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隠し事 2

さっさと朝ごはんを食べ終えて身支度を始める。 久しぶりに行くアキの部屋、何だか思ってるよりも楽しみかもしれない。 部屋着からほとんど見た目の変化は無いけど、一応動きやすい格好としてオーバーサイズのパーカーやスウェット生地のパンツに着替えると、髪も簡単に一つにまとめる。 アキも俺と似たようなラフな格好に着替え終えていて、互いに準備が出来た事を確認すると早速玄関まで向かう。 「⋯⋯なんか女と居る気分」 「なに⋯⋯?それって俺の事言ってる?」 「お前以外に誰がいんの」 玄関で腰を下ろして解けていた靴紐をせっせと結び直していれば、ふと背後から聞こえてきた言葉。 俺が女みたい⋯? ⋯⋯まあ確かに、髪の毛を結んでしまえば後ろから見た時にそうやって見えてしまうのも理解は出来る。けど、なんか⋯アキからそんな言葉はあんまり聞きたくないと言うか、似合わないというか。 でもさあ⋯もしかしたらそういうのが良いとか、あるのかな。 ふと、俺の中でどうしようも無い不安感が浮かび上がってしまう。女の子⋯かあ。 「⋯⋯ねえ、アキってさ⋯実は女の子らしい方が好き⋯だとか、⋯⋯思ってたりするの?」 顔を上げて背後を振り返れば、俺の後ろ姿を見ていたアキとバッチリ視線が合う。 一体急に何だ、とでも言いたげな視線が俺に向けられる中、浮かんだ疑問を問い掛けてみる。 「はあ?⋯⋯一々そんな事確認すんなっての。自分の事くらい好きにしてろ」 俺の問い掛けや、不安たっぷりの顔を見て盛大な溜め息が吐き出される。 そして段々と眉間に寄ってく皺がその不機嫌さを表現すると共に、「さっさと出ろ」と靴を履き終えた俺を押し退けるアキに押されるがまま、ドアを開けて外に出る。 ──ほんとにどうでも良さそうな顔してたよな、今。 でもまあ今の俺にはその態度がすっごく有難いというか⋯つまりは俺らしく居ても良い、って事だよね。 相変わらず優しいんだから、アキは。 ふふん、と上機嫌に笑っている俺をちらっと見ただけで、すぐに先を歩き出してしまったその後を慌てて追いかけながら、相変わらず冷えた外の温度にぶるりと身体を震わせる。 ─ガチャリ、とおとをたててアキの部屋の扉が開かれる。 アキに続いて俺も中に入り、靴を脱ぎながらチラリと目の前に視線を向けてみる。 「⋯⋯うわっ⋯、⋯⋯じゃなくて⋯お邪魔します」 「⋯⋯。」 反射的に思わず素直な反応が出てしまった事をすぐに後悔する。 すっ⋯⋯ごいなぁ⋯こりゃあ。 俺の目の前には、既に物が溢れ返っている廊下がリビングまで続いていた。 何をどうしたら⋯こんなになっちゃったんだろ。 部屋に入ってからと言うものの、やたら無言で廊下を突き進んでいるアキの後ろ姿に続いて部屋に上がらせてもらう。 その最中にも、足に当たった荷物を軽く廊下の隅に蹴って寄せながら歩いてるアキの姿は慣れたもので、多分普段からそうやって過ごしていた事が簡単に予想出来た。 「あき?それでさぁ教科書を置いてそうな場所とか、目星はついてるの?」 「⋯⋯いや。一旦部屋中探して回ってんだけど、全然見つかんねえわ」 おぉ?⋯⋯なるほどなあ〜!! 色んな場所を手当り次第にひっくり返して探し回っているアキの姿が、今の現状とぴったり重なった。 なんか誰かに荒らされた後みたいな汚れ方してるなあ、って思ってたもんな。 それなら片付けを手伝う事よりも、教科書探しから一緒に進めた方がこれ以上部屋を汚されない為の方法と言うか、俺が側で一緒に探してあげる方が早そうな気がしてきた。 