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隠し事 4
クローゼットの中を整理しながら、その全てを一応確認していく。紛れ込んだりしてたら余計に探し出すのが大変だし。
コート類はハンガーに掛け直して、無造作に転がっている下着は……これ、アキのパンツかぁ。なんて一つ一つを丁寧に眺めた後、それもケースの中に片付けていく。
頑張ってるんだからこれ位の事はね、許されなくちゃやってらんない。
しばらくの間、同じ様な作業を続けていく。やがて溢れ返っていたモノが減っていくと共に、少しずつ出て来る教材の数々。こんなとこにあったのね。
学校で使う物をまあ、こんな物奥に入れてちゃ分からないよなあなんて、やっと目星の立った探し物。
「よし、こうやって分かりやすく置いてあげてたら…さすがのアキでも見つけられるよね」
教科書一つ一つを確認しながら、全てを手前の方に寄せて行く。これで今後もすぐに探し出せるし、何よりも部屋を汚さずに済むでしょと早めの対策を。
次々と似た様なノートや教科書は出て来るが、中々目的の物は見当たらない。まさか、この場所に無いとなれば又途方も無い物探しが始まってしまう。
流石にがっくりと肩を落としながら、それでも残り僅かな希望を残して作業を続けていく。
ふと、1番奥の方で無造作に置かれた紙袋を見つけては、首を傾げて引き寄せる。まさかな。なんて思いながら中を覗いてみれば、やっと見つけた目的のモノ。
他にも、2、3冊同じ様に教科書が中で重ねられて入れられていた。
「………あ〜っ!やっと見つけた。…そりゃ分かんないよこんなの」
なんでわざわざ紙袋に、なんて残る疑問はすぐに掻き消され早速見つかった事を教えてあげようと、紙袋の中からまとめて教科書を取り出していく。
が、その奥の方に押し込まれた、教科書とは異なる硬めの感触のモノ。
一体何だ、とそれを取り出して確認してみれば、何かしらの映像コンテンツのパッケージを示す説明書きと共に、所々に映し出されている、その、絡み合う裸体。
「あ、え…?う、そでしょ。あんなに健全です!みたいな顔したアキが、ねぇ…?ん、んん?」
一瞬で停止する思考。あまりの衝撃に震える指先でそれを裏返し、表面の確認をしてみる。
……これは明らかに、アレですねえ。やっぱり男の子の部屋にはこう言うものが隠されている事があるのか。なんて、あまりにもアキに似合わない『AV』という単語を口に出してしまうのもなんか、リアルすぎて躊躇してしまう。
しかも、問題点はその表紙で絡み合っている二人の見た目だ。ペチャンコな胸元に下半身には立派なモノが付いていて、一瞬見ただけでもすぐにそれが同性同士の性行為を見て楽しむモノだと理解出来る。
「うそ……実は、ずっと、男の子の事が好きだったの……?それ、でこれを見て勉強、と言うか…練習、と言うか…。うそ…アキがぁ……?ほんとに……?」
今までその様な素振りと言うか、性癖と言うか。そういう事は一切聞いた事もないし、同性の恋人は俺が初めてだと言っていた、筈。
ずっと隠していたのか?なんて次々生まれる疑問に悶々と思考を悩ませながら、まだ紙袋の奥の方に隠されている同じ様なパッケージをチラリ、と確認する。
なんでこんなものが、しかも、他にも……?
もしかして、部屋を出る前に俺に言ってた「女の子みたい」って言葉も、男らしくないのが嫌だったのか……?髪、切った方が良いのかなあ……なんてますます思考は複雑な方向へと転がってしまう。
止まらぬ思考回路、いつの間にか長い事悩んでいたのらしい。
ガチャリ、と背後でドアの開く音。はっと我に返り振り向いて見れば見違えた部屋の中身に感動の声を漏らしながら、俺の元まで近付いてくるアキの姿を確認する。
「ゆう、飯食いに行こ……って、うっわすっげえ綺麗になってるじゃん!ヤバすぎ。お前凄いのな」
「……あ…、ま、まぁ、ねえ……。ずっと、頑張って、たから、あ…」
「……有難う、助かったわ。……は?!しかも、教科書まで見つけてんじゃん!!夕、天才」
俺とは真逆のテンションで、部屋が綺麗だとご機嫌に観察しているアキの姿。やがて、俺の側に置かれていた本来の目的、ずっと探し求めていた教科書の存在に気付けば更に瞳を輝かせて喜ぶその姿に、俺は、あまりにも不自然で引き攣った笑顔を見せる事しか出来なかった。
そうなれば、やっと気付いたいつもとは違う俺の反応。眉を寄せて、不思議そうな表情を浮かべながら俺の顔をまじまじと見つめるアキの瞳とパチリ、視線が合わさる。
「……なんか変な顔してるけど、何…?…あ〜…もしかしてアレか。流石に部屋が汚すぎて引いたとか、そんな感じか」
「そんな事は絶対に無いよ。アキの部屋がどんなに汚くても、それもまとめて俺はアキの事が好き。そんな事で引かれると思わないで。そうじゃない、ケド。その、なんて言うか、ん〜…どお、しよ?」
部屋を片付ける事がうまく出来ない、実はアキなりに悩みの種だったのだろうか。…なんて、そんな可愛い事を今まで気にしてたんだろうな…ほんと、何処までも愛おしい。
それにしてもこのAVについては、ちょっと、次元が違うって言うか、色々聞いてみたい、ではあるけど。
「…違う、のか。まあ、なら良いけど……だったらその顔は何、って聞いてんだけど」
「ん〜?……なんだろ、ん〜、ほんとに、わかんないんだよねえ…」
本人を前に、正直に聞いてしまう事もなんだか、申し訳ないというか。こんなものを見つけてしまった、だなんて、言葉にしにくい。難しいかも。
と言うか、この紙袋が奥に置かれていた様に、誰の目にも届かない所に隠してしまいたかったのだろう。
素直に問い掛けてみてもいいものか、これも悩みの種の一つだったのではないのだろうか、なんていつまでも曖昧にうだうだと言葉に迷ってしまう。
別にどうだって構わないのになぁ…アキの悩み事なんて俺が全部どうにかしてあげる。
でも、流石にこればかりは、ちょっと、センシンティブなのかもしれない。分かんないけど。今、それがまだバレてないのであれば、アキに見えない様に隠してしまえばいい。
「…分からない事を言ってみろよ。…それか、その後ろに隠してるもんでも見せてみりゃ答えが出るんじゃねえの?」
「あっ!!ちが、うかもしれない!!それは、分からなくても良いやつ!!」
あまりにも不自然に外された視線やモゴモゴと動く俺の腕の存在に気付いたのか、やがて近付いたアキの腕が俺の手を捉える。慌てて力を入れるが、時すでに遅かった、みたい。
引き寄せられるがままにそのパッケージを持ったままの手元を晒け出してしまえば、うっ、と息を呑みながら、恐る恐る見上げる形でアキの表情を確認して。
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