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※ ふたつの雪だるま 10

初めは触れるだけの軽いキスから。 何度も啄まれる様に唇を合わせ、やがて口内へと割り込む様に差し込まれる舌先。その舌がまだ口内に溶けきらず残っているチョコを見つけ出すのはあっという間で。 突然の甘味に目の前の顔が驚いた表情を浮かべるが、すぐにその正体を理解した様で、舌先で掬い上げられる感覚に気付く。 だが、少しでも空腹を満たす為に口にしていたそれを奪われてしまうのは話が違う。 咄嗟に片腕を夕の後頭部に回して肘を付きながら軽く上体を起こせば、遠慮なくその唇に歯を立ててガリッ、と音を立てると共に口内に広がるがる甘味と僅かな鉄の味。 夕の口内に移動してしまう前に舌先でチョコを奪い取れば、互いの距離を離してそのまま噛み砕く事でその全てを溶かし、口内からその存在を消して。 「っ、いっだぁ…!ちょっ、とアキぃ…なんで噛むのぉ…」 「人が食ってるもん勝手に奪う奴が悪い。……⋯それに、こんくらい何時もの怪我と比べたらどうって事ねえだろ」 「⋯⋯まあ、それはそうだけど」 「なら別にこんなちっこい傷の一つや二つ位我慢出来るよな?」 「っ⋯⋯、何それ、ズルすぎ」 怪我をするな。そう普段は口うるさく言い聞かせてはいるが、俺が夕に付ける傷に関しては話が別だ。ぷつり、と唇から滲み出す真っ赤な液体を見つめながら緩く歪に口角を上げれば、途端に真っ赤に染まる夕の頬。 なんて顔してんだこいつは。 ぞくり、と加虐心にも似た欲が俺の奥底から溢れ出してくる。いっその事、このままぐちゃぐちゃにして思いっきりその顔を歪めてやりたい。 ゾワゾワと広がる欲望を再び奥底まで理性で押さえ付けながら、もう一度、その唇に口付ける。そのまま傷跡に舌を這わせて血を拭い取る様に見せ掛けて、更に傷口を抉る様に歯を押し当てて噛み付く。⋯⋯別にこの位なら、許されるだろう。 「む゛、っ⋯⋯?!はぁ゛、ア、キっ⋯!!」 痛みに歪む目の前の表情をぼんやりと見つめながら、痛みから逃れる様に離れる夕の後頭部を両手で掴み固定させてしまう。何度も角度を変えながら口付けを交わす度に快感にも似た様な、ぞくりとした感覚が背筋を伝わりその心地良さを楽しむ様に、夕の唇を貪り続ける。 「っ⋯はァ⋯⋯ンっ⋯⋯」 やがて痛覚に慣れてきたのか、唇の合間から零れる夕の吐息が甘ったるいものへと変わっていく。夕の顔を固定していた腕を解放し、共にゆっくりと互いの距離を離せば、浅い呼吸を繰り返しながら頬を真っ赤に染め、快楽の波に溺れた夕の瞳と視線が交わる。 ⋯⋯んな顔して俺の事を抱きたがってんの、普通にバグだろ。 この状況を他者視点で表現するとするならば、明らかに俺が挿れる側でコイツはヤられる側だろう。それ程までに目の前の表情はとろん、と蕩け、めちゃくちゃ気持ち良かったです。とその顔が物語っている。 再び近付いてくる夕の顔に気付けば、軽くその唇に口付けた後、喉元に顔を埋めていく。チュッチュッ、と軽めのリップ音を立てながら口付けて鎖骨辺りまで顔を降ろし、ちらりとその瞬間に夕の表情を盗み見る。明らかにされるがままで油断しているだろう姿を確認した後にゆっくりと口を開き、ガリッ、と夕の鎖骨に歯を立てて2つ目の傷跡を残す。 「……ッっ゛?!い゛!!ま、た…噛んだ、ぁ…!」 「今度は加減したから、血出てねえだろ」 「う〜…もう、そんな問題じゃなくて⋯。ほんとに痛いんだから…」 傷痕を確認する様に、すっ⋯と鎖骨に触れる夕の指先を視線で追いながら、同じ様に手を伸ばしてその傷跡を撫でていく。不服そうな表情を浮かべていた夕だが、やがてその表情は再び快楽に満ち溢れ、次第に緩んでいく口許。 「今度は俺の番」その言葉を合図に俺の首筋に埋まる夕の顔。 「ば、っ!!痛、っ゛でえ⋯!!お、い夕!!」 途端、鋭い夕の犬歯が皮膚を貫く感覚と共に全身を伝う激痛。思わず息を呑み、裂かれる様な痛みのに思わず苦痛の声を漏らしながら止めろ、と夕の顔を掴み力を込めるが、絶対に離さないと両脇から伸ばされた腕が背中で交差し力強く抱き締められる形で固定されてしまう。 鎖骨から始まり、肩、首筋、と続けて数箇所に渡り皮膚を吸われる感触と共に伝わる鋭く尖った刺激。止めろ、と伝えても完全にスイッチの入った夕の行動を止める術は無く、力任せに組み敷かれてしまえば完全に俺の抵抗は無意味な事も十分に理解している。 