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隠し事 8

そもそも事の発端は俺がAVを見て勃っちゃった所から今の流れになってしまった訳で、こんなものを見続けてたらまた俺のちんこは素直に固くなって、アキの機嫌を損ねてしまうことくらい想像出来ていた。 とは言っても⋯この状況をどうにかすることも、多分難しい。 ピリピリとした雰囲気が室内に広がっていて、ただでさえ気温の低い部屋の中は更にキンキンに冷えてくような、そんな感じがした。 全然AVどころじゃないよコレ。 この流れをどう収めるべきか。なかなか良い案が思い浮かばずにモヤモヤとした気持ちでAVを見続ける事数十分。いつの間にか晒された下腹部を冷気が包み込んで、すっかりひえっ冷えになってしまった俺の身体。 「⋯⋯っ⋯!!はっ、くしょん!!!」 そして、油断してる時にやってきた鼻のムズムズ感。 堪えきれずに盛大なクシャミを漏らしてしまえば、同時に俺の鼻からたらりと垂れる透明な液体の存在に気が付く。 まずいなぁ⋯ けど、テレビから目を離してしまえばアキにきっと怒られてしまう。我慢、するしかないかぁ 仕方無く鼻水を服の袖で拭ってしまおうと腕を顔の前まで近づけたその瞬間、突然プツリとテレビ画面が消えると共に隣でアキが起き上がる気配を感じる。 俺の行動を読み取るかの様に掴まれた腕が顔から離され、代わりに乱雑に掴み取られたティッシュが顔に押し付けられた。 「服が汚れんだろうが、馬鹿」 「⋯⋯ありがと」 そのまま俺の鼻を拭うようにティッシュ越しに鼻を摘まれて、鼻水が拭き取られていく。 アキの顔はまだ怒ってるような表情はしてる⋯けど、その顔色には諦めモードも若干混じってるようなそんな感じがした。 ──今なら、⋯⋯ちゃんと俺の話を聞いてくれそうなそんな気がする。 「ねえ⋯あき?」 「何。」 「⋯⋯ゴメンなさい。」 いくら鈍臭い俺だとしても、アキが怒ってる理由はちゃんと理解出来ていた。 自分の好きな人が他の人のエッチな姿を見て興奮なんてしてたら、そりゃ⋯良い気にならないよね。 きっと俺が同じ立場だったら絶対にそんなもの見せたくないし、俺以外の誰かに興味を示すアキの姿なんて想像しただけでも絶対に許せなかった。 俺はいいけどアキはダメなんて、すっごい我儘の極みだもんなぁ⋯。それは俺自身が1番よく分かってる。 「⋯分かってんなら自制くらい覚えろ」 「⋯⋯ね。ほんとに俺もそう思うよ」 まるで他人ごとのような俺の言葉に対して、アキの口からため息が溢れ出してしまった。 ちゃんと約束してあげたいけど、いっつも薄っぺらな俺の理性がどうしても言うことを聞いてくれない。 中途半端に断言してしまうよりは、この位曖昧の方がアキも諦めてくれるから。⋯⋯すっごい狡い理由付けになっちゃうけどね。 でも、ちゃんと頭では理解出来てる。 絶対に俺にとってはアキが1番。 今回のAVに関しては、アキに似てるってだけのこの人がそもそもの罠だった。もし全く関係の無い別の何でもない、ただのAVがそこにあるだけだったら即ゴミ箱行きだった。 なんと言うか、うまく計算されたAVの存在価値⋯と言ったら過言になるかもしれないけど、でも、アイツならそこまでしっかり考えた上でわざとアキに渡してそうだもんな。 無頓着なアキの事を逆手にとって、こんなものを意図的に渡してしまう。 それくらい、吉村という男はずる賢い奴だ。 そもそも、あれもこれもアイツから仕向けられた流れじゃんか。 アキに似てる、ってだけで俺が引っ掛かるとでも⋯⋯、⋯⋯その事に関しては、まあ⋯今はもう良い。 取り敢えず、やっと現実に戻った俺の思考とすっかり熱の冷めた下半身。 さっきまであんなに元気に主張していたそこも今では寒さで完全に縮こまってしまっていて、情けない見た目になってしまっている。 「⋯⋯はずかし」 「もう良いから、さっさとズボン履けって」 「っえ〜?!アキがしてくれるって言うから期待してたのに〜!」 「その小さいのを何とかしろって言ってんの」 「⋯⋯絶対そんな事言っちゃ駄目じゃん」 確かに今の俺の状態だとアキのに比べたらだいぶ存在感はないかもしれないけど。 嘘偽りのない真っ直ぐなアキの言葉が俺の心に響いてしまえば、どんよりとした気持ちのまま言われた通りにズボンと下着をぐいっ、と持ち上げて元に戻してしまう。 ツン、と拗ねた表情を見せても俺に見向きもしないまま、自分の携帯画面をじっと眺めていたアキがゆっくりと立ち上がる。 「⋯⋯飯。食堂行くぞ。腹減った」 「すぐそうやって誤魔化してさぁ〜??俺がこうやって今もぷんすか怒ってるのに!」 「行かねえなら置いてくけど」 「⋯⋯行く」 俺のことをお構い無しに、今すぐにでも一人で出て行ってしまいそうなアキの後ろ姿を追い掛ける事以外に選択肢なんてある訳が無かった。 俺だってちゃんとお腹すいてるし! 相変わらず下に落ちてるものを足で避けて先に進むアキの後ろを着いていきながら、これ以上部屋の中が荒れない様になるべく隅の方に物をささっと寄せていく。 暫くはアキの部屋に通う事になりそうだなぁ。 先に靴を履いて外に出るアキに続いて廊下に出た瞬間、俺の身体を一瞬で包み込んでく冷気にぶるりと身体が震えてしまう。 ただでさえ冷えてる俺の身体が痛いくらいの冷気に包まれて、思わず衝動的にアキの腕に抱き着けば身を寄せながら少しでも温もりを求める。 「っ〜⋯⋯!!」 「お前に俺の体温が持ってかれてんだけど」 「仕方ないじゃん。寒すぎるんだもん⋯っ⋯」 「もう少し着込んで外に出ろよ。特にお前は」 アキに引っ付いた所でどうにかなりそうな気温感では無いことは分かってる。でも、一人で歩くよりはこの方がまだマシだった。 それにしても⋯⋯チラリと盗み見た時のアキの横顔は、相変わらず表情筋が薄っぺらの真顔だった。 最近気付いたけど、俺と居る時はアキの顔がサボってる、というか⋯。 怒ってる訳でもなく、ただただ無が広がっている。 これも俺のことを信用してくれてるからというのだろうか。安心⋯してくれるのは嬉しいけど、少しくらい愛想良い方が絶対に可愛いのに。 ──なんて言ったら、更にアキの表情がからっからの砂漠みたいに枯れちゃいそうだから絶対に言えないけど。 真顔のアキだって俺は好きだし。 って自分に言い聞かせる事にした。

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