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ふたつの雪だるま 5
「あ〜!!見つけた!!これこれ〜!」
辿り着いたゲーセンの自動ドアを進めば、騒々しい賑やかな音と共に複数のクレーンゲームがずらり、と並んでいてその中には様々な商品が展示されている。
夕が目的としていたそれは今月のピックアップ商品として目立つ場所に設置されていて、早速その存在を見つけた夕が駆け寄り近付いてく後ろ姿に続いてゆっくりと自分のペースで進み近付いて行く。
「う〜ん、まあ⋯余裕でしょ」
景品の設置方法をじーっと見つめた後に、確信したように頷いた夕が手馴れた操作で景品を転がしている。
──意外と言うか、なんと言うか。クレーンゲームが得意分野なのらしく、初めて此処に来た時も俺の分と言って色々と景品を取ってくれた事をぼんやりと思い出す。
普段よく一緒にやっているゲームもどちらかと言えば夕の方が操作に慣れ始める事が多く、ふらふらと頼りなく抜けてるように見えて、意外と何でも器用に出来る⋯⋯んだよな。全然気に食わねえけど。
今回の景品に関しては少し手数が掛かるのか、珍しく悩みながら操作している夕から少し離れて周囲の景品にも視線を向けてみる。
確か、⋯⋯俺が欲しかったヤツ⋯⋯⋯。⋯見つけたわ
定期的に景品情報をチェックしてた際に新作情報として更新されていた俺の好きなゲームのプライズ品の存在を思い出して、早速見つけたその機体に近付いてみる。
二体のモンスターが対になっていて、クオリティーも高めな仕上がりに目が奪われてしまう。
俺一人で獲得出来る自信は無いが、まあ、最終的には夕に頼れば良い。それが普段の流れでもあれば取り敢えずコツを掴む為にも触ってみる事から始める事にする。
「⋯⋯ちげえのかよ」
正直に言ってしまえば、クレーンゲームは苦手な分類だった。
いくら夕のプレイ姿を見て知識はあると言えども、実践にそもそも繋がらない。その理屈も理解出来てなければ俺の意図しない方向にばかり箱が転がり、余計に状況判断が困難なモノになってしまっている。
これは、⋯⋯完全に手詰まりか⋯⋯?
手探り状態でボタンを操作し続けた結果、一定の位置から箱が動かなくなってしまった。
クレーンで箱を持ち上げる様に操作をしても結局は元の場所に戻ってしまい、ミリ単位でしか動いてくれない。
これで終わり⋯⋯か。
こうなってしまえば、後は最終手段。夕を呼ぶしか方法が無いと早々に諦めて1度機体から離れるべく背後に下がったその瞬間、ドンッ、と背中に鈍い衝撃が伝わる。
明らかにそれが人との衝突だと瞬時に悟れば、慌てて背後の人物を振り返り謝罪の言葉を告げる。
「⋯⋯っ、すんません。」
「う、お⋯⋯!いや、全然大丈夫。俺も周り見てなかったし」
どうやら互いに不注意だったのらしく、物腰の柔らかな言葉が返ってきた事に小さく息を吐き出せば改めて伏せていた視線を上げて、その人物に視線を向けてみる。
が、穏やかそうな口調とはだいぶ程遠いその人物は明らかに柄が悪い、と言うかなんと言うか⋯派手な見た目をしてる事に間違いは無かった。
シルバーアッシュの頭髪は器用にワックスでセットされていて、強めの印象とは裏腹に爽やかな雰囲気が溢れ出している。鋭い短めの眉や強めの双眸、バチバチに開いたピアスの数々が耳許にはキラリと光り、何よりもその風貌で高身長なのが威圧感を生み出している。
⋯⋯が、その合間に見せる人懐こい笑顔が全ての雰囲気をぶち壊して、第一印象を全てひっくり返してしまう程の柔らかな空間を作り上げている。
