促されてしまえば素直に夕の胸元まで移動し、普段の定位置に身体を横たえる。 おやすみ。と本日二度目の言葉を掛けると消え入りそうな声で返事が返される。 改めて布団を互いの身体に深く掛け直して落ち着けば、やがて意識は暗闇の中へと落ちていった

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