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ふたつの雪だるま 6
適当に街をブラブラしながら、早めに昼飯を済ませる。
気付いた頃には日が暮れていて時間も良い頃合を示していた。
「そろそろ帰ろっか?」
「他に行きたい場所とかはねえの?」
「ん〜もう大丈夫かなぁ。そんな事よりも、アキの方こそ歩くの結構疲れちゃってるでしょ?」
「⋯⋯まあ」
元々体力の無い俺の足は確かに一日中歩き通しで疲れ果ててはいた。じんじん、と痛む足裏を庇うように、そしてそれを悟られない様に誤魔化しながら歩いていたつもりではあったが、目敏くも気付かれていたのらしい。
俺に合わせて帰宅を選ぶ位なら行きたい場所くらい付き合ってやろうと思ってはいたが、あくまでも帰宅を促されてしまえばそれはそれで有難い選択ではある。
帰宅ルートを歩き出した夕の後ろを着いて歩きながら、駅まで向かいやって来た電車に乗り込む。
目的地を示す電光掲示板をぼんやりと眺めながらやがて発車した車体の揺れに身を任せていれば、ふと視界に映った夕の視線が俺に対して一直線に向けられている事に気付く。
緩く首を傾げても、にこり、と笑い返されるだけで特に意味は無いのらしいが、逆に言葉も無く続くこの空間が気になって仕方が無い。
「⋯⋯何?」
「なんにもないよ」
「何か変なもんでもついてんのか?」
「だから、何も無いんだって」
あまりにも逸れない視線が不可解で仕方が無く、自分の身体に軽く触れてみるがそうでは無いのらしい。
俺が疑問を抱く度にやがて夕の表情は不機嫌に膨れていくのが、更に疑問を生み出す。
「本当に意味分かんねえんだけど」
「⋯⋯もう。アキが俺だけ見てろって言ってくれてたから、見てるだけじゃん。なに、もしかして忘れたの?」
「⋯⋯んな事かよ」
「そんな事じゃない。大切な事でしょ」
なるほど、今朝の電車での出来事を思い出す。
そう言えばそんな事を言った気もするが。
明らかに記憶不足な俺に対して不満気な表情を浮かべながら、じりっ、と距離を詰めてくる夕の胸を軽く押し返しながら今は止めろ、と、そう告げて。
「俺が悪かったんだろ、それで良いから」
「絶対投げやりじゃん。俺がこんなにも素直にアキの事見てるのに、アキは全然俺の事見てくれないし」
「今見てんじゃん」
「そうじゃない」
夕の胸に触れている俺の手首をギュッ、と握り締める夕のその力加減から変にスイッチが入ってしまっている事を悟れば、「分かったから」と素直に受け入れる事しか方法は見当たらず。
そもそも普段から俺の態度に対して拗ねてしまう事は多い夕だが、理由を語る事も無く、あくまでも俺のせいだと言い張りながら俺に近付くその距離感や力加減に違和感を覚える。
普段であれば拗ねて終わるような状況の筈が、身を引かずに繰り返される押し問答に対して一体その理由はなんだと探りを入れる事にして。
「どっか行きたい所でもあったんじゃねえの?本当は」
「何も無いんだってば。全部一緒に回ってくれたし」
「じゃあ何だ、腹でも減ってイライラしてんのか?」
「⋯⋯───グゥウウ」
あまりにもタイミング良く夕から聞こえてくる空腹を知らせる音に、驚いてしまう。
⋯⋯ガキか、こいつは
自分のお腹を押さえながらバツが悪そうな表情で、黙ってしまうその姿を見つめながら静かに閉ざしていた口を開いて。
「お腹空いてんのか?」
「⋯⋯ぺこぺこだよ、ずっと。」
「何でそれを言わねえの」
「だって、アキがずっと足痛そうなの我慢してるから⋯俺の空腹の事よりも先に早く帰ってあげないとな、って」
「別にそんくらい付き合えるわ。どんだけ俺の事ジジイ扱いしてんのお前は」
確かに、今までの夕の姿を思い返してみれば、飲食店の前を通る度にヤケに熱い視線を向けていたり、空き時間に食べ物のポスターをじっと眺めてたり。
ただの食い意地かと特に触れる事はしなかったが、そうではなかった事に今更気付いてしまう。
案外こいつの事を知っている様で知らない事もあるんだな。
⋯⋯まあそりゃ、そうか。
俺の事を気遣ってくれる時は意外と普段の甘えたが無くなる事を何となく理解していれば、今回もそんな事だろうと敢えてその事には触れずに改めて夕に視線を向けてみる。
大人モードは既に終わってしまったのか、ぺしょりとした表情で自分のお腹を押さながら、今度は空腹アピールが始まっていた。
「うぅ⋯⋯ずっと我慢してたのに⋯アキが俺に思い出させるから⋯⋯」
「だからそれをちゃんと言え、って言ってんの」
「⋯⋯俺だってアキにカッコつけたいとことかあるし」
「それでそのザマか?余計に格好が付かないんじゃねえの」
「あぁ⋯!!アキのばかぁ!!頑張ってた俺にそんな事言っちゃうんだ!!」
明らかに今度はむすっ、と普段通りの拗ねた表情を浮かべてみせるその態度から普段の調子に戻った事を悟れば、特にこれ以上は何も伝える訳でもなく、やがて目的地を知らせるアナウンスの声が流れた事に気付いて降りる事を促す。
「ちゃんと謝って。じゃないと許さないから」
「はいはい、悪かったって。⋯⋯飯買って帰んだろ?その方が早いし」
「アキのばか。いっつもそうやって大人ぶってさ」
「飯買うの?作んの?どっちにすんの?」
「⋯⋯買う。」
「じゃあいつもんとこ行くぞ」
ぐちぐちと俺に対しての不満が止まらないのらしい夕を気にする事なく、向かう先は普段から利用している寮の敷地内にあるコンビニ兼スーパーマーケットまで。
駅からそう遠く離れてなければ暫く歩いた先にようやく見えてきたその建物を視界に捉えた所で、空腹ゲージがそろそろ限界なのか俺の腕にしがみついて離れない夕を引き連れて店内へと足を進めて。
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