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隠し事 3

「わ、あ……思ってたよりも……凄いね」 「……だから言ったろ、ぐちゃぐちゃだって」 先にドアを開けて部屋に入るアキの後ろに続いて、靴を脱ぐ。 まだ此処は玄関前、の筈なのだが、寝室やリビングまで続く廊下には既に物が散乱していて、歩くのが、その、とても難しい。 何をどうしたらこんなに汚れてしまうのか、逆に凄い事なのではと緩く首を傾げるが、直接本人に聞いてみるにしては難しい質問だと心の中にそっとしまい込む事に。 「何処から探そっかぁ……心当たりとかはあるの?」 「いや、全く。一応全部の部屋探してんだけどまだ全然見つけられないし。……多分寝室の方が可能性は高い、気もする。」 取り敢えず目星をつける事から始めるべきだろうと聞いてみる事にするが、その場所さえも分からないとの事。……なんか、さっきの答えが分かった気がする。 「じゃあ、俺寝室に行くからさ。アキは他の場所とか探してみてよ」 「あぁ……悪いな。」 寝室、その言葉を聞けば、じゃあそこから重点的に探してみた方が効率も良いだろうと足元に散らばる衣服や漫画、その他諸々を拾い集めながら寝室まで向かう。 まあ想像はしてたけど…ここも中々凄い。ドアを開けて中に入ってみれば、勿論足の踏み場は全く無い。ベッドの上に散乱する衣服は勿論、クローゼットの扉も開放されたまま、色んな物がひっくり返されている。……この状態で、どうやって探し物を…? 「ん〜…ちょっと……流石に片付けから、だよねぇ…」 普段のしっかり者なイメージのアキからは想像も出来ないくらいに散らかりすぎた室内をぐるりと見渡す。このままでは探し物所か移動する事も難しい。 取り敢えず簡単に物をまとめる事から始めてみる。 衣服はまとめてたたんでベッドの上に。漫画は、多分元々そこにあったのだろう棚の中に戻していけば、日々のゲーセン通いで溜まりに溜まったグッズ等も並べて端の方に寄せていく。 これからはゲーセンに行く回数を、ちょっと控えた方が良いかもな。これ以上アキの部屋の物が増えてしまうのは困る。 「…だから、時々俺が部屋に行くことを渋ってたんだぁ。これじゃ…確かに、ねぇ」 そう言えば、部屋の中に俺を入れてくれる事も少なかった様な。過去の行動がふと蘇ってくる、 きっと遊ぶ時にはクローゼットや見えない場所に物を詰め込んで居たのだろうか。何だか今までのアキの行動と色々な点が重なり合った様で、納得出来た。 その後もせっせと部屋の片付けを進めていく。1度始めてしまえば案外夢中になるもので、床を埋めていた物は殆ど無くなり、スムーズに移動がしやすくなった。ついでに教科書も探しているつもりだが、中々見つからない。頑固者め ………あれ?ふと、ドアの向こうから聞こえてくるテレビの音。何故か、それ以外の物音は一切せず、しん、と静まり返っている。 まさか、ね。俺だけ頑張って探してるとか、そんな訳がないよねぇ…。 一応、念の為にアキの様子を確認してみることに。寝室のドアをそっと開けてリビングを覗いてみる。 「……あきぃ…?うそ、でしょ?」 「……今から探そうと思ってた。寝室に無かったのか?」 想像はしていたが、ソファーにぼけっと座りテレビを見ていたアキの姿。俺が名前を呼ぶ声で、ハッとした表情を向けられる。そして嘘が見え見えな言い訳。 やっぱりなぁ。 「ちょっと片付けからしちゃおっかな、って思って。勝手に色々触っちゃってるけど、大丈夫だった?」 「全然、夕が探しやすい方法で進めて貰えれば。……マジで助かるわ」 一応最初の方はちゃんと探していたのか、少しだけ足場が出来ている。ここもまた、凄いんだけど。 先に確認するべきだった、片付けの方法を問い掛けてみれば何も気にならない。その返事にほっと胸を撫で下ろす。 そして、また自然な流れでテレビに戻される視線。多分これは無意識なんだろうけど、それにしてもアキがこの調子じゃ何も進まない。 よし、と気合いを入れ直してアキの元まで向かえばその手に握り締められていたテレビのリモコンを奪い取ってテレビを消してしまう。そのまま、そのリモコンを俺のパーカーのポケットの中に突っ込んでしまえばアキの腕を引っ張って立ち上がらせる。 「アキ、このままだったら夜になっちゃう。もう少し頑張って探そ?寝室と此処。他の場所には無いと思うから、その二箇所だけ探せば見つかるんじゃない?」 「……分かったよ、また探してみるから。……でも、13時になったら飯食いたい、かも」 「良いよ。じゃあそれまで頑張るよ?いい?もし、どうしても無理ってなった時は俺の事呼んで。一緒に探してあげるから。……リモコンはこのまま預かってるからね」 きっと昼ごはんも探し物から逃げ出す為の理由付けだと気付いていたが、先に目的がある事で目の前の事に集中出来るのならと快く頷き。 まるで小さな子供に言い聞かせる様に、アキの手を握り締めながら目の前の瞳をじっと見つめては、助け舟の提案も告げる。最後ににこりと笑みを浮かべてアキの額に触れるだけの口付けを落とせば、再び寝室まで戻って作業の続きを。 「……子どもみたいで、可愛かったなぁ…アキ。ほんとに、ぶきっちょさんだよねえ」 少しずつ、化けの皮が剥がれてきたアキの姿が愛しくてたまらない。頼もしそうに見えて案外すっからかんなその裏側。 きっと俺の前だけなのだろうけど、それで良い。 「っよし、俺もまた頑張りますかぁ。アキがまた疲れちゃう前に、見つけてあげたいしねぇ」 さっさと見つけ出すか、此処には無い事を確定してアキの所を手伝った方が良いだろう。覚悟を決めては手早く物を片付けながら、まだ探し終えていない場所に手を付けて。

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