その為には少しでも記憶を思い出してもらいたい所。 「俺の部屋に来る前はさ、何処に教科書とか置いてたの?その近くにあったりしない?」 「あ〜⋯それなら寝室とか。リビングとか他の部屋では無いと思うけど。」 「じゃあそこに行こうよ。一緒に探して、さっさと見つけちゃお」 「分かった」 俺の言葉に納得して後を着いて来てくれてる事を確認しながら、寝室まで向かう。 まあ⋯ある程度覚悟はしてたけど、そこでもなかなか凄い光景が広がっていた。 一生懸命探してたんだろうな、って痕跡が沢山残されていて、いつも遊びに来た時はしっかり閉じていたクローゼットは開けっ放し、ベッドの上には色んな物がひっくり返されていた。 「俺がクローゼットの中見てみるから、アキはベッドの上とかもっかい探してみてよ。もしかしたらその中に混ざっちゃってる事もあるかもしれないから」 これ以上被害を抑える為にも、物が多そうな場所は俺が率先して担当してしまう。 それにしても、どうしちゃったんだろ。 さっきから俺の言葉に対して頷くだけで、妙に反応の鈍いアキの顔をチラリとさり気なく盗み見てみる。 なんか、気まずそ〜な⋯難しい顔をしてた。 多分俺の反応も気にしてるんだろうけど、あんまり乗り気じゃない事はしっかりと伝わってくる。 アキでも緊張する事とかあるんだ。いつも澄まし顔で何にでも動じなさそうなアキの貴重な顔を、ここぞとばかりに俺の記憶の中に納めていく。 そうしてる間にも早速クローゼットと向き合えば、簡単に物の整理をしながら中を覗いてみる。 散らばっている衣類は畳んで、漫画や雑誌等はそれらしき収納場所に並べていく。ゲーセンで獲得したプライズ品も奥の方に詰め込まれていて、クレーンゲームの苦手なアキに代わって俺が取ってあげてたものばかりだった。 ちょっと、多すぎかもなぁ。 これからはゲーセンに行く回数も減らさないと、アキの部屋が物で埋め尽くされちゃうな。こりゃ。 ──あれもこれもと休む間も無く夢中でせっせと片付けていれば、いつの間にか時を忘れてしまっていたことに気付く。 はっ!と顔を上げて周りに視線を向けてみると、入って来た時とは比べものにならないくらい、周りの物が減っていた。 そして、ついでにアキの様子も確認してみようと背後に視線を向けてみれば、悠々とベッドに寝転がって漫画を読んでいた。 「えっ⋯⋯嘘だよね?」 「⋯何、終わったの?」 「まあ少しはマシになったけど⋯⋯じゃなくてさぁ!アキは何やってるの?!教科書は??ベッドの上は探せたの??」 「何処にも無かったけどな。そこの棚の中にも無いし、⋯⋯あ。ここの引き出しはまだだったわ」 「⋯っ⋯待って!!分かったから!⋯⋯いいよ、アキは漫画読んでて。俺が探してみるから」 確かに言われてみれば物を探した形跡は残ってるけど、逆に物が増えてない?なんで?? 思い出したように身体を起こしてベッド横のサイドテーブルに手を伸ばしたアキが、その中から色んなものをひっくり返し始めている。 なるほどなあ!!!そういう事でしたか!! こりゃいつまで経っても終わんないわけだ!! これ以上の被害を抑えるために慌ててアキの腕を引っ張って行動を止めると、読みかけの漫画を押し付けてベッドから動かないように念を押す。 まったくもお⋯⋯。 でも、そんなとこにもキュン、ってしちゃう俺もどうかしてると思うけど。 しっかり者のアキよりも、今くらいの方がちょうどいい感じ。

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