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ふたつの雪だるま 9

「さっきから擽ってえんだけど、その手」 「え〜?どこら辺の話?ここ?」 「っ、だから!!やめ、ろって意味に決まってんだろ!」 久しぶりの湯船での時間に身体をゆったりと休めて居たが、さっきから何度も腹部や脇腹を撫でる様に行き交う夕の指先が気になって仕方が無く。 初めの方こそ気の所為だと、さり気無い動作を気にもしてなかったのだが、段々と意識的に、何度も繰り返されるその動作に気付いてしまえば、それがわざとなのだと悟る頃には我慢の限度を超えていて。何気無く聞いてみる事からその意思を探ってみる事に。 だが、明らかに意図的に、わざと指先で擽る様に脇腹に触れられてしまえばその腕を掴み振り向きながらハッキリと止めろ、そう告げて。 「えぇ〜良いじゃん。アキの裸の肌に触る機会って無いんだもん。こういう時に触らなきゃ勿体ないじゃん」 「風呂入るたんびに毎回触ってんだろうが。どの口が言ってんだ?コラ」 何かと適当な理由と共に触れてきた夕の手。その度に軽めのモノなら気にせず自由にさせていたのだが、今まで全然触らずに居た。そう表現されてしまえば、それは全くもって違う筈だとハッキリと今までの行動を言葉で指し示して。 ぐるり、と身体を反転させて夕と向き合う形になれば、片手で夕の両頬を掴み自由に言葉を吐くその口を尖らせる様に指先に力を入れて。 「もぉ……。俺だってさ、立派な男子高校生なんですぅ。そりゃ溜まるもんも溜まってるってわけ」 「んな事言われても、擽ったいもんは我慢出来ねえんだから仕方が無いだろ」 「ん〜?じゃあ、擽ったいじゃなくて、気持ちイイとかなら別に良いの?」 触り方にそもそも問題がある。そう言い聞かせる様に、告げたつもりだが逆に、と別の提案をされてしまえばそれはそれで困る問い掛けだと言葉を飲み込み、答えを探すべく視線をさ迷わせ。 だが、言葉を失う俺の姿を何故か良しと捉えたのらしく、「例えば」と続く言葉と共に頬に触れる手が外され、近付く互いの距離。押し付けられる様に唇同士が合わされば、そのまま口内へと忍び込んだ舌先が全体を擽り、自由に中を這い回り始めて。 「っ……ふ、…!は、ぁ…また、おま、えは都合よく汲み取ったな」 「これはどう?って提案してるだけ。何なら良いのかなって」 「何がいいとかじゃなくてさ、此処だと逆上せる、か、らっ……!っ、!」 毎回欲望のままに行動を示す夕に何でもかんでも許す訳にはいかないのだと、場所と理由を指し示すべく一度夕の胸を押し返して口付けを止めては深く息を吸い込んだ後、改めて体勢を整えて向き直る。 何??そう首を傾げる夕に告げていた筈の言葉。その言葉を遮る様に再び伸ばされる腕、そのまま首筋をなぞり胸元、腹部、そして下半身へと伝っていく指先の行方に気付けば、触れられる前に自分の両手で慌てて下腹部を覆い隠す。 すると、次第に不満気に染まっていく表情。はぁ、と息を吐き出しながら次はなんだと首を傾げて。 「何、んな顔しても無理なもんは無理なの」 「ずっと我慢してるのに、駄目、無理、って、アキ意地悪すぎ。そしたら、いつだったら良いの?何処で?俺としたくない、とかそんなんだったらそれは俺が無理だから」 「だから、初めから言ってる筈だけど。場所と状況が悪いの、夕はいつも。此処でやってもどうせお互いに逆上せてぶっ倒れるだけ。分かるだろ?」 「………そしたらお風呂上がってさ、ベッドとか、だったら良いの?」 「まあ……それなら別に良いけど。お前とやりたくないとかそんなんじゃないから、それだけは分かっててくれ」 場所を選べ、そう示している筈が本能のままに手を出されてしまえば今後もキリがないと、先にその事だけはキッチリ決めてしまおうと断言して。 提案された言葉は特に否定する理由は無く、素直に認めれば途端にパッと輝く瞳に緩む口許。