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ふたつの雪だるま 18

─ガリ、ッ⋯⋯ 「痛ッ゛、⋯?!!」 互いに身体を休める為の休息タイム、だった筈。 徐に夕が俺の身体の下でモゾモゾと動き出したかと思えば、俺の首筋に埋まるその顔。 頬が擦り寄せられ、しばらく好きにさせて居ればやがて滑り気のある感触が肌を伝い、そして続けて俺の肩に走る鋭い痛覚。 その瞬間、反射的に夕の頭を思いっきり叩けば身体を起こし噛まれたのであろう箇所に触れてその具合を確認して。 「⋯⋯何だ、お前は」 「⋯だってアキも最後に俺の事噛んでた、から⋯俺もついでにやっちゃおうと思って⋯」 「今更すぎんだろが⋯⋯マジで痛いわ、お前の歯」 元々犬歯として鋭く尖っていた歯が皮膚を突き刺す感覚までしっかりと伝わって居れば、普段は犬らしく愛嬌の良いその口許も、今では凶器でしかねえなと鋭く睨みつけて。 俺のどんよりとした表情に流石にバツが悪くなったのか、ゆっくりと身体を起こした夕が俺の傷口を覗き込んだ瞬間、その顔が歪んでしまう。 が、それよりも、まだコイツのモノは中に入っていて、動く度に中が擦れる事の方がどうしても気になってしまった。 「⋯⋯うわ、!血、出てる⋯っ!」 「そりゃそうだろ。⋯⋯一旦風呂に行くわ」 自分からやった癖に、動揺を見せる夕に呆れた息を吐き出す。 ⋯そもそも、俺が夕の事を傷付ける事はあっても逆は一切無いに等しく、何時だって俺の事を大切に扱ってくれていた、のか。⋯⋯多分。 「大丈夫?」「ごめんね」と繰り返し不安気な言葉が続く中、静かに夕のモノを俺の中から引き抜いて、その際に俺の脚を伝う漏れた精液を軽くティッシュで拭ってしまう。 今にも中から溢れ出してしまいそうな夕の精液をそこに力をギュッ、と入れる事で塞き止めながらさっと立ち上がれば、先に風呂場まで向かう事を告げながら足早に部屋を出て。 俺を追い掛ける様な形で着いて来た夕が風呂場に顔を出した頃には、シャワーを軽く流しながら手早く行っていた処理の最中で。 「⋯⋯あっ、⋯ん?」 「冷えんだろうが。さっさと中に入れ」 風呂場のドアを開けたまま俺の姿を見て呆然と立ち尽くしている夕に向けて言葉を投げ掛けては、粗方その全てを掻き出し終えた事を確認すると再び自分の身体にシャワーを掛けて汚れた下腹部を洗い流して。 「⋯びっ⋯くりした。そう、だよね。中の⋯出さないといけないから」 「お前がゴム付けんのサボった結果だろ」 「まあそうなんだけどぉ⋯でも、良かったでしょ?」 「んなの知らねえわ。お前もさっさと洗えば?」 素面に戻った今、行為がどうだったかなんて直接聞かれても素直に答えられる訳が無い。 夕にシャワーを押し付けて先に浴室から出てしまえば脱衣所で身体をさっとタオルで拭い、そのまま新しい部屋着に着替え直してゆったりとリビングのソファーまで向かうと、ドサッと腰を下ろす。 その途端どっと疲労感が全身を包み込めば、背もたれに身体を沈めながら静かに瞳を閉じて。 こうなってしまえば指先1つですら動かす事がダルすぎる。 その状態のまましばらくソファーに身を預けて居れば、やがて風呂を終えた夕がガチャガチャと何かを探し出す様な音が聞こえた後、俺の目の前でその足音が止まった事に気付く。 「アキ?肩の傷、消毒しよっか」 「⋯別に良い。お前の傷の手当から先にやればいいんじゃねえの」 「俺のはさっきやったよ。