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隠し事 3

「あ〜っ!!ねえアキ、こんなとこに教科書置いてたら分かんないじゃん」 「⋯そこにあったのか。」 「でも、これは違うやつでしょ。」 アキに大人しくしててもらう事で、気持ち早めに片付けが進んでる気がする。 クローゼットの中に積まれてた衣服を整理してく事で、その服の間に埋まっている教科書の数々。 なんでこんなとこに教科書が?? むっ、と怒った表情を浮かべて見せながら、いくらなんでもこれじゃあ探しにくいと不満をぶつけてみれば返す言葉が見つからないのか、またしても言葉数が少なく、当たり障りの無い返事が返ってくる。 ちゃんと反省は⋯⋯してるっぽいな。 なら良いんだけど。 「⋯⋯俺も手伝おうか」 「大丈夫だから、ゆっくりしててよ。これは俺が勝手にやってる事だし」 流石にバツが悪くなったのか今にも動き出しそうなアキに向けてすぐに制止の言葉を伝えながら、一応フォローの言葉も続けていく。 再び漫画を片手にごろんと寝転がったアキの姿を確認した後、教科書が出てきた場所を重点的に片付けていく。 確か、お下がりの教科書だって言ってた気がするんだよなあ⋯卒業生から告白ついでに貰ったとかなんとか。 相変わらずモテモテですよねえ。 え〜っと⋯探してるのは数学の教科書だっけ? これは化学で、んと、国語⋯も違うじゃん。 同じ箇所から次々と他の科目の教科書は出てくるが、本来の目的としてる教科書は中々見当たらない。 そうしてるうちに気付けばクローゼットの中がだいぶスッキリしていて、広々としたスペースが広がっている。 「ふう⋯。ねえアキ見て!すっごい綺麗になったんじゃない?」 「あぁ⋯お陰様で」 「⋯⋯それじゃ足りない。すっごい頑張ったでしょ?俺。もっと褒めてくんなきゃ駄目だよ。えらいえらい、ってして。」 「⋯⋯偉いな、お前は」 一旦片付け状況の報告をアキに告げてみる。振り返って、ベッドの上に居るアキの元に近付きその顔を覗き込みながら期待に満ちた瞳を向けてみたけど、⋯⋯違う、そうじゃない。 改めて要望を付け足し、唇を尖らせてみれば俺の言葉通り、ゆっくりと俺の頭にアキの腕が伸びてくしゃり、と髪を撫でられながら柔らかな口調で告げられた言葉。 ⋯⋯頑張って良かった。 横たわったままのアキに抱き着く様にぎゅっと腕を回し、胸元に頬を寄せるとそのまま俺の頭を撫で続けてくれるアキの手が心地良くて、にこにこ笑顔が止まんない。 ──あ、そうだ。 この際だし、もっとオネダリしちゃおっかな。 「あき?この部屋の整理が終わったらさ、久しぶりにヤらせてよ」 「さては、それが目的か?」 「そうじゃなくて、今の雰囲気ならついでにいけるかなって思って」 「お前はいっつも隙ばっか狙ってるよな」 あくまでも今咄嗟に思いついたおねだりってなだけで、別に元々その気が無かった事を知らせる。 最近ずっとご無沙汰だったし⋯。 ──初めてアキと身体を重ねた時に、俺がアキの肩をガブって思いっきり噛んじゃった事が気になって仕方ないのらしい。 まあ、傷の事が気になる⋯と言うよりは、単純に消毒が嫌いだったらしいけど。 絶対にアキの傷の手当をしたい俺と、別にそんなことどうでも良いと拒むアキとちょっとした揉め事の末、俺はアキの傷が治るまでお預けで、アキは素直に消毒を受け入れる流れで何とか場を収める事が出来た。 そもそも何でそういう流れになったんだっけ⋯ なんか、「お前がヤる事しか頭にねえから調子に乗ってこうなってんだろ」ってブチ切れてたような気もするし。 そっから、俺に触るなら下心全部捨てろだの、治るまでお前とはヤんねえからとかなんとか⋯結構グズってた気がする。 アキらしいと言えばそうなんだけど。 そもそも俺だってアキに噛まれてっからね。すっごい思いっきり、力加減も無しで。 ⋯⋯普通に痛かったなぁ。 まあ、その事は一旦置いといて。 毎日目の前で傷が治ってく過程をしっかり確認してたからこそ今はその傷も綺麗に治ってる事だって知ってるし、そもそもお預けにしては長すぎる期間、よく耐えた方だと思うけどね。 俺だって思春期真っ只中の男の子なので。 「⋯⋯ダメ?肩の傷だって、もうちゃんと綺麗に治ってるでしょ?」 「⋯まあ、別に良いけど。今度は力加減ちゃんと覚えろよ」 「はぁ〜い。もう絶対アキに傷は付けないから」 アキの顔を覗き込みながら、誠心誠意を込めてしっかりと誓いを立てておく。 きりっ、と真面目な顔でアキの事をじっと見つめていれば、やがて小さくこくりと頷いて納得した表情を浮かべている。 嬉しさの余韻に浸りながら、アキにぎゅっと抱き着いてしばらくの間その温もりに身を寄せる。 ずっと動いてた俺よりも、寝てただけのアキの身体の方があったかく感じる。 アキは俺の事冷たいって言うけど、アキだって暖かすぎるもんなあ。 俺は冷たくて、アキは暖かい。 やっぱ俺たちって最高の組み合わせじゃない?? 最後にぎゅっと力強くその胸に抱き着いてパワーチャージをしていく。 まだまだやることは沢山残されてるからね! 「よぉ〜し!残りも頑張るぞお!」 「⋯⋯あぁ。」 相変わらず、まだ気まずさは健在してるらしい。 別に良いのに。 俺が元気に作業してたら、アキも気にならなくなるかな。 ふふん、と軽快に鼻歌を歌いながらクローゼットの前まで戻ると、残りの作業に取り掛かる。 何だかそろそろ見つかりそうな気がするんだよなぁ〜!

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