なんとも分かりやすい奴だとその表情を見つめていたのだが、突然立ち上がった相手と共に引き上げられる俺の腕。 されるがままに立たされてしまえば急かされる様に脱衣所まで引っ張られて。 「ん、なに急がなくても別に逃げねえって!頼むから1回落ち着いてくれ」 「っはやく!アキ、タオルで身体拭いて!ほら!もう俺が全部やったげるから!」 「慌ててまたどっかですっ転んだらどうすんの??怪我したお前とは、絶対無理だけど」 「……わかった、よぉ…ベッドまでケガしないように気をつける」 頭からバサり、と被せられたバスタオル。そのまま髪の毛を拭きあげられるがままに身を任せていたが、行動を抑える様に。 改めて告げた言葉で漸く落ち着きを取り戻した相手の手が今度は優しく、続けて拭いてくれる様を見つめながら、「自分でやるけど」そう告げてもそれだけは揺るがない様で結局最後まで綺麗に全身を拭いてもらう形になれば一応短めの感謝の言葉と共に衣服に着替えて。 「髪も乾かしてあげるからそのまま待ってて」 「はいはい、準備だけはしとくわ」 何から何までやってあげる、その意思を素直に受け取る事に決めては洗面所の棚の中からドライヤーを取り出し、コンセントに刺して準備を。 その間、せっせと着替える夕の姿をぼんやり眺めながら待っていれば全てを終えて背後に回る夕に合わせて体勢を変えると、やがて頭上から当たる温風に合わせて揺れる髪の毛。 長い訳でも無い毛量が乾き切るにはあっという間で、最後に手櫛で簡単に毛先を整えながら「んじゃ先に」とリビングまで向かえば、ふと気付いた喉の乾きを潤すべく冷蔵庫を開けてその中身を確認し。 「腹、減ったな。なんか食えるもんあったっけ」 結局昼食から何も口にせず歩き回っていた事を思い出せば、空腹を知らせる空っぽの胃袋。 腹部に手を当てて擦りながら、ドアを開いた先にも同じ様に空っぽな冷蔵庫の中身が広がる。……そうでした、昨日まで覚えてたのに。買い出しの存在に今更気付いても遅く。 明日にでも食材を買いに行かなければなと暫く中を覗き込んでいれば、下段の奥の方で忘れ去られていたのであろう、包み紙で包まれた小さな複数のチョコレートが詰め込まれた袋の存在に気付く。 まぁ、すぐに食べれるし丁度良い。と一つ手に取りながら、取り敢えず目的の水を取り出してコップに注げばあっと言う間に飲み干した後、チョコレートの包み紙を開いて口内に放り込んで。 「……お待たせ。んじゃ、ベッドまで行こっか?」 「なあ、その前にさお腹空かねえ?なんか食い物あればって探してたんだけど」 「全然空いてないよ大丈夫。それに、中。何も無いでしょ?かき集めて作らなきゃだし、時間かかるよ」 食事に敏感な夕の事、提案に乗ってくれるだろうと高を括っていたが、その先に有るのは性欲。それだけの様で。ってか、そうか。 朝食を作ってくれた時にでも中の状況を確認していたのだろう。気付いてたなら早く教えてくれよな。……まあ、同じ様に忘れてただけっぽいけど 結局腕を引かれるがまま寝室まで連れ込まれてしまえば先にベッドの上に上がる夕の急かす言葉に、ふと何も心の準備も無いまま流れでやって来てしまった事に今更気付き、まだ口内に残るチョコをコロコロと転がし弄びながら本気かと改めて問いかけて。 「なぁ、本当に今やんの?俺何も、心構えとかないけど」 「別に何も考えなくていいよ。俺に全部任せてくれたら、それだけで良いから」 だから、おいで。と、そう告げられた言葉と共に引かれる腕。俺から言い出した事。今更言葉を撤回する気が有る訳でも無く、素直にベッドに上がれば共に力強く押される胸。 そのまま背後に身を倒せば全身を包む柔らかな感触にひんやりと冷えたシーツ。風呂上がりで少し火照った身体には丁度良いと心地良さに瞳を細めて居れば、段々と近付く夕の顔。 その瞳を見つめながら、素直に口付けに答えて。

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