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隠し事 1

朝起きて、しばらくぼんやりしてる間にふわぁあ〜、と止まらない欠伸を繰り返す。 俺の上で気持ち良さそうに眠っているアキの温もりが俺の全身を包み込み、とても心地の良い朝を迎える事が出来た。 ん〜っ⋯⋯よく寝た。 俺の寝癖の悪さが原因で定まったこの体勢は俺からしてみれば有り難すぎる状況だった。 今日もこうして無条件でアキと触れ合う事が出来ている。 それだけで幸せだ。 きっとアキが目を覚ましてしまえばすぐに俺から離れてしまう為、今のうちにアキの寝顔でも堪能する事にする。 窓の光に照らされてアキの色素の薄い髪の毛がサラサラと輝き、光っている。閉ざされた瞳を覆う長いまつ毛が肌に影を落とし、その白い肌に映えるようなほんのりと赤く色付いている唇からゆったりとした呼吸が繰り返されている。 ⋯⋯なんか、天使みたい。 輝く髪の毛に反射する光がその頭に輪を作り、それが綺麗なアキの顔立ちも相まって、まるで天使の輪っかの様だと瞳を細める。 寝てる時のアキってほんと⋯⋯綺麗だよなぁ。 普段も目立つその顔立ちは寝ている時こそ一番輝いてるように俺は、感じる。 だって、アキって喋ったら男らしくなっちゃうんだもん。⋯時々口悪いし。 今のうちに沢山見てしまおうと少しだけ前のめりになった俺の体勢が悪かったのか、アキの柔らかな髪の毛がその頬にサラサラと触れてしまう。 それが擽ったかったのか、眉を寄せて身動ぐアキの身体。 あ⋯⋯やば、起きちゃ⋯⋯う、かも⋯? 垂れた髪の毛は次から次へとアキの顔を隠してしまい、その感覚が鬱陶しいと伸ばされた腕で払っている。 が、又すぐにサラサラと落ちてきてしまう髪の束。 何度も何度も自分の髪の毛で顔が隠され、毛先で擽られるその感覚に段々と眉間には皺が寄り、やがてパチリ、と綺麗な二重が前髪の隙間で開いた事に気付く。 最初は眩しそうに瞬きを繰り返していたが、髪の毛が触れていた頬が痒かったのか、ぽりぽりと指先で掻きながらそのまま静かに俺に向けられるその視線。 ⋯⋯目の色も綺麗だもんな。太陽みたいな色をして、いっつもキラキラしている。 やがてパチリ、互いの視線が混じり合えばその瞳が怪訝な表情と共に細められ、そのアキの顔には分かりやすく『何見てんだ』と、描かれていた。 「おはよ、アキ」 「⋯⋯なにしてんの」 「ん〜??何もしてないよ」 「⋯⋯、⋯。」 起きたばっかは反応が悪いらしい。 掠れた声で問い掛けられる言葉が何を意味しているのかすぐに理解したけど、敢えて誤魔化すように緩く首を傾げると、俺との会話を諦めて再び瞳を閉じてしまった。 朝からご機嫌ななめかぁ。 まあ、また寝てくれるなら大歓迎だけど。 ふふっ、と思わず盛れた俺の笑い声がどうやらアキに届いてしまったのらしい。 ぴくり、と再びアキの瞳が開いたかと思えば、チッ、と舌を鳴らす音が聞こえ、ゆっくりと前髪を掻き上げながら俺の身体の上から起きてしまう。 「⋯⋯あんま人の顔じろじろ見てんじゃねえよ」 「少しくらい良いじゃん。減るもんじゃないし」 「うるせえ」 寝顔を見られるのがあんまり好きじゃなさそうな事には薄々気付いていたが、それでも目の前にアキの顔があれば見てたくなるだろう。誰でも。 寝てる時はあんなに静かなのに、起きてしまえばぶっきらぼうな言葉遣いが飛び交ってしまう。 ⋯学校に居る時はもう少し猫かぶってて大人しくなるくせに。 ん〜、とアキの事ばかりを考えて居れば、いつの間にかさっと俺の上から降りて先にリビングまで向かってしまう後ろ姿に気付き、慌ててその後を追いかける。 