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ふたつの雪だるま 5

「⋯⋯何してるの?」 「何、って⋯別に何もしてねえだろ」 「その人は?」 「教えて貰ったんだよ、ソレの取り方」 俺の腕を掴んでいるその力に加減が無い事、俺の一言一言に対して夕の表情に影が掛かっている事に気付けばその心情が何を表してるのか、すぐに理解してしまう。 ⋯⋯気に入らねえんだろうな、この空間が。 だからこそ伝える言葉を選びながら、余計な事は伏せつつそれでも真実はちゃんと伝えた方がコイツの為にもなるだろうと素直に言葉を並べていく。 「⋯あ〜悪い。俺が勝手に口出しちゃったんだよね。ほんとは頑張ってんの応援したかったんだけどさ」 「アキが下手くそだから、そうだね。手伝って⋯⋯くれたんだ」 あくまでも俺が下手な事を八つ当たりの要因として会話に引き出されてしまえば、それはそれで話が違ってくる。 ギリっ、と夕の事を睨み付けたとしても俺の事なんて素知らぬフリで、気付けば今度は夕が手にしている景品のゲーム話で会話が盛り上がっていた。 コイツが嫉妬深い事は知って居るが、こんなにもあっさりと俺から気を引いて相手側と仲を深めている事は今まで無かった為、珍しい光景に俺も敢えて言葉を伏せて、2人のやり取りに耳を傾ける。 「そうそう!でさ、そのシーンが怖かったみたいでアキなんかお風呂に一人で入れない〜!ってしょんぼりしてたくらいなんだから」 「でも分かるなぁ、俺もアレはマジで⋯怖かった⋯。ホラゲーが苦手なら余計にトラウマもんじゃねえの?」 「まあ〜たしかに。俺も無理矢理やらせちゃったようなもんだし」 いつの間にかその話題は、以前夕とプレイしたあのホラー作品の事について触れていた。俺の事をベラベラと楽しそうに話している夕の言葉は流石に聞き捨てならず、その横腹を軽く小突けば「いてっ!」と軽くその部分に触れているだけで、再び始まってしまうホラー作品の話題。 これ以上この場に居ても再び俺の事が話題に上がり、会話のネタとして引き出される事が目に見えてしまう。 流石にホラゲーのネタに関しては話を聞く事だけでも分が悪いとこの空間に耐え切れず、夕の腕を引き剥がそうと腕に力を入れた所で、ようやく夕の意識が俺に向けられた事に気付く。 「あっ⋯え、何処に行くの?」 「⋯⋯そこら辺見て回ってようかなって」 「ちょ、っと待ってな。⋯⋯悪い、俺もそろそろ行かないといけないみたいだから、えっと、コレ。良ければ貰ってくんねえか?」 俺が他の場所に行ってしまう前に、と慌てて携帯画面を確認するその動作を静かに見守りながら、どうやら彼の時間が迫ってる事を悟る。 予想通り、別れを知らせる言葉と共に不意に目の前に差し出されたそれが、俺が持っている景品と対になるモノだと事前に確認はしていた為にそれが何なのかすぐに理解は出来たが、獲得するまでに苦戦したあの瞬間を思い出せば素直に受け取っても良い物か、躊躇してしまう。 「でもソレ、結構大変だったんだろ?自分で持ってた方が良いんじゃねえのか?」 「⋯⋯いやぁ⋯う〜ん、なんて言うか⋯結構ね、すぐ取れちゃったから。全然その辺は気にしなくて良いし、この後の予定にコレをどうやって持って帰ろうか正直悩んでんだよね」 「だから言ったじゃん、アキが下手なだけで結構簡単に取れるんだよって」 ⋯⋯なるほどな。 俺が苦戦してただけで上手くやればすぐに取れるもんなんだと今更理解してしまう。 言葉を濁す彼とは異なり俺に対して素直に刺してくる夕の言葉に対して今度は容赦なく、脇腹に向けて肘を勢いのままにぶつけてゴンッ、と突いてやれば痛みに悶える夕を他所に、差し出された箱を受け取る事にする。 「⋯⋯だ、大丈夫か⋯?結構痛そう⋯だけど」 「別に問題ねえよ」 「そう、か⋯⋯。⋯あっ!俺多分これから此処に来る機会増えると思うし、二人の名前とか聞いてても良いか?多分、⋯アキ、で合ってるよな。」 「そう。んで、こいつが夕。」 「なるほど。俺は嵐、って言うんだけど⋯んと、多分同い年⋯くらいだよな?」 「どっちも17。」 「おっ!マジで同じじゃん。⋯⋯んじゃあ、また会った時にでも声掛けてくれよ。その時は連絡先交換な!!」 淡々と流れるように行われる互いの紹介に、しっかりと耳は傾けているのか痛みに悶えながらも「あらし、かぁ⋯」と名前を復唱している姿を横目に確認しながら、やがて俺達に手を振って足早に颯爽と去って行くその後ろ姿を見送る。 「あれで17だって⋯⋯全然先輩だと思ってた」 「あんまそういう事言うなよ」 まあ確かにその点については、俺も同じ事を考えては居た。見た目が派手なだけで会話自体は年相応だと感じていた分、まあそんなもんだろうと納得してはその比較をする様に夕に視線を向ける。 「お前はその逆だもんな。」 「⋯⋯そう言う事はあんま言わない方がいいって、自分で言ってたじゃん」 「んな事言ったっけか」 年の割に幼い見た目をしてる夕とその逆の立場に居る嵐が二人並んで会話してれば、その差が余計に分かりやすく比較されるのも仕方ねえだろうと素直にその事を告げる。 そもそも、俺の事を好き勝手に馬鹿にしたコイツに対しての当て付けではあるが、それでも素直に俺の言葉が響いたのか、しゅん、といじけてるのか拗ねてるのか、それとも落ち込んでいるのか。 ⋯⋯まあ、その全ての表現が当てはまるのだろうが。 「俺ってそんなに子どもみたいに見える?」 「⋯⋯さぁな。また今度嵐に会った時にでも聞いてみれば良いんじゃねえの?」 「絶対そんな事無いよって言うじゃん。優しそう、だったし」 そりゃそうだろうな。 あの短時間の会話の間にその物腰の柔らかさが伝わっていれば、夕の問い掛けに対して上手く言葉を選んで伝えてくれるだろう事は明確で、その事を理解してるからこその返答でもあれば会話の責任を全てこの場に居ない人物に擦り付けてしまい。 それはそうと、増えた手荷物に視線を向ける。このまま抱えてても何も出来ねえし、一旦袋を探す事から始めないといけないかもな。 「⋯これ、袋とか何処にあんだろ」 「⋯⋯そこにあるよ。俺のも入れるから、貸して」 夕が指し示すその先に移動して近場に設置されていた景品用袋から大きめサイズの袋を選ぶと中に景品を詰めて、その袋を夕に手渡す。 そのまま持ってくれるのらしい夕に軽く礼を伝えては用の済んだゲーセンから1度出る事に決めて店を後にして。

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