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ふたつの雪だるま 7
「あ、ここ!この店はどお?美味しそうじゃない?」
「良いんじゃねえの?色んなメニューあるみたいだし、この店にするか」
数店舗を見て回った結果、オムライスやスパゲッティ、エビフライ定食等洋食を主としたメニューを掲げるお洒落なカフェのメニューを覗きながら、この店がいい!と声たかだかに宣言する夕の言葉にこくりと頷けば、早速店内へと続くドアを開けて中に入り。
カランコロン、と店内に響く鈴の音、やって来た店員に促されるまま席に着けば早速メニューを広げながら何にしようかと視線を向けて。
「ん〜、やっぱオムライスかなぁ。でもこのグラタンも美味しそうだし、エビフライとハンバーグもおいしそ…どうしよ」
「……なあ、俺そのエビフライとハンバーグのセットにするからさ、オムライスかグラタンと半分分けて食べねえか?」
「え?ほんと?!それじゃあさ、俺オムライスにする!!決まり!」
確かにどのメニューも美味しそうだと添付されてる写真から食欲を更に刺激され。中々決められないのらしい夕の候補を聞けば、同じメニューで悩んでいる事を知り。
顔を上げ、思い付いた提案を思案してみればすぐに即決だと嬉しそうに頷き、ベルを鳴らす姿に開いていたメニューを閉じて。注文を受けにやって来た店員にお互いの注文品を伝えてくれる夕の言葉に耳を傾けながら、用意してくれていた水を一口飲み、ふうと一息吐き出して。
「でさ、アキ?さっきの続きなんだけど。ここなら良いでしょ?ちゃんと聞いたげるから」
「……何の話?もう覚えてないけど」
注文を終えた夕がテーブルに両肘をついてその手の平で自分の頬を包みながら、改めて真正面から問われる言葉。
それが何を意図しているか、勿論理解はしているが今更告げる必要も無いと惚けた表情を浮かべて気を逸らす事に。
普段なら膨れたり、気に入らないと拗ねてみせる夕だが、今回ばかりは落ち着いた声色でじっ、と俺の事を見つめたまま名を呼ぶその声。
普段と立場が逆だと慣れぬ雰囲気に歯をギリリ、と噛み締めながら暫く続いた沈黙の間をかき消す様に仕方が無いと深い息を吐き出して。
「……夕と、その…嵐、だっけか。俺の事置いてけぼりでずっと楽しそうに話してっから暇だった。それだけ」
「俺も、つい夢中で話し過ぎちゃったなって思ってた。寂しかったんだ?その間」
「別に寂しいとか何も無いけど。好きなもんの話出来て嬉しかったんだろ?なら良いじゃん」
「アキ。もしかして、拗ねてる?めちゃくちゃかわいいっ」
素直に言葉を告げる間、目の前の夕を直視するには何だか気が引けて、ぼんやりと窓の外に視線を向ける事で気を紛らわせ。
同じ様に、素直に並べられるその言葉。少なからず俺を気にかけて居たのだと知れば、まあ、その事実だけでも安心出来る状況なのではと自分自身に言い聞かせる様、しっかりと夕の言葉に耳を傾けて。
少なからず本心は伏せた筈の言葉、だがその真の意図に目敏く気付いたのらしい問い掛けにハッと視線を目の前の夕に向けてしまえば、「やっぱり」と嬉しそうに笑う笑顔と視線が合わさってしまい。
誤魔化すにも遅過ぎる、口を閉ざして再び水を口に含む事で意識を逸らして居れば始終ニコニコと嬉しそうに笑う姿が何だか悔しくて、夕の手の甲まで伸ばした指先で軽くその皮膚を摘んで。
「いつまでも人の顔みて笑ってんじゃねえよ。失礼な奴」
「っ、わ。だって、良いじゃん。アキの顔大好きなんだもん。いつでもずっと見てたいの」
「………暇なヤツ」
手加減をした事でするり、と手を引き抜かれてしまえば行方を失った腕を引き戻し、コップを両手で包み掴む事でどうしようも無い感情を落ち着かせる事にし。
結局いつまでも俺の顔を見て視線を逸らさない夕の視界から逃れる様に、鞄の中から携帯を取り出せば背もたれに深く身を預けながら俯き加減で日課としているアプリを開き、操作を始めて。
「あ…なんで携帯見ちゃうの。もっと俺に顔見せてってば」
「うるせ」
結局互いの立場は変わらぬまま、痛い程に刺さる視線をそのままにポチポチと画面の操作をしていたのだが、ふと鼻を掠めた香ばしい香り。
背後から聞こえた足音と共にメニューが運ばれてきた事を察しては携帯から手を離して再び鞄の中に戻し、テーブルの上に並べられる食事に視線を向けて。
「っわ、美味しそう〜!!んじゃ、いただきます!」
「いただきます。」
早速手を合わせてスプーンを手に取り、約束通り半分に分け始める夕の姿。
同じ様にハンバーグを割り、海老フライと共に夕の皿の上に移動させては結果的に皿の上に並ぶ三種類の料理。お子様ランチみたいだと嬉しそうにはしゃぐ夕の言葉に耳を傾けるだけで、空腹を満たすべく黙々と手を進めて。
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