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※ ふたつの雪だるま 10
不安気に揺れる目の前の瞳をじっと見つめ返しながら暫く考えるような素振りを見せるが、夕の顎を掴んだままの指先から力を抜くと共に、その片腕を後頭部に回してくしゃりと夕の髪に指先を絡ませてしまう。
そのまま引き寄せるように腕に力を入れて互いの距離を近付けてしまえば、更に困惑した表情を浮かべる夕に向けて緩く意地の悪い笑みを口許に見せながら、じっ、とその瞳を見つめて。
「ちゃんと俺の事満足させろよ」
「⋯⋯っ⋯!!な、っ⋯そんなの、当たり前じゃんっ⋯!ぜっったい世界一気持ちよくさせるからっ⋯!!」
俺の一言でぶわっ、と夕の顔が真っ赤に染まってしまった。
あんなに俺とヤりたいだの入れたいだの、ベタベタ人の体を触る割には初心な反応ばかりを見せるアンバランスさがこいつらしいと言うか、なんというか。
伝えた言葉を素直に真に受けて、何度も頷くその姿が余計に面白くてケラケラと笑っていれば、再び俺の顔を見ながら固まってしまう夕の身体。
「⋯ずるい、よ。その笑顔」
「別に普通だろ」
「そうじゃなくて⋯⋯アキってあんまり表情が変わんないから」
まあ確かに言われてみれば。
表情がコロコロと変わるコイツとは違って何を考えてるのか分からないだとか、表情が変わらないとかよく言われるっけか。
「そうやっていつも笑ってたら良いのに」
「笑ってんだろ、お前より頻度が少ないだけで」
「ま〜⋯愛想笑いとか、そんなのはよく見る気がするけど」
付き合いの浅い相手との会話では確かに気を張ってる分笑顔を向ける回数は多いのだろうが、それが本心かと言われてみれば⋯確かに愛想笑いと表現されんのが合ってんだろうな。
「でもさ、やっぱ⋯アキが笑ってくれるのは俺だけで良いかも。こんな顔色んな人に見せたら絶対惚れちゃうじゃん」
「⋯⋯んな事ねえだろ」
「あんな分かりやすいアキの愛想笑いでも勘違いして告白してくるヤツが沢山いるのに?」
「そういう訳じゃねえと思うけどな」
明らかに不機嫌な表情で責め立てられる様に過去の事実を突き付けられてしまえば、その理由として俺の笑顔が他人の好意に直結する意味が理解出来ない事を素直に告げる。
んな馬鹿正直な奴ばっかじゃねえだろ
「そうやってすぐ人に優しくしてさ、モテようとしてる?もしかして」
「⋯⋯この場に及んでガチャガチャうるせえな。んな事どうでも良いから、さっさとしろよ。お前と口喧嘩する為にここまで来た訳じゃねえだろ」
「⋯⋯っ、⋯分かってるよ」
いつまで人の事を待たせんだコイツは。
ヤりたいと騒いでた割には手よりも口ばっか動かしやがって。
くだらない事でまたピーピー騒がれる前に無理矢理雰囲気を戻すべく、ギリッと睨み付けながら俺の上に跨る夕の下腹部を狙い膝で軽くグッ、と押し返してやれば分かりやすく跳ねる目の前の身体。開きかけていた夕の口が閉じて、やっと静寂が訪れる。
ようやく流れに戻る気になったのかそれとも意地を張ってか、そのままの勢いに任せて夕が俺の口元にガッと噛み付いてきた瞬間、口内に広がる鉄の風味とそれに伴う鈍い痛覚。
夕の鋭い犬歯が俺の唇に当たったのだろう。
その瞬間、ハッとした表情を浮かべて互いの身を離そうと夕の身体が離れてしまう前に、その首元に両腕を回して互いの身体を密接してしまう。
俺の口元を傷付けたとか何とかで再び流れが変わり、騒がれてしまう方が厄介だ。
