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隠し事 10
「それでそのステージがさぁ〜⋯⋯、⋯ん?あ〜、俺のやつ準備オッケーらしい。先に行ってるね」
その後も俺のことをお構い無しで続いてくゲームの話についてける訳もなく、不貞腐れてテーブルの上に突っ伏す事で分かりやすく不機嫌を表現する事しか今の俺には出来なかった。
やがて食事が完成したと知らせる呼び出しの合図に気付いた吉村が席を立ち、歩いてく後ろ姿をチラリと確認した後に続けてアキの食事の準備も出来たのらしく、立ち上がろうとするその姿に向けて一言、呼び止める為に声を掛ける。
「アキ。⋯⋯こっち来て」
「今じゃねえと駄目なのか?」
「絶対に今。早く」
普段なら、「後にしろ」と問答無用で断られてしまう状況なんだけど今回は何かと思う事もあるのか、⋯そもそも気付いて無いのか。
そこら辺はよく分かんないけど、それでも素直に俺の言葉に従い隣に来てくれたアキの姿を確認する為に伏せていた身体を起こして、その瞳をじっ⋯と見つめる。
「俺と居る時より吉村と一緒にいる方が楽しい?随分話が盛り上がってたみたいだけど。」
「別にんな事ねえだろ。お前と居る時と対して変わんねえんだから」
「なんでアイツと俺が同じ立場に居る訳?じゃあ別にアキは俺じゃなくても、吉村で良いんだ」
「⋯⋯そんな事言ってねえよ」
俺の不機嫌の理由を隠す事なく素直に伝える。別にそんな事を言わなくても気付いてるとは思うけど、ちゃんと言葉にしなきゃ納得が出来なかった。
俺の言葉を聞いて、少しだけぴくりと動くアキの口許。ハッとしたような、そんな雰囲気が漂っている。
それじゃあ俺と居ても吉村と居ても、何も違いは無いって公言しちゃってるようなもんじゃん。
珍しく俺に指摘されてしまったアキの言葉は何だか俺の心にもぐさっ、とストレートに刺さってしまい、自分で自分の墓穴を掘ってしまったような、そんな感覚だった。
「じゃあなんで俺の事放っておいて吉村とばっか仲良しすんの」
「普通に会話してただけだろ?仲良しとかそんなんじゃねえと思うけど」
「俺がAV見るのは許せない癖に、自分は吉村と楽しそうにしてんじゃん」
心の中のモヤモヤとしたものを、全てぶつけてしまう。更に罰が悪くなってしまったのか俺の言葉を最後に黙り込んでしまったアキのその図星な雰囲気も、何だか気に入らない。
「⋯ほら、何も言葉が出てこなくなってる。」
「だから別にそう言う事じゃない、って」
「そういう事って何?」
「何も無い、って事だろ。」
1度湧き出してしまった怒りは中々収まらず、吐き出せば吐き出すほどフツフツと煮詰まってしまう。結局アキだって何が何だか分からなくなって、曖昧な言葉しか出なくなっちゃってるじゃん。
「⋯⋯っもぉ、アキがそう言う感じなら⋯俺だって、今すぐ部屋に戻ってAVとか見てやる⋯!!しらない!アキのバカ!」
「⋯っ、待てって。俺が悪かった」
ふん、と口を尖らせたまま歩き出そうとする俺の腕を勢い良くアキに掴まれ、素直に謝ってくれるアキの言葉が聞こえてくる。
⋯なんか、こんなにもすぐに素直に謝られてしまうと拍子抜けしてしまうというか。
俺が意地っ張りだからこそ、アキの素直な言葉が身に染みるというか。だけどそう簡単に俺の心は解される訳でもなく、モヤモヤとした言葉にできない感情だけがただただそこに漂ってしまっている。
「⋯え、何?俺が居ない間に凄い空気になってるじゃん。あ、明樹のやつ早めに取りに行ってあげた方が良いよ。今結構バタバタしてたから、厨房の方」
「⋯⋯あぁ、分かった。」
