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隠し事 4

出てきた教科書をまとめて、分かりやすい場所に並べて置いていく。こうする事でわざわざクローゼットの中を漁らなくたって見つかりやすい様に。 どうせまた何かを探すタイミングで荒らされちゃうのは承知の上で、それでも目に付きやすい場所に置くのは大切だよね。⋯⋯そもそも何かを探す事が苦手そうだったし。 そろそろ片付けが終盤に差し掛かってきた頃、ふと、1番奥の、その隅の方にポツンと無造作に置かれた紙袋を見つける。 なんだあれ⋯⋯?? 引きずるように紙袋を手に取ってガサガサと音を立てながら、躊躇無くその紙袋の中を覗き込み中に入ってるものを取り出してみる。 「⋯⋯あ〜っ!みつけた!!そりゃ絶対見つかんないよ!」 こんな奥の方に、しかも紙袋の中だなんてそりゃ探しても探しても見つからないわけだ。きっと貰った状態のまま、適当に置かれてた事がこの状態から伝わってくる。 そりゃ、これだけ離れた場所にあるだなんて思いもしないもんな。 「⋯⋯そうか、忘れてたわ。」 俺の声に気付いてやって来たアキが、俺の手元を覗き込みながら納得のした表情を浮かべている。 が、すぐに何かを思い出したかのように急に彷徨う視線と、何故か、ダルそうな表情。 「悪いけど、その紙袋一旦そのまま渡してくれないか?」 「⋯⋯どうぞ」 俺に向けてアキの腕が伸ばされるがまま素直にそれを渡せば、その中を覗き込みながら、また、複雑な表情を浮かべているアキに疑問を抱いてしまう。 「なに⋯⋯?さっきから。すっごい微妙そうな顔してるけど⋯」 「いや、別に⋯⋯。⋯見つかったんなら良いんじゃねえの」 「⋯⋯ねえ、ほんとに何?⋯ソレ俺にも見せてよ」 何かを言いたそうに、だけどすぐに諦めてしまうアキのその態度が更に俺の中の疑問を膨らましてしまう。 明らかに何かを誤魔化そうと、俺から紙袋を遠ざけようとしてるアキの顔をじっ、と見つめながら、静かに腕を出してもう一度俺の要求を通して。 「それ、ちゃんと見せてよ」 「見てどうすんの」 「別にどうもしないけど。ただ気になるから俺にも見せてってだけじゃん」 「⋯⋯本当に何も見てねえのか?」 「⋯⋯教科書が入ってただけ。それ以外にも何かあるんでしょ?」 一体なんなんだ。 俺の中で更に謎は深まってしまう。でも、俺の問い掛けに対して特に何も言葉にしないアキの態度から、絶対に何かが隠されてる事はすぐに分かった。 やがて、諦めたようにアキがもう一度紙袋の中に視線を向けた後、そっと俺に差し出されるソレ。 こうも慎重に渡されてしまうと、なんだか緊張しちゃうな⋯⋯。 受け取った紙袋を開きながら、ドキドキ⋯と胸の高まりを感じる中で、その中身を覗き込んでみる。 他にも別の教科書が2、3冊に、あとは⋯明らかに教科書とは質感の違う⋯⋯?ん?何コレ? 教材関連のものか?とそれを取りだしたその瞬間、その違和感にすぐ気付いてしまう。 「えっ?!?!な、っ⋯⋯、っえ?!アキっ、!!!」 これは⋯!!いわゆる、えーぶい⋯ってやつじゃないですか!!ビックリした!! 思わずアキの腕をガッ、と掴んで、その顔を覗き込む。焦る俺とは対照的に、だから言わんこっちゃない。とでも言いたげに呆れた顔で俺を見ているアキの姿。 なんでそんな冷静で居られる?! 「な、んで⋯⋯っえ?!どうしたの?!!」 「⋯⋯どうかしてるのはお前の方だろ」 「ちが、っ⋯!!絶対、絶対そんなの違うじゃん!!アキの部屋にこんなのがあって良いわけが無いし、そもそも絶対アキのじゃないから!!これ!」 すっごい⋯気が遠くなりそうだ。本当に理解が出来ない。そもそもアキがこんなものを見るほどガツガツしてる訳が無いし、こんなのをアキが!見るわけがない!!絶対嘘だ!! 感情のまま、勢いで伝えた言葉。自分でも押しつけが過ぎることは理解してるけど、それでも理解は出来てない。何もかもちぐはくだった。 あっ⋯そういえば。 ここに来る前にアキが俺の事女みたいだ、って呟いてた言葉を思い出してしまう。 あの時は俺の好きにしろ、って言ってくれてたけど⋯⋯やっぱり、女の子の方が好きなんだ。 だからこうやって、俺に気付かれないようにこんなものを⋯⋯⋯こんな、ものを⋯⋯? 改めてパッケージをよくよく見てみると、その違和感に気付いてしまう。 ⋯女の子、じゃない⋯⋯? 「⋯⋯ねえ、これってさぁ⋯なんで2人ともチンポ付いてるわけ?」 「そう言うもんだからじゃねえの、俺のじゃないから知らねえけど」 「そういうもの⋯?ん?」 なんかよく分かんなくなってきたな。 そもそも今、アキのじゃない、って言った⋯⋯?じゃあ、なんでこんなものがアキの部屋に?なんでこのパッケージの人達はチンポがついてる⋯?なんなの?? 「⋯⋯本当に良い趣味してるよな」 何も理解が追い付かずにぼんやりとパッケージを眺めていた俺の手から、それがサッ!と、取られてしまう。 そしてまた興味が無さそうにそのパッケージを俺と同じように眺めてたアキが、ボソッと呟いた言葉。 何故か他人事のようなその言葉が気になり、疑問を問い掛けてみる。 「⋯アキのじゃない⋯⋯?ということは?」 「⋯⋯こんなもん俺に渡す奴なんて、お前の方が一番分かってんじゃねえのか?」 俺が1番分かってる⋯?なんの事だ、と思考を飛ばしかけたその時、一瞬でピン!と俺の勘が働いた。 『アキ』と、『AV』。 あんまり繋げたくないその2つのワードが重なる人物なんて、確かに1人くらいしか居なかった。 「⋯⋯もしかして、吉村じゃない?」 「まあ、そうなるよな。」 俺の言葉は見事に正解を引き当てたのらしく、納得したように頷くアキ。と、全ての謎が一気に解けてしまった。 アイツ⋯!!俺の知らないとこでアキに唾付けやがって⋯!! 途端に込み上げてくる怒りを抑えられないまま、アキの手から奪い取るようにAVのパッケージを取ってしまえば、紙袋の中にガッ!としまい込んでそのまま立ち上がる。 「⋯⋯何すんの?」 「捨てるの。アイツのものなんか持ってちゃ駄目じゃん。」 「そのまま返せば良いだろ。一応、人のもんだし」 「吉村の物なんて別にどうでも良いじゃん。何で俺の事止めようとすんの?」 『待て』と、何故か俺の行動を止めようとしてくるアキに、なんでだと不機嫌のまま俺の意思を伝える。 アキが吉村のことを庇ってるのは面白くない。 「結構良い値段してんだって言ってたから。」 「⋯⋯それで?」 「見たら感想教えろだってよ。それまで大切に保管してて欲しいとかなんとか」 マジでキモイじゃん。 ちゃんとその中身を確認するまで手元に置いてて欲しい、ってちゃっかり手放せない理由まで添えられてる。⋯⋯ほんとにどこまでも姑息なヤツだよな。

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