俺自身も完全にスイッチが入ってしまってる状態で、んな事で一々行為が止められてしまうのはダルすぎる。
目の前の唇に噛み付くように今度は俺から強引に唇を押し付けては互いの唾液が混ざり合うと共に、血液のぬるぬるとした感覚も相まってやけに生々しい口付けに変わってしまう。
が、これはこれで心地が良い。
角度を変えながら強引に夕の口内を割くように舌を差し込めばやがて観念したのか、俺の舌の動きに合わせて夕の舌も絡み付いてくる。
夕の犬歯に触れる度にその鋭い感覚が心地好くて、何度も舌先を擦り付けていればそれに気付いたのか、軽く俺の舌を噛まれる度に俺の背筋を通って快楽が少しずつ身体に流れ出す。
「⋯⋯ッ、⋯⋯」
何度も互いの舌を絡ませ合う度にやがて口内に広がっていた鉄の味が薄くなり、唇からの出血が治まった事を悟ればようやく夕の首元に回していた腕の力を抜いて、互いに顔を合わせる。
「⋯⋯やっぱ切れちゃってるね、唇」
「んな事別にどうでも良いから。⋯⋯途中で止めんな」
「⋯⋯ごめん」
夕の指先が俺の口許に近付き、傷口を優しく無でるように触れる度にピリッ、とした感覚が伝わる。
申し訳なさそうに眉を寄せる夕の表情を目の前にしてしまえば再び時が止まるこの状況さえも、正直もどかしい。
労わるように撫でてくれてる夕の腕をそっと払い除け、軽く身体を起こしてその首元に顔を寄せては軽く口付けながら夕の服の裾に触れた所で、その腕が掴まれてしまう。
「俺が、やるから。ちょっと待ってよ」
「⋯⋯お前が別の事ばっか気にしてっからだろ。待たせんなって言ってんの」
「⋯⋯分かってるから」
拗ねるように軽く唇を尖らせながらあくまでも主導権は自分で握っていたいと主張する夕の言葉に対して、愚痴を漏らしながらも素直に聞き入れる事にしては素直に腕の力を抜き身体を押し返されるまま再びベッドに身体を沈めて。
静かに俺の首元に埋まる夕の顔がそこに擦り付けられたかと思えば、舌先が這う感覚に変わる。
湿った感覚が首筋を無でる様に這い、やがて鎖骨辺りに小さな痛覚がピリッと走る。
素直に身を任せてはいたが、大人しく自由に触れられてんのも正直割に合わないというか、暇と言うか。
ふと、呟くように名前を呼べば、不思議そうに顔を上げた夕と俺の視線が合わさる。
その瞬間、目の前の首筋へと顔を埋めてガリッと歯を立ててしまえばそこに傷跡を作って。
「い゙っ、?!?な、にっ⋯⋯?!?」
「⋯⋯別に」
突然の痛覚に驚いた表情を浮かべる夕の問い掛けに対して、特に意味の無い自分の行動を説明する理由なんて無く。
素直にその事を告げては、更に不思議そうな表情が向けられるだけで。
そりゃあ⋯そうなるだろうな。
「もお⋯アキだって俺の邪魔ばっかして、全然進ませてくれないじゃん。」
「俺だってお前に触る権限はあるんじゃねえのかよ」
「まあそれはそうなんだけどさぁ⋯⋯」
確かに全然前に進まない行為に痺れを切らしてしまった自分も居るが、それ以前に目の前に無防備な奴が居れば手が出てしまうのも当然の事だろう。
納得はいかない様だが、改めて「よしっ!」と気合いを入れて、ガッ!と勢い任せに俺のシャツが胸元まで捲り上げられてしまう。
ムードもクソもねえけど、まあ⋯コイツからしたら俺に何かをされる前にさっさと進めてしまいたいとか、そんな感じなんだろうな。
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