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隠し事 1

今日も俺の胸の上で気持ち良さそうに寝ているアキの首元をチラリ、と覗き込む。 おぉ〜キレイに治ってる! 初めてアキとヤったあの日から、時ある毎に求めていた。今までの距離を埋めるように。 だが、「身体がキツい」「傷が痛い」だの、結局最後まで出来たのはあの一回だけ。俺に噛まれたのがよっぽど痛かったのか、それとも消毒がキライなだけなのか。 俺に比べて、アキは痛みに弱いみたい。 コレっぽっちで?と笑った俺も悪かったけど、怒ってしまったアキに、傷が治るまで絶対触るな。ってお預け状態のままやっと今日、その傷が無くなっている事を確認する。 またアキに触れる事が出来る。その嬉しさで眠気なんて吹っ飛んでしまった。毎朝アキが寝てる時に確認してて良かった。 まだまだ、起きる気配は無い。アキが起きるまで寝かせててあげようかな、なんてのんびりと暖かな温もりに身体を委ねる。 寝てる時に俺に蹴飛ばされてしまう為、いつも睡眠不足だと言うアキはほんとによく寝る。いつも俺より先に眠っちゃうし、朝だってほんとは俺が一番最初に起きてる。そのまますぐ寝ちゃうけど。 寝相が悪い事は十分に理解してるし罪悪感だってちゃんとある。けど、寝てる時の事まではどうしようもない。それに、そのお陰でこうしてピッタリとアキがくっ付いて寝てくれるのだ。スヤスヤ、と胸の上で心地良さそうに眠る寝顔に笑みが零れる。 少し、体勢を変えようと俺が身体を動かしてしまった為、アキの柔らかな髪の毛がその頬にサラサラと触れる。 擽ったかったのか、眉を寄せて少し身動ぐ身体。垂れた髪の毛は次から次へとアキの顔を隠してしまい、その感覚が鬱陶しいと伸ばされた腕で払われる。 が、又すぐにサラサラと落ちてきてしまう髪の束。 何度も何度も自分の髪の毛で顔が隠され、毛先で擽られるその感覚にやがてパチリ、と開いたアキの薄いオレンジ色の瞳。 最初は眩しそうに瞬きを繰り返していたが、髪の毛が触れていた頬をポリポリと、指先で掻きながらそのまま俺に向けられたその視線。 パチリ、互いの視線が混じり合えば、起きているとは思わなかったのか驚いた様に開く瞳。緩く首を傾げながら、「おはよぉ」と声を掛けると寝起きの少し掠れた声で短く返される朝の挨拶。 「今日は沢山寝れた?」 「……まあ、ボチボチ」 「そっかぁ。それなら良かった。…そう言えば、アキ、首綺麗になったね」 「…知ってんのかよ」 「ちゃんと見てたからねぇ。またイチャイチャ出来るね?」 俺の言葉に、首をスリスリと擦りながらバツが悪そうに首元をぎゅっと抑え込む姿。そっと、その首元に腕を伸ばせば「腹減った」と俺の手から逃れる様に身体を起こされてしまう。 「……そうやってすぐ逃げる」 「仕方ねえだろ、飯の方が優先」 「ズルすぎ。アキに優先して貰えるなんてよっぽどだよぉ?俺とご飯どっちが大切なわけ?」 「何、その質問で選んでくれると思ってんの?比べるもんが悪すぎ」 「……ちぇっ、ケチんぼアキ」 ご飯と俺なんて、勿論分かりきった答えではあるがそれでも何よりも、俺がアキの1番でありたい。 いつまでもやり取りが続いてしまう事を悟ったのか、さっさとベッドから降りてしまうアキに続いて慌てて飛び起きればその背後から抱き着いてアキの顎を掴めば俺の方に顔を向かせて触れるだけの口付けを。 毎日の様に行っているソレ。段々と慣れてきたのか、流す様に「歩きずらい」とだけ愚痴を漏らながらも俺を離す事は無く歩き続けるアキと一緒にリビングまで。 「俺はねえ、パン!」 「いつも食ってるだろ、知ってる。んで他には?」 「ん〜何にしようかなぁ。あっ!ヨーグルトとさ、ウインナーとかあったでしょ?」 手馴れた様に食パンを取り出してトースターにセットするアキの後ろ姿を追い掛けながら、朝食のメニューを考えてみる。 一旦冷蔵庫の中身でも確認しながら考えてみようかと、ドアを開けば中を覗き込みながら食材を取り出す。 ヨーグルトにウインナー、あ、トマトも有るじゃん。スクランブルエッグ…とか作ればそれ位で良いかな。なんて考えながら全てを手に取ると調理台に並べていく。 「夕、トマト食えんの?」 「え?大好きだよ、俺。野菜全部嫌いだと思ってたでしょ?案外いけるものもあるんだなぁ」 「……へえ、めずらし。俺はそれ、良いから」 「うそ、アキにも嫌いな物があるの?……ふ〜ん。トマト嫌い、なんだぁ」 「嫌いじゃない、苦手なだけ。んな偉そうにされても別に悔しくないけど。お前とは比べもんにならねえし」 「あ!絶対意地張ってるでしょ今!うわぁ、そんな可愛いことしちゃって!子どもみたいだねぇ」 あくまでも嫌いではない、そう言い張る言葉は普段の俺の意地っ張りとなんだか似ていて。 だからこそ、すぐにアキの強がりに気付いてしまえばにこにこと笑いながらその顔を覗き込む。 気に入らない、と完全に冷めた表情で俺の前を通り際、思いっきり足を踏まれてしまえば痛みに声を上げながらその場にしゃがみ込む。 勿論、わざと踏んだのだろうが踵を重心として上からゴンッ!と音が鳴り響く程に加減無くアキの足を踏み落とされてしまえば、それはもう激痛で。足をギュッと掴みながらその痛みに悶えては曲げた膝の上に顔を乗せて痛みが引くのを待ち。 「っ゛〜〜!!!ぜ、ったい今の、俺の足の骨がバラバラになっだぁ〜!!」 「男に可愛いって言われてもなんも嬉しくねえわ。良い加減言葉に気を付けろよ」 「……女の子にだったらいいわけ?それにアキだって口は悪いでしょ」 「ほんとに減らず口だよな、お前は」 呆れた様に息を吐き出しながら、痛みに動けずに居る俺を他所に調理台に並べた食材を確認し始めるアキの姿。マジで痛すぎる。 多分アザになるんじゃないの?なんて足の甲を擦りながら、最近何かとすぐに手や足が出るアキの姿にそれがきっと本性なのだろうと大人しそうな顔に合わない暴君ぶりの被害を思い出せば、この先が思いやられると肩を落とし。 まあ、それをさせてるのはワガママな俺なんだけど。お互い様って事で。

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