呆然とその人物を見てるだけの俺に対して、更に不思議そうな表情で緩く傾げられる首や、よく見てみればその手に抱えられている景品の種類から、俺と同じ趣味を持つ人物だという事に気付いてしまう。
「⋯⋯⋯あ。⋯ソレ取りたいんだろ?こっそり後ろで見てたんだけど、め〜っちゃ惜しいんだよな」
「惜しい⋯?」
「そ。この場合は、持ち上げるんじゃなくて⋯⋯あっ!これは俺の奢りね。え〜っと⋯こう、押せば⋯いけっから」
俺の視線が自分の手元の景品に向けられている事を知ったのか、うずうずと何かを言いたげに迷っていたその口が開かれて、そして告げられた言葉は俺にとって今1番必要としていたアドバイスであった。
どうやらコツを教えてくれるのらしいその意図に気付けば、台から少し離れてその人物の隣に並び、同じように中を覗き込んでみる。
俺が散々試してた方法とは異なり、別の方法で動き始めたアームは俺が操作してた時とはまるで別の動きを見せて、苦戦していた形を次々と変えていく。
「この動作繰り返したら後はゴールってとこかな。んじゃ、交代って事で」
「なるほどな。⋯⋯さんきゅ」
キリの良い所で俺に変わってくれるその優しさに対して素直に甘える事にする。
教わった通りにボタンを押して、アームを動かしてみる。何度かミスを繰り返してしまいながらも、その度に「大丈夫だから」と丁寧に教えて貰いながらやがて迎えた最終場面。一突きで景品口まで転がっていくその光景を確認する事が出来ては、「っしゃ、」と素直に喜びの言葉が漏れ出す。
毎回この瞬間がたまんねえんだよな。
「おぉ!!1人でも行けんじゃん。なんか⋯俺まで嬉しくなっちゃうわ」
「⋯いや、俺1人の力じゃねえから。寧ろ教えてくれなかったら絶対取れてねえもんな。コレ」
「んまぁ⋯これね〜、結構渋めの設定だったっぽい。⋯俺もだいぶ勉強になったし、逆に助かりますわ」
あくまでも自分の経験に繋がった、と無邪気に笑うその姿につられて、俺も口許が緩んでしまう。早速景品口から手に入れたばかりのそれを眺めながら、そういえば。と目の前に居る人物の手元の景品を指さして。
「ソレ。知ってんの?」
「ん?⋯⋯あ!そうそう、やっぱそうだよなぁ?!このゲーム知ってる人が周りに居ないから、嬉しかったんだよ。同じ景品狙ってる人居んな〜って」
俺の意図がしっかりと伝わったのか、その途端にパッ、と表情が輝いて嬉しそうに語り出す姿を目の前にしてしまえば、俺も同様に感情の昂りを感じてしまう。
名作として様々な場所で公言されてる割には周囲の認知度としては薄く、今回も念願のプライズ品として小規模で展開されている事を確認していれば改めて獲得出来た事に対して嬉しさが込み上げてくる。
「⋯⋯分かるわ〜!あのシーンな。マジで鬼ムズすぎてめちゃくちゃ時間掛かった事しか覚えてないんだよなぁ。」
「でもそのエリアの北側に隠しエリア無かったっけか?そっから行けばスムーズじゃんね」
「隠しエリア⋯⋯?!ちょっと待って、何よソレ」
思いの外、話が盛り上がってしまう。普段からあまり話題に上がる事の無い内容でもあれば、そりゃ積もる話の方が多いわけで。
隠しエリアの場所について、俺から話題を振ってはみたものの詳細を確実に覚えている訳でも無ければ「ちょっと待てよ」と携帯を取り出す。俺の手元を覗き込む様に身体を寄せて来た彼に対して説明する様に携帯画面を傾けて画面を見せてやったその瞬間、「アキ」と、俺の名を呼ぶ声と共に腕が掴まれてそのまま軽く引かれる様に彼との距離を引き剥がされてしまう。
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