「朝ごはん作ってあげるけど、何がいい?」 「⋯⋯何があんの?」 「何でもありますよお、昨日色々買ったでしょ?」 そうだっけか、と完全に寝起きそのもので頭がまだ上手く回ってないのらしい。一緒に買い物した筈なんだけどな。 俺の隣で欠伸を漏らしているアキに座って待っているように告げてしまえば、パンをトースターに押し込んで焼きを待つその片手間に冷蔵庫の中から取り出した卵やベーコンにフライパンで熱を通し、パパっと準備を済ませてしまう。 最後にヨーグルトを準備して、ソファーでぼけっと座っているアキの前までプレートを運んであげる。 「出来たよ、お待たせ」 「⋯⋯さんきゅ。」 ⋯⋯このぼーってしてる感じも、良いんだよな。隙だらけで、ついベタベタ触りたくなってしまう。 だけど今日は何だか朝からご機嫌ななめというか、触ったら怒られそうだし⋯諦めて大人しくご飯を食べる事にする。 アキの隣に腰を下ろし手を合わせ、軽く頂きますと呟けばパンを手に取り一口かじって。 「あっ!そう言えばアキさぁ、昨日探し物を取りに戻らないといけないとかなんとか⋯言ってなかったっけ?」 「あ〜⋯⋯、忘れてたわ。教科書の事な」 「そうそう!ご飯食べたらささっと行っちゃう?」 「⋯⋯何?お前も行くの?」 「駄目?」 純粋に探し物を手伝ってあげようかと問い掛けた俺の提案に対して、明らかに嫌そうにアキの顔が歪んでいく。 何をそんなにさぁ⋯嫌がる事無いじゃん。 俺の押しに対してもすぐに答えは出ないのらしく、う〜ん、と悩むアキの姿。逆に何をそんなに拒む事があるのか、そんな反応をされてしまえば当然気になってしまう。 「なんで駄目なの?⋯⋯何か、アキの部屋にあるの⋯?」 「⋯、⋯⋯別に何もねえけど。」 「な〜んか⋯その間が怪しいんですけど」 俺にも隠さないといけない様な大切なものがアキの部屋に隠されている⋯?そうなればアキに駄目だと言われても、俺は絶対に行かなきゃいけなくなっちゃうけどな。 アキの事は俺が全部把握してなきゃ気が済まない。 「何も無いなら行かせてよ。別に隠すような物なんて何も無いでしょ?」 「隠す⋯⋯もの、ってか、⋯⋯。⋯汚ねえんだよ」 「汚い?」 「部屋が汚れてるから、って言ってんの」 あ〜なるほど。アキの部屋で遊ばせて貰ってる時にはその違和感に気付かなかったが、ふとした好奇心からクローゼットの中身とか、隠されてる場所をチラって覗いちゃった時になんと言うか、色んな物が雑に押し込まれてた事を思い出す。 俺が来る時は綺麗に片付けてるように見せ掛けて、そこに全部詰め込んでいるんだろうな、ってものが分かりやすく存在していた。 「気にしないよ、そんな事。俺の部屋だってアキが居ない時は汚れてたりするし、仕方の無い事なんじゃない?」 「⋯⋯なら、良い⋯けど。⋯一応言っとくけど、お前が思ってる以上に散らかってるからな」 「だからそんなの大丈夫だって。アキが教科書探してる間、ついでに片付けてあげるから」 最近は俺の部屋に寝泊まりする事が殆どで自分の部屋に戻る機会が少ない分、片付けまで手が回らないんだろうなぁ。 それならばここは俺の出番でしょ。 アキの為なら何なりと! へへん、と自信満々にやる気を表現して見せるが、当の本人は既に俺から興味を無くし、ぼんやりとパンをかじっていた。 「その卵美味しい?」 「⋯⋯美味いけど」 「今アキが食べてるの、卵じゃなくてパンだけど」 俺の話だって全然聞いてないんだよね。

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