何食わぬ顔で、そしてまたしても最悪なタイミングで戻って来た張本人を目の前にしてしまえば更に深まる俺の言葉にできないぐちゃぐちゃな感情。
だけどそんな事よりも、お昼時ということもあってか今日はなんだか普段よりも混み具合が凄かったのらしく、ちらりと視線に捉えた先の受け取り口は確かに人で埋め尽くされていた。
俺の事を気にしつつも、混雑の原因を解消させてしまう事が先だと足早に離れていくアキの後ろ姿をムッとした表情で送り出しながら、改めて自分の椅子にどかっ、と腰を下ろしてしまう。
「⋯⋯何、明樹と喧嘩しちゃったの?俺の事が原因で?やるじゃん。」
「⋯⋯うっさ。そもそも吉村がわざわざついて来なかったらこんな事になってないし」
「俺だってさぁ、一人ぼっちで寂しくお昼食べてる予定じゃなかったんだけど。ほんとはね」
「⋯そう言えばいっつも誰か引き連れてんじゃん。その人達は居ない訳?」
「残念ながらフラれちゃったんだよね。此処に来る前に」
あまりにも自然な流れで告げられる、吉村の恋愛事情。
ってか、振られたって言った??
⋯⋯また??
毎回吉村に会う度に隣に居る子が頻繁に変わる事には気付いていた。⋯いっつも誰かとベタベタしてんだもん。そりゃ目立つし目に入っちゃうもんでしょ。
「どうせセフレとかじゃないの。吉村と一緒に居る子そんな感じの見た目してんじゃん」
「えぇ〜?そんな事言わないでよ。ちゃんと真面目にお付き合いしてますから、こんなんでも。」
「真面目な付き合いで相手がコロコロ変わってる人なんて見た事無いから」
「⋯バレた?」
「別にどうでも良い」
吉村の恋愛事情なんてそもそも興味が無い。そんな下半身ゆるゆるの奴の近況なんて聞いても何のためにもならないし、そんな奴がベタベタアキに下心丸出しで触れてる事の方が何だかムカついてきた。
「欲求不満だからって毎回アキにベタベタ触らないでよ。変なのがうつるじゃん」
「何、変なのって。⋯⋯たまにはさ、夕も遊んでみれば?セフレとか作ってさ、色々溜まってるからそんなにすぐぷりぷりしちゃうんじゃない?」
「そもそも俺のことを怒らせてんの、毎回吉村の方だろ。俺に原因がある訳ないじゃん」
「別に俺は何もしてないけどね?⋯で、夕はセフレとか興味無いの?例えばさぁ、俺の事とか気にならない?」
「⋯⋯は?どう言う事?」
まるで俺が勝手に怒ってるとでも言いたげな吉村の言葉に、カチンとしてしまう。
だからそういう所だろうとギッと睨みつけた矢先、告げられた言葉がすぐに理解出来ずに、ぽかんとはてなマークが俺の頭に浮かんでしまう。
セフレ?ヨシムラ?⋯⋯は?
俺⋯⋯が?そもそも、コイツが狙ってんのってアキじゃないの?
「⋯⋯何で俺に振ってくんの。そんなの、⋯⋯俺じゃなくてアキにする話じゃないの?⋯絶対認めないけど」
「⋯へぇ、やっぱそんな感じなんだね。因みに明樹にはしっかり確認済みです。その上で夕はどうなのよって聞いてるんですけども?」
「⋯はぁ?!そんな話聞いてないんですけど!何でセフレの話なんかっ⋯──
『ドンッ!!』」
⋯⋯っ!!び、っくりした。
吉村との会話で全然気付いてなかったけど、いつの間にか戻って来てたのらしいアキのトレイが派手な音を立ててテーブルの上に置かれていた。
「手が滑った」と一言、何食わぬ顔で椅子に腰を下ろしたアキの姿を見届けたタイミングで俺の呼出音が鳴ってしまい、何だか異様な雰囲気の中、受け取り口まで向かう事にする。
別に変な話とか、してたつもりは無かったけどな。
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