凶器の様な歯先が薄い皮膚に押し付けられる度に身を構え、肌を突き刺す痛覚に唇を噛み締めながら夕がこの行為に満足し飽きるまで耐えるしか今の俺に出来ることは無い。 どの位好きにさせてやったか、その間数秒程度だったかもしれないが、体感としては何分、何十分の時もの間、耐えていた様にも感じた。 やがて漸く気が済んだのか、満足気に顔を上げた夕の顔を咄嗟にガッ、と掴んで押し返しながら傷跡を自分の手で覆えば、改めて指先で傷の状態を確認してみる。⋯⋯⋯穴空いてんじゃねえの、コレ。 「っ…マジで…おまえ、自分の歯の形状位理解してろ馬鹿。そこら辺の凶器と何も変わんねえからな」 「っゴメン。途中で止まらなくなっちゃって、…それで⋯沢山噛んじゃった。…⋯⋯痛そ」 「痛そうじゃなくて、確実に痛えって言ってただろ」 「⋯なんか、穴空いてるみたいになっちゃってる⋯もんねぇ⋯」 流石に俺の付けた歯型とは異なる傷の付き方に罪悪感でも覚えたのか、労る様に傷跡に触れ続けるその指先でさえ痛覚の一部として感覚が捉え始めてしまえば、止めろ。と軽く夕の手を払い退けて。 少しは加減をしろと、俺から始めた事だと言う事はあくまでも棚に上げて今後も衝動的に同様の事が行われないように釘を刺し、鋭く視線を向けて。 「ごめん⋯なさい。」 「⋯⋯ちゃんと覚えてろよ」 まるで飼い主に叱られた犬のようにしゅん、とした表情で謝られてしまえば、それ以上怒る気にもならない。許しを乞う様に頬を胸元に擦り寄せるその仕草でさえも、どこまでも犬らしいヤツだなコイツは。 別にその行為を止める理由も無い為夕の好きにさせながら、未だにジンジンと疼く痛みに眉を寄せて気を逸らしながらゆったりとした一時に身を任せて。 ふと、服の裾から滑り込む夕の手。相変わらず体温の低いその冷えた指先に身を竦めながら、自由に動き回る手先が腹部から脇腹、そして胸元を掠めていく。 夕の指先が一点を掠める度にドキドキと高鳴る鼓動。強ばる身体の力を抜く為に、ふ、と結んでいた唇から息を漏らしながら快楽を逃して居たのだが、ばっちりと俺の顔を見つめていたのらしい夕と視線がぶつかった。 ⋯⋯ずっと見られてたのか。 「⋯⋯緊張してる?何も怖くないから大丈夫、絶対優しくするから。ね?」 「別にそんなんじゃねえよ。お前の手が冷たくてさみい」 「ン〜⋯それに関しては、ほんとにごめんとしか言えないんだけど⋯、⋯⋯カイロ⋯とかであっためてこようかなあ」 「別に良い⋯⋯から。ヤるならさっさとしろ」 「⋯⋯はぁい。じゃあ、ちょっとだけ我慢してね?」 ただの羞恥心を誤魔化す為の言い訳として口にした文言ではあったが、それさえも真面目に受け取りこの場から離れようと俺から身体を離す夕の腕を咄嗟に掴まえては、この状態で放置される方が辛いと行為を促す言葉を伝える。 「⋯⋯あと一つだけ。この体勢だけどうにかしろ」 「え?何?俺と位置変わる?⋯⋯別にアキがそう言うなら良いけど⋯」 俺が押し倒された状態のまま事が進むのが、どうしても男としてのプライドに引っ掛かってしまう。あれもこれもと小言ばかりを付け足してしまう事に対して、まぁ、自分でも面倒くせえ奴だと自覚しているが、こう言う細かなやり取りについては先に伝えていた方が今後の為にも身になるだろうとコイツとの関係性を長い目で見た上での判断ではある。 俺とは違い、特にその点に関しての拘りが夕には無い事にも安堵しつつ、素直に要望を受け入れてくれた夕が今度は俺の下に。入れ替わる様に夕の腰辺りに跨る形で落ち着けば、改めて見下ろす様に状況を確認し、納得する。 夕の事を見下ろしてる位が丁度良い。長い髪で時々その表情が隠れる事が密かに気になってた分、こうする事でコイツの顔もよく見える。 俺が満足した事を察したのか、離れていた夕の手が再度服の裾から差し込まれる。その指先が今度は一直線に胸元まで這い上がり、指の先全体で転がす様に触れられては徐々に高まる身体の温度を感じ取る。 「⋯⋯⋯ッ⋯⋯。」 やがて何度も擦られる事で敏感に刺激を拾い集めるその感覚から意識を逸らす為に、身を屈めて少し乱暴に夕の唇に俺の唇を押し当ててえしまえば口の隙間から僅かに漏れてしまいそうな吐息を誤魔化して。
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