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ふたつの雪だるま 3

「ね〜えアキ!今日さ、ゲーセン行かない?欲しいモノあってさぁ」 「良いじゃん。俺も丁度行きたかったし、ナイスタイミング」 遅れてやって来た夕の姿を確認しながら朝食の準備でも始めるか、と辿り着いた先のキッチンでトースターに食パンを並べてタイマーの操作をして居れば、嬉々とした言葉で誘われるこの後の予定。 休日はもっぱらゲーム三昧の日々が当たり前で、久々の外出予定に良い案だと機嫌良く答えては冷蔵庫の中から取り出したバターやジャム等をテーブルに並べて。 「たまにはさ、俺がやるからアキは先に顔でも洗ってきてよ」 「お、気が利くな?んじゃ後は宜しく頼んだ。バトンタッチ」 いつもやって貰ってるし、と隣に立つ夕の言葉に素直に甘える事に決めては、軽く肩をポンポンと叩いて立ち位置を入れ替わる事に。洗面所まで向かい蛇口を捻り水を出せばその冷たさにぶるり、と身体を震わせつつササッと普段よりも短めに顔を洗い終えるとタオルで水気を拭いながら、続けて手にした歯ブラシでシャカシャカと歯を磨きつつ夕の様子でも見てみようかとキッチンへ顔を覗かせて。 「美味そうじゃん。意外と出来るもんだな」 「ふふ〜ん、まあこれ位はね。どう?俺の事お嫁さんにでも貰っちゃう?アキの為なら何でも尽くしてあげるけど」 「俺の嫁さんねえ、ま〜そうだな。後で考えてみるわ」 「えぇ〜??そこはすぐ素直に受け取ってくれるとこじゃないのぉ?焦らしんぼ〜」 むすぅ、と分かりやすく頬を膨らませて不安を表現する夕にヒラヒラと手を振って戻る事を示せば、粗方磨き終えた口内に水を含んで全ての泡を洗い流して。口元の水気を拭いながらキッチンまで戻れば丁度朝食を作り終えたのらしい夕と立場を入れ替える事を提案し、洗面所まで促して 「さんきゅ。残りは俺がやるから、次は夕の番。」 「分かったぁ。パパって洗ってくる!」 はいよ、と軽く返事を返せばフライパンでこんがりと焼かれたベーコンに目玉焼きをそれぞれの皿に移し、テーブルの上まで運んで。棚からマグカップを取り出し簡易的なスティックタイプの飲み物の中から適当にココアを選ぶと、封を開けてマグカップに入れてケトルからお湯を流し込み。 箸と共にテーブルに全てを並べ終えると先にソファーに腰を下ろし、リモコンをポチポチと操作しながらテレビに映る朝のニュース番組をぼんやりと眺め夕の準備を待つ事に 「っ、はぁ〜!!めちゃくちゃ水冷たかったぁ…手ぇもげるかと思った」 「だいぶ冷えてたもんな。外出る時に厚着してかないと寒いかもな〜今日は」 ぶるぶる、と身を震わせながら腕を組み洗面所から出て来た夕の姿を確認しては、確かに、と何を着ていこうかなんて思いを巡らせて。隣に座る夕がマグカップで手を温める姿を横目に、いただきます。と手を合わせてパンを手に取りバターを簡単に塗れば1口頬張って。 「そういや、俺そんなに外出用の服持ってきてねえから一旦部屋まで戻っても良い?コートとか着て出たいし」 「ん!そうだねえ。ついでに他の服とかもさ、多めに持ってきたら?」 「そうだなぁ。その内すっからかんになるんじゃねえの?俺の部屋」 「良いじゃん、いっその事荷物全部移動させちゃえばいいよ。一緒にこの部屋で暮らしちゃお」 ほぼ毎日入り浸ってる夕の部屋。生活備品等も着々と揃いつつ有れば、半同棲の様な生活に慣れつつある自分が居て。不自由の無い生活は案外心地良いもので、夕がそれで良いのならと、今後ともよろしくお願いします。なんて行儀良く軽く頭を下げて。 俺に向けられたままの視線。目の前で動作の無い夕に疑問を抱き下げていた頭を上げてその姿を確認してみればふと伸ばされた両腕が背後に回る事で抱き締められた事を悟り。 「え、急になに?」 「いやぁ?よろしくお願いします、だなんて、なんか、それってさっきの答えの続き?俺を貰ってくれるって事?」 「あぁなるほど。そういう事…相変わらず都合が良いのな、夕の頭の中は」 「それでも良いでしょ?幸せいっぱいだよ。俺の頭の中はいつも」 適当な会話の中で色々と点と点が結ばれたのだとその言葉から理解しては、緩む優の顔が肩口に沈み頬をすり寄せられる感覚が擽ったくて。肩を竦め、その背を軽く撫でては朝食の続きを、と声を掛けて 「飯、冷める前に食うぞ。そのココア飲んだらすぐに体も温まるだろ」 「はーい。じゃあ、いただきます!」 手を合わせてマグカップを手に取る夕にこくりと頷き返しながら、残りの朝食に手をつけて。

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