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隠し事 5
「………ごめ、アキ。あの、見つけるつもり、ってか、見るつもりはなかったんだけど、…その、なんて言うか…」
「……その教科書が一緒に、そこに入ってたのか??……っ、思い出した。アイツからこの教科書と一緒に渡されて、見たくもねえって奥に追いやってたんだわ。うわ、マジか…今見てもウザすぎる。」
あれ…?思っていた反応と違う。怒られるか避けられるか、どっちにしても何かしらの負の感情を向けられてしまうものだと勝手に思い込んでいたが、どうやらそうでは無かったのらしい。
改めて俺の手からその、所謂、えーぶい、ってやつ。を手に取ってまじまじとそれを恥ずかし気も無く見つめるアキの姿。何だか、一気に身体の力が抜けた様な、安心した様な。
その前に、誰だよこんなもんをアキに渡した奴。……いや、1人しか居ねえわ
「………もしかして、吉村の事?」
「そうそう、もう見ねえからって押し付けられたんだけどなんで俺に、ってな。そもそもこんなの見た事も興味もねえって言ったんだけど」
「あ〜……あいつ、アキの事ずっと狙ってるじゃん。綺麗とか可愛いとか、俺にもずっと言ってくんの。思い出しただけでもムカつく。それだってセクハラが理由でしょ?絶対」
なるほど、全て合点した気がする。入学時から既に複数の生徒から好意を寄せられていた事は知っていたが、その度によく分からないと断っていたアキ。
その中には勿論、しつこい奴も居て、その吉村って奴だけど。
毎回アキにベタベタと引っ付いては好意を伝えてる姿を何度も引き剥がしてきた。最近は他のクラスに恋人が出来たとかなんかでもっぱら寄り付かなくなったけど。ほんとに何処までも迷惑な奴。
改めて、アキの手元のパッケージを見つめる。まだ紙袋の中に入っているソレも取り出して床に並べながら、どうしたものか、と首を傾げて。
「まだ色々あるっぽいけど、どうする?コレ。……アキ、見てみたいとか、思う?」
「いや無いけど。吉村に会った時にでも返そうかと思ってそこに置いてるだけだし、………まあ、またそこに適当に置いてりゃ良いんじゃねえの」
「ちょっと、だめだめ。そんなんだから部屋がゴチャゴチャになってくの。要らないなら捨てるか燃やすか粉々にするか、そのどれかにして」
「……お前さ、選択肢どうにかしろよ。後でまた返せって言われるかもしれないだろ?よく分かんねえし。俺らじゃ買えないもんだろ、一応。完全にアウト。そうなったら流石に困るだろうし、吉村も。」
「いいよ、アイツの事なんか。人に簡単にあげちゃってるって事は大切な物でも無いでしょ。それに、なんかアキの部屋に吉村のド変態な物が有るってのが嫌。臭いしキモイしウザイ」
あくまでも、念の為に。と部屋に置く事を提案されてしまえばそれは見逃せない。
そもそもアイツがこのビデオを見ながらシコってたりなんかしてた物だったら、マジで気持ち悪過ぎる。
その手垢も付いちゃってるだろう、と改めてアキの手から奪い取る様にソレを取れば袋の奥底に押し込む様にしまい込む。
ほんとに吐き気までしてきたかもしれない。
床に並べた物もまとめていっその事捨ててしまおうと手に取った一つのパッケージ。見るつもりはなかったが、ふと、視界に映った男の人の顔。………あれ?なんか、………雰囲気が、アキに似てるかもしれない。
流石は吉村の趣味、多分ほんとにアキの顔がどストライクに好みだったのだろう。無意識の内に集めていたそのパッケージも、殆どが同じ人の顔で、しかも、ほんとに雰囲気がそっくり。さすが、分かりやすい奴。
そうとなれば話は別で、思わずそれを凝視してしまう。甘々な雰囲気のものから、拘束物のハードな奴まで、多種類に渡るプレイの内容が表記されて居れば、いつの間にか視線はパッケージに釘付けでじっ、と夢中で見つめる。
「……何そんなに真剣な顔して見てんの。……興味あんの?それ」
「興味、……って言うか、ちょっと、気になるかもって」
「へえ…?さっきまであんな散々な言葉言ってた癖に?お前もちゃんと男なんだな」
「ちゃんと、って、なんか嫌な言い方。…俺は立派な男子高校生ですけど」
「………気になるなら持ってけば?その、キモイって言ってた奴の物を」
明らかに機嫌の波が激しい俺を不思議そうな視線で見つめるアキ。
一度気になってしまえばその好奇心は止まらないもので、見れば?なんて続けて言われてしまえば、それが冗談だとしても、どうしても気になってしまう。
ま、アキもそう言ってる事だしいっそのこと腹を括ってしまおう。それならお言葉に甘えて、と自分の口から飛び出した吉村への愚痴の事等棚に上げてあくまでもこれは、片付けを手伝った褒美。そう言う事。
複数のパッケージを手にリビングに向かい、せっせとDVDを観る準備を始める俺の横で、呆れた様に立っているアキの姿が目に入る。
「お前、ほんとに見るつもり?俺の部屋で?今?」
「だって、アキが見ても良いって言ったから。俺も片付けで疲れたし、少し休憩」
「……AV見ながら休憩するヤツ初めて見たんだけど」
うわ、その顔でAVなんて言っちゃうんだ。大胆すぎ。
何だかんだ言いながらも、ソファーに座る俺の隣に腰を下ろして一緒に観る…と言う訳では無いのらしい。……多分アキ的には片付け、という作業から逃れられたら何でも良いのだろう。ほんとに分かりやすい。…それを逆手に取って堂々とアキ似のAVを見ようとしてる俺もどうかと思うけど。ま、気になったもんは仕方ないじゃんね
そのまま肘置きに頭を乗せて、俺の事を端に寄せる様に蹴りながら身体を横にしてしまう。携帯を手に取っていつもの様にアプリでゲームを始めてしまうアキを横目に、再生される映像を今か今かと待ち侘びて。
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