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※ ふたつの雪だるま 12

「⋯えっ!!ちょっと待って⋯⋯アキのちんこが俺のよりデカイ事があんの?」 「⋯⋯っ⋯別に変わんねえだろ」 「えぇ〜!なんでえ!アキの方が立派なの絶対間違ってるでしょ!」 互いに精液で汚れてしまった手をどうしたものかとぼんやり眺めて居れば、突然上がる驚きの声にびくり、と俺まで肩が震えて驚きが伝染してしまう。 一体何事かと告げられた言葉に耳を傾けてみれば、あまりにもくだらないその内容に思わず返した俺の言葉には怒りの色が含まれていく。 互いにソレを合わせた状態であれば確かにその違いに視線が向いてしまう気持ちも理解は出来るが 、その言葉を事実だと素直に俺が認めてしまえばそれはそれで分かりやすく機嫌を損ねるのが一連の流れだろう。 だからこそ曖昧な言葉で濁してやったが、それでも納得がいかないと険しい顔で俺の顔と下腹部を交互に見比べるその視線が、正直鬱陶しい。 「んだよ。別にお前のヤツが小さいって訳じゃねえんだろ」 「どう見ても小さいじゃん。アキのよりは」 「それが普通のサイズなんだろ、って言ってんの」 未だに納得がいかないのか、俺のモノをがっと掴みながら様々な角度から観察されてしまえば、流石にこればかりは見逃せずに夕の手を払い除ける。 「やめろ馬鹿」 「⋯こんなの⋯⋯絶対駄目だよ。」 「⋯⋯っ、は?何言ってんの」 突然悩ましげな表情で相変わらず俺の下半身ばかりをじっ、と食い入るように見つめる夕の思考を、中々読み取る事が出来ない。 本当に何なんだ⋯ 「だってさぁ〜!絶対ヤられる側の顔してる癖にチンコは立派とか⋯そんなの絶対キュンってされちゃうじゃん」 「⋯⋯誰目線で語ってんの?それは」 「俺らの学校に沢山居るじゃん。いっつもきゅるきゅるしててさ、掘られたそうな人がそこら辺にうじゃうじゃしてるでしょ?」 「⋯⋯まあ、何となくお前の言いたい事は分かるが」 要するに顔の造形が、って事だろうな。 入学したての頃は女顔の奴等が多い事に対して確かに驚いた事もあったっけか。 此処は本当に男子校なのか、と。 思春期真っ只中の男子校ともなればどうしてもむさ苦しい場所だろうなと勝手にイメージを広げて迎えた入学式。 だが、実際に目の前に広がっていたのは現実は想像とは程遠い場所だった。 どこを見ても顔が整ってる人間ばっかで、その中に紛れている女みたいな見た目のヤツ。そんな奴等が沢山居て、普通にそこら辺歩いてんだもんな。 同じ便所で並んで小便してる時とか、なんつーか⋯コイツ等にもちゃんと立派なモノは付いてんだよな、ってバレねえように覗いた事もあったか。 「⋯⋯絶対にアキのソレだけは見せないでよね。あの人達本当に面倒臭いんだから」 「んな機会ある訳ねえだろ」 「分かんないじゃん。トイレしてる時とかにさ、興味本位で覗かれたらもう終わりだよ?」 ⋯⋯心当たりが有りすぎて何とも言えねえのが辛いか。 「あんな顔して結構ガツガツしてんだから。屋上でよくヤってんだよ。あいつら。」 「⋯⋯へぇ⋯。」 「何が良いんだろうね?みんな似たような顔ばっかしてるのに。⋯それに比べてアキはさ、そういう人達とは全然違うって言うか⋯ほんとに綺麗な顔してるもんね」 「そう、なのか。」 「それでね、すっごい儚いの。すぐ消えちゃいそうなのに、たくまし過ぎて全然そんな事無いんだよね。」 急にスイッチが入ったのか、俺に向けて語られる何度も聞かされてきた言葉。 輝いていて、儚くて、逞しい。どの言葉も互いに矛盾し合ってて何一つ理解が出来ない。 これはなんだ、褒められてんのか?よく分かんねけど。 不可解な俺の表情が夕にも伝わったのか、やけに楽しそうな笑顔を浮かべながら、「よいしょ、」と身体を起こした夕が俺に向けて腕を伸ばしてくる。 その指先が頬に触れたかと思えば、むにっ、と両手でそのまま俺の顔を挟み込まれてしまう。 ⋯⋯あ。こいつ、自分の手が汚れてる事忘れてんだろうな。⋯でも、まあ⋯良いか。 「好きだなぁ〜⋯毎日見ても絶対飽きないくらいアキの事が大好き。」 「⋯⋯そうか。」 「それにね、こ〜んな事しちゃってもずっと可愛いし」 俺の顔を弄ぶように頬を軽くつまんで引っ張ったり、逆に押し潰されてしまったり。 さり気なくその合間に顔面に口付けられる度、自然と眉間に皺が寄ってしまう。 そんな俺の反応でさえ楽しいのか頬に触れながら感触を楽しんでいる姿に、よくもまあ飽きねえよなと瞳を細めて。 「⋯⋯楽しいのか?それは」 「楽しいよ。それにこうやって触ってたらさ、アキの事ずっと近くで見てられるし。」 「⋯毎日見てんだろ。俺の顔なんか」 「毎日でも、何時間だって見つめてられるよ、俺。大好きだもん」 「絶対いつか飽きんだろ、⋯⋯俺が。⋯⋯もう良いだろ。離せ」 「はぁ〜?ちょっと、それどういう事?」 いつまで経っても終わらないこの時間でさえそもそも限界なんだが。 いい加減そろそろ止めろ、と腕を払いながら告げた言葉がどうやら夕の癪に触ってしまったのらしく、不機嫌な表情で俺の顔が再びガッ、と掴まれてしまえば次はなんだと眉を寄せて。 「飽きるって何?アキだって俺の事ずっと見てられるでしょ?」 「⋯⋯お前の顔見てどうしろって言ってんの?」 「別に何もしなくたって良いじゃん。ちゃんと俺の事見てよ」 「見てんだろ、さっきからずっと」 「⋯⋯アキのバカ。」 ふん、と拗ねたように唇を尖らせながらその腹いせか、俺の両頬が力強く引っ張られたかと思えばすぐに離されて俺の胸にトン、と夕の顔が擦り寄せられる。 ⋯⋯普通に痛えが。 まあ⋯それでコイツの気が済むなら、不機嫌が長引かない事に越した事は無いか。 「⋯⋯ね〜え。アキってほんとに俺の事好き?全然そういうこと言ってくんないじゃん。いっつも俺ばっか」 ───まだ不満は残ってたのらしい。 俺がコイツの足の上に座っている事もあってか、起き上がった夕と必然的に向かい合う姿勢で会話が続いていればその表情の変化が分かりやすく、まだ納得が出来ないと拗ねた表情を浮かべていた。 体勢的に少しだけ俺の事を見上げる様な形で抱き着かれている状況も相まって、なんと言うか⋯普段よりも更に幼く見えてしまうコイツの表情に、俺の気も心無しか緩んでしまう。 「お前は俺になんて言って欲しいの?」 「ん〜⋯まあ色々あるけど、やっぱ1番はシンプルに俺のことが好きだって言って欲しい」 「それで?」 「⋯⋯ちゃんと俺の目見て、言ってくれる?」 素直に自分の言葉を確認してくれる俺の言葉にやがて夕の表情から怒りが消え、普段の調子に戻っていく事が確認出来る。 本当に分かりやすい奴だよな。

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