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ふたつの雪だるま 8

昼食を終えて、次は何処に行こうかと街中をブラブラと歩き回る。暇を持て余すには丁度良い立地の場所で、大型ショッピングモールや新しいグッズショップ。ついでに、と切れていた生活用品を買い足す事も忘れずに全ての用を終えた頃には日が暮れ、最後の目的地として帰宅路を選ぶと来た時と同じ様に電車に乗って寮を目指し。 やがて辿り着いた寮の全貌が目の前に見えてくると共に、急に走り出す夕の姿。驚いた反射と共に、一体何事かと暗い夜道に取り残されてしまう恐怖まで覚えてしまえば、その後ろ姿を慌てて追い掛けて。 どうやらしっかりと覚えていたのらしく、エントランスの門に飾られた雪だるまの元でじっとそれを見つめているその隣に並べば肘でその身体を軽く突きながら、不満を漏らして。 「…っおい、俺の事置いてくなバカ。ビックリしたわ」 「ごめんごめん。この子がどうしても気になってさ。お母さん雪だるま、ちゃんと作ってあげても良い?」 最初に告げた約束をしっかり守らなきゃ、と問われた言葉にまぁ、特に問題は無いと頷き乱れた呼吸を整えながら、その姿を見守って。 一つ目の雪だるまよりは大きめに、しっかりとした形の雪玉が徐々に出来上がり、その二つを合わせて小さな雪だるまの隣へ。しっかり目や鼻の装飾も忘れずに行えば完成した雪だるま親子に満足気な笑みを見せる夕につられ、フッ、と笑みを漏らし。 「上手に出来てる。これで寂しくないな、この雪だるま達も」 「そうだねぇ。俺達みたいに2人で仲良くそこに居ててね?」 「見本になるのか?俺等って。喧嘩ばっかだけど」 「まあそこは多目にみてあげようよ。……っ…なんかめちゃくちゃ寒いね。作るのに夢中で気付かなかった」 これで良し、と立ち上がり、隣に並ぶ夕と共に目の前の雪だるまをしばらく眺め。だが、段々と震える身体に両手を擦る夕の行動に気付けば、その手を取り握り締めて。 指先から伝わる冷えた感覚はすぐにでも温まるものでは無いだろう、と芯から冷えてしまっている事を悟り早めに部屋まで戻ろうと長らく止めていた歩みを進めて。 「夕、先に風呂に入って来いよ。後は俺がやっとくから」 「え〜?アキも一緒に入らないの?いつもそうしてるじゃん」 「手、冷え過ぎてたろさっき。どうせ他んとこも全部同じ位冷えてんだろうし、湯船にでも浸かってゆっくりして来いって」 「じゃあ、アキが来るまで湯船の中でずっと待ってるから。俺が逆上せる前に早く来てねぇ」 部屋に着くと共に夕を風呂へと急かす。テーブルの上に購入した日用品を並べながら、早く行けと促すが絶対に後から来る様に。ほぼ強制的な言葉と共に部屋着を手に風呂場まで消えて行く後ろ姿に、仕方が無いと肩を落としながらなるべく手短に片付けを終わらせる事に。 最後の一つを棚にしまい終えた頃には数分が経過している事を確認する。丁度全身を洗い終えた頃合だろう、とキリの良い終わり際にゆったりとした足取りで寝室から部屋着を取り出し、脱衣所まで向かうとドア越しに一度中の状況を確認する言葉を問い掛けて 「そろそろ入っても良いか?まだ途中だったら待ってるけど」 「良いよぉ!今身体洗い終わったとこ!ど〜ぞ」 「んじゃ、服脱いだら入るわ」 着ていた衣服を脱いでそのまま洗濯機へ。身に纏う布が無くなった事で肌に刺さる様な寒さに鳥肌が立つ感覚を覚えつつ、両手で左右の腕を擦りながら手早くドアを開けて中に入り。 入れ替わる様にお湯を貯めた湯船の中に入る夕の姿を確認しながら、腰掛けに座り全身にシャワーを掛けてはその温かさに瞳を細め、ほっと一息吐き出して。 「ねえ、今日はアキも湯船に入った方が良いよ?外寒かったし、すっごい温かい」 「そうだなぁ…少しだけなら、入ってみようかな」 「そうしな〜?譲ってあげるからさ、ちゃんと温かくして出よっかぁ」 湯船の縁に両腕を乗せ、その上に頬を寄せてゆったりと微笑む笑顔にこくりと頷けば、シャンプーに手を伸ばして濡れた髪を泡立てて。 続けてトリートメント、洗顔、次は身体を、と腰を上げて立ち上がり、泡立てたスポンジで身体を擦っていたが、どうしても気になる隣からの熱い視線。 一度手を止めて瞳を細めながら視線を向ける。夕の考えている事は十分に分かっている為、 わざわざ声を掛ける事もせず無言で泡だらけの手でわざと視界を遮る様、その瞳辺りに泡をべたりと塗り付けて。 「ぶ、えっ!!うわ、あ…ちょっとあきぃ!目に入ったら危ないでしょ!」 「んなの洗い流せば平気だろ。お前の視線の方が俺は気になる」 「っもぉ…良いじゃん、減るもんじゃないしぃ」 慌てて湯船のお湯で顔を洗い流す夕の姿をじとり、と眺めながら漸く外れた視線に気が済んだと再び身体を洗う手を進めて。最後に泡だらけの身体をシャワーで流せば、全ての工程は終えたが確かに未だ身体の芯は冷えている様な、そんな感覚を覚えそろそろ、と湯船を堪能する夕に声を掛けて。 「なぁ、俺も湯船に入って良いか?やっぱ寒いわ」 「ん?いいよぉ。おいで、此処空いてるから」 「は……?いや、だから、変わって欲しいって」 「違う、俺と一緒に入るの。こうしたらほら、アキならいけるでしょ?細いし」 「そう言う問題じゃねえんだけど……っマジで?」 「マジで。早く入らないと冷めちゃうよ」 一緒じゃなければ入れてくれない、その意図に気付けばわざわざその為に誘ったのかと計画的な夕の言葉に早めに気付くべきだったと溜息を吐き出し。 一度その気になってしまえば諦めるにはどうしても惜しく、心残りで悔しすぎる。多少の辛抱だと心に決めては湯船に手を付いてゆっくりと足の指先から湯に浸かればその温かさに身が解れる。 そのまま互いに向き合う形で入るつもりであったが、伸ばされた腕に腰を捉えられ夕の足の間に座り込む形で引きずり込まれてしまえば、急な位置変動に危ないだろうと愚痴を漏らし。 「っ、あ、ぶね!!……いっつもお前は急だなぁ本当に!!止めろそれ!」 「まぁ良いじゃん。アキが転んでも支えられるように構えてたし、俺。」 「お前に身を預けるのが1番怖いっての。……言っとくけど、少しだけだからな」 「わかったわかった、それまで一緒にゆっくりしようねぇ」 本当に理解しているのか定かでは無い適当な返事を仕方が無いと受け流しながら、その時になったら無理にでも出てしまえば良いとそう意志を固めて。 身に染み渡る湯の温かさがなんとも心地良い、と気立っていた心が段々と沈まり落ち着く様にふ、と身体の力を抜いて夕の胸に身を任せる事にして。

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