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ふたつの雪だるま 3

部屋の前まで辿り着けばドアの鍵を開けて、中に入る。 久しぶりに戻る自分の部屋は完全な物置部屋となっていた。普段から何かとバタバタと部屋に駆け込んでは、物を取り出す。 その繰り返しで中々気付いてはいなかったが、部屋の状況に目を向けるのも躊躇してしまうこの状況。 夕を部屋に上げる事も今となっては気が進まず、⋯⋯一緒に来なくて正解だったわ。 敢えてこの惨状に見ないフリを決め込んでクローゼットまで向かえば、なるべくこれ以上、部屋を汚してしまわないように不必要な物には触れずコートだけを選んで手に取ると部屋を後にして。 ⋯やっぱあったけえわ。 コートを羽織る事で体感温度がグッ、と変わった事に安堵の息を吐き出しながら、階段を一気に駆け下りて夕の姿を探す。 エントランスを見渡しながらそこに姿が見つからなければ他に屋内で待機場所なんてあったっけか、と周囲に視線を向けみる。 すると、エントランスを抜けた先の道でしゃがみ込んでせっせと何かをしているその後ろ姿を見つける。 「⋯⋯何してんの?」 「あっ⋯!⋯みてよ、雪だるま。結構上手く出来たんじゃない?」 背後から手元を覗き込む様に声を掛けてみれば、手の中に雪を集めて丸い固まりを作ってる最中だった。 「んな事して寒くねえの?」 「ん〜?寒いのは変わんないけど、雪触るのって楽しいじゃん。⋯⋯ほら」 明らかに冷えた気温の中で雪なんて触る気もなれないとただその隣で傍観していただけの俺の手が取られて、その手の中に作りかけの雪玉が渡されてしまう。 普通にバカ冷てえが。 「⋯っ⋯俺は要らねえって。⋯⋯良いから、夕が作ってる途中なんだろ」 「それはアキの。⋯⋯せっかく頑張って丸めたのに、崩れたら泣いちゃうからね」 要するに俺も一緒に作れ、と。 手の中に存在するその塊が、折角回復したハズの俺の体温を徐々に奪っていく感覚に眉を寄せる。 ⋯⋯が、このまま手放してしまっても夕が拗ねてしまう事は安易に想像出来る為、仕方ない。と息を漏らしてその辺から適当に掻き集めた氷で小さな塊を作り貰った雪玉の上にさっさと完成させてしまえば、夕に差し出して。 「これで良いだろ」 「なんかヤケクソじゃない?⋯形もブサイクだし⋯⋯」 「⋯⋯別にそんな感じじゃねえだろ。お前みたいにそんな上手く作れねえし、俺は。」 「まあ確かにアキって意外と不器用だしねえ⋯、⋯良いよ。認めてあげる」 ヤケクソな部分に関しては正直、その言葉通りではある。 だがそれを認めてしまえばもう一度作り直さなければいけない選択肢が浮かび上がってしまう為、あくまでもそうでは無い、と緩く首を振り否定して。 俺に対してのイメージがどうとか、そんなのはもうこの際どうでも良い。 案の定、納得はして無さそうだが素直に受け取ってくれた事に内心安堵しつつ、さり気なくコートのポケットに手を突っ込んで冷えた指先を温めて。 その間にせっせと雪だるまを完成させた夕が、ふたつの雪だるまを手に乗せたまま移動するその後ろ姿をぼんやりと観察する。 エントランスの門部分に雪だるまを並べて、満足気に笑っているその隣に近付けば改めてその光景に視線を向けてみる。 「やっぱアキの雪だるま⋯こうして見るとブサイクだね」 「⋯⋯うるせえ、さっさと行くぞ」 その場しのぎで適当に作り上げたものとは言えど、真正面からその形の評価をされてしまえばそれはそれで面白くは無い。 こうして僅かな間にも少しずつ外の気温に体温が奪われていく訳で、夕の事を置いて先に歩き出せば慌てて追い掛けてくるその姿を背中越しで確認しながら駅に向けて歩みを進めていく。 やがて辿り着いた改札口を通り、時刻通りにやって来た電車に乗り込む。 「⋯⋯っやっぱ、人多いね」 「まあここら辺は⋯そうだな。」 既に車内のほとんどが人で埋め尽くされていれば、それも毎度の事だと特に気にせず発車を待つ。 落ち着きなく周りを見渡している夕に疑問を抱きながらも特に触れる事はせず、俺達の他にも次々と乗り込んで来る人に場所を譲っていれば、隣に居た筈の夕の姿がいつの間にか消えている事に気付く。 周りを見渡してみてもその姿が見当たらず、⋯⋯まあ、そこら辺に居るだろ。 はぐれてしまった事を悟り大人しく人の流れに身を任せながらその場の成り行きに身を任せる事にする。 が、突然背後から力強く掴まれた腕が、そのまま引き寄せられる様に背後に引っ張られてしまう。 「⋯⋯っおい⋯危ねえ⋯だろうが⋯⋯!!」 「わっ⋯!そんな怒んないでよ、俺も急にアキが居なくなっちゃってビックリしたんだから⋯!」 焦りを浮かべた表情で怒られる事が何故か分からない、と困惑した表情の夕と視線が合ってしまえば、その表情に違和感を覚え、不満を告げる度に開きかけてた口を静かに閉じる。 今にでも溢れ出てしまいそうな溜息を深呼吸で誤魔化しながら、俺の中のイライラを何とか鎮めることにして。 「俺ら以外にも人は居んだから、大人しくしてろ」 「⋯⋯俺とはぐれてる間に、誰かに話し掛けられたりしてない?」 「別にそんな事無かったけど」 俺の言葉を聞いて、安心したように息を吐き出す夕の姿に対して俺の疑問は深まるばかりで。 夕に対して感じていた違和感は間違ってはないのだろうが、その疑問は一体何なのだと身に覚えの無い問いかけに対して、今度は違和感を感じてしまう。 改めて視線を向けたその瞬間、俺の手を取ってぎゅっと握りしめながら、今度は真剣な表情で俺のことを見つめるその視線に意識を向けて。 「⋯⋯ずっと、後ろの人たちがアキの事狙ってる会話してたから。⋯いつ話しかけようか、とか⋯そんなの聞こえてきたらビックリしちゃうじゃん。アキは急に消えちゃうし」 「⋯⋯そうか。」 そんな会話が行われていた事なんて、一切気付きもしなかった。 同じ距離感で同じ位置に居た筈のコイツに聞こえて俺に聞こえない事が有るのかと疑問を抱いたが、そもそも普段から周囲の事に気を向ける事が無ければその感覚の違いもあるのかと自己完結して。

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