後はアキだけ」 閉じていた瞳を薄く開けてみれば、消毒液を手にした夕が隣に腰を下ろして俺の首元を覗き込みながら、襟元を軽く指先で引っ張り中の様子を確認している。 そもそもあんまり好きじゃねえんだよな、消毒液の染みる感覚が。 だがしかし、多分今の夕に何を言っても聞き入れられない事は十分に理解している為、素直に身を任せる事にする。 やがて俺の傷口に当てられたボトルが傾き液体がそこに触れた瞬間、ビリッ、と――鋭い痛覚が広がっていく。 じわじわと伝わるその痛みに眉を寄せて耐えていれば、やがてガーゼとテープを貼り付けて処置をしてくれた夕のその慣れた手付きが、普段俺が夕にしてやる時よりも丁寧で手早い事に気付く。 「⋯⋯お前、やっぱ慣れてんのな」 「まあね、普段から怪我ばっかの人間なんで」 「俺がしてやるよりも早いじゃん。⋯⋯これから自分でやれば?」 「ん〜?なんで?」 ──何で、が出て来るのか。 意外と俺よりも器用な面が多い夕の事、怪我の手当も自分でさせた方が丁寧に出来るだろうと薄々気付いてはいた。 だが、敢えて俺に甘えてやってもらう事をコイツは当然の様に望み、そしてわざわざ俺の元に毎回やって来る。 その習慣を繰り返していれば、まあ⋯突然自分でやれと言われても疑問に繋がってしまう、のだろうか。 ⋯よく分かんねえけど。 やがて救急箱を片付け終えた夕が戻って来たタイミングで、中々立ち上がらない俺に対して疑問符を浮かべた表情が向けられてしまう。 「アキ?寝室に戻らないの?」 「今日は此処で良い。」 「⋯⋯なんのこと?」 「このまま寝るから。お前は先に寝室にでも行ってろ」 「何で?」 ─そう⋯だったな。そう言えば。 毎回俺が寝室以外で寝ると言い出せば、そこから押し問答が続いてしまう事をすっかり忘れてしまっていた。 明らかに不満気な表情で俺の事をじっと見ている夕のその視線から逃れる様に、ダラっとソファーの上に身体を横たえて眠る体勢を整えた瞬間、俺の腰や背中辺りにガッと夕の腕が差し込まれ、そのまま抱え上げられる様に運ばれてしまう。 「⋯⋯っ、お前⋯!⋯絶対落とすんじゃねえぞ」 「平気だよ。だってアキの身体っていっつもガリガリだもん。」 「⋯⋯余計だろ」 「別にほんとの事じゃん。俺と一緒じゃない時とかご飯食べるのサボってる癖に」 夕と俺に体格差なんてほぼ無いに等しいもの、と思ってはいるが、それでも荷物の様に運ばれてしまうこの現状に何だかうんざりとしてしまう。 逆の立場で俺が夕の事を同じ様に運べるかと言われてしまえば、絶対に無理だ。 だからこそなんと言うか、コイツに出来て俺が出来ない事、と言うのがどうにも気に入らないが。 俺が一人の時の行動までしっかりと把握されてバレてる所で、寝室に辿り着きそのままベッドにそっと降ろされる。 「どうせ動くのが面倒だとかそんなヤツでしょ」 「⋯⋯さぁな」 「はいはい。今日はもう疲れちゃったし、さっさと寝よ」 俺の事を簡単に受け流しながら、ドサッと先にベッドの上に横たわる夕のその反応がどうしても癪に障ってしまう。 が、そんな事よりもダントツで眠気を優先させる方が先だった。あまりにも眠過ぎる。 反論を諦めて夕の隣に並び、さっさと寝てしまおうと身体を少し動かせば「此処でしょ」と、腕を引かれて夕の上に戻されてしまう。 まあ、確かにそこなんだが。 夕と居るといつも調子が狂うと言うか、結局は絆され、甘えを受け入れてしまう。 それがコイツの良さでもある、か。

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