68 / 82
隠し事 10
部屋の外で待ってて欲しい。そうアキは告げた筈だが、遠慮しないで良いから〜と何様のつもりなのか、強引にドアを開けて中に入ってしまった吉村の後に続いて慌てて俺も中に入る。アキと2人きりにしちゃ絶対駄目な人間を自由にさせる訳にはいかない。
「…ねえ、探すの下手すぎない?夕。いくら落ち着かない子だとしてもさ、人の部屋こんなに荒らして良いってもんじゃないでしょ」
「………ちげえよ、別にコイツがやった訳じゃないから。」
無理にでも止めてれば良かったと、中の状況を見て思い出す。
寝室だけモノ探しついでに整理をしながら片付けていただけで、他の場所は足場だけ適当に作ってられた状態のまま、荒れた状況に変わりはなく。
それを呆然と眺めた後、原因を俺だと勘違いする吉村の言葉。
「夕じゃないの?絶対そうだと思ったんだけど。……もしかして、無理矢理誰かに襲われそうになったとか?それで逃げる時に、こうなったとか」
「……ちょっと、もう黙ってなよ吉村は。これは、……仕方の無い事なの。誰のせいとか、そんなんじゃないから。」
一瞬ピクッ、とアキの口許が引き攣る様子をしっかりと目の前で確認出来たからこそ、慌てて言葉の足りないフォローを行えば、取り敢えずリビングまで向かうアキの後ろ姿を見送った後、吉村を寝室に押し込んでしまう。ここならまだ、ある程度の片付けを終えていた為まともな風景が出来上がっている。
「仕方ないって何?なんで明樹の部屋がこんなに荒らされてるのか、って聞いてるんだけど。……ねえ、夕?良いの?俺このままじゃ納得出来るまでこの部屋の地蔵になっちゃうけど。絶対に動かないよ?良い?」
「………適当に部屋に残る口実作ってるだけじゃないの?それ。アキとヤる為の。やり方が汚すぎ。」
「違うって、本当に明樹の事が心配で心配でたまらないの。あ〜心配すぎる!ふ!あ!ん!」
本気で心配等してる訳がない。目敏くアキのベッドを見つけてゴロン、と寝転がる吉村の顔がしっかりとにやけてる事に気付いてしまう。
マジで気持ち悪くね?コイツ。
「おい、勝手にアキの布団に寝っ転がるな!!お前の言葉はほんっとに何から何まで信じられない!心配してる顔じゃねえじゃんそれ!」
「ん〜?嘘だ。俺の今の顔、めちゃくちゃ不安そうな顔だけどな。分かんない??もっとちゃんとよく見てよ」
吉村の事をベッドから引き摺り下ろそうにも、案外体格が良く、俺よりも少しだけ。……って事にしとく。少しだけ、身長の高い吉村の身体を引き摺り落とすのは面倒すぎる。しかも、どさくさに紛れて俺に顔を近付けてニヤニヤと、…マジでコイツ、ヤレるなら誰でも良いんじゃねえの?
「ね、でさ。実際のところどうなのよ。この部屋の状況。申し訳ないけど、本気で心配になる汚れ具合ではあると思うんだけど。」
まあ、そう考えるのも普通だろう。構えては居たが、俺だってびっくりした、正直なところ。
少し悩んだが、納得するまで引かないつもりだろう、そんな雰囲気は十分に伝わっているからこそ、本人の居ないこの場で素直に告げても良いのではと言葉を選びながら状況を伝えて。
「…別に、そんな大きい隠し事とかじゃないんだけど……アキが、やったの。自分で。教科書探すって、ちょっとそれが大胆になっちゃっただけ」
「え、本気?………明樹が、全部自分で…?あら、まあ…そうなの。…ん〜!ちょっと待って。うわ〜…あのしっかり者です、って顔で実は面倒見てもらわないと生活が下手なタイプ?やば、何そのギャップ。可愛すぎて勃ちそうなんだけど」
「っ……キモすぎる。やめろよ、アキを餌にすんな。……あぁ!アキの布団!!勝手に触んな!!」
どう捉えるか、多少の不安はあったが、さすがはど変態道の達人。片付けられない、その一言でも自由に妄想を膨らます事ができたのらしい。心配して損した。
さりげなく、ごろごろとベッドの上で転がりながら、布団を手繰り寄せてその匂いを嗅いでいる姿を目の前にしてしまった。きもちわる!
「うわ〜、マジで最高。どこに居ても明樹の匂いがするわ。なあ、この布団俺にくれる様に一緒に明樹に頼んでくれない?これだけで一ヶ月はシコれる気がする」
「はぁ??ほ、んとにお前はきもいな。どこまでもきもい!キモすぎる!キモ男!!絶対に嫌だし、さっさと返せ、って言ってんの!!もう、何にも触んな!」
誘う場所が悪かったかと今更後悔してしまうものの、他の場所に誘導するには再びあの汚された空間を見せつけてしまう事になる。
アキの為にもやっぱりこの場所を選ぶしか無かったもんな。
仕方が無いと気持ちを切り替えて急いでベッドに飛び乗り吉村から布団を引き剥がす為、伸ばした腕は、何故か掴まれて引かれてしまう。
突然支えを失った腕でバランスを取る事も出来ないまま、ベッドの上に顔から倒れ込んでしまう。そこが床ではなく、柔らかな感触で本当に良かった。
安堵の息を吐き出しながら、当の本人、面白そうな表情で俺に視線を向けているその顔を睨み付けて。
「っ……!べっどで、良かった……」
「ほんとだね?いつもの夕ならさ、そのまますっ転んで鼻血でも出してたんじゃない?痛いって我慢してるのが可愛くてずっと見ちゃってるけど」
「……は?勝手に俺の事見んな。……何なの?ほんとに。今までで1番吉村の考えてる事が理解出来ないんだけど」
「俺の考えてる事?……今はねぇ…夕に聞きたい事があったんだよなぁって、丁度思い出したとこ」
「俺は、吉村に話すこと何も無いから無理。聞かれても教えないけど。自分で考えてどうにかしたら?」
突然、掴まれたままの腕が引かれると共にベッドを背に仰向け状態で押し付けられる体。俺の上に乗って来た吉村の腕が、パーカーの首元に触れてアキに噛まれた痕を見えやすい様に、その首元の衣服を引っ張ってしまう。明らかに油断をしていた場所。
「まぁまぁ、そんな事言ってないでさ。………ここ、誰に噛まれたんだろって考えてたんだよね。ん〜、出来たての痣の色に、血の滲み方もまだ日は浅い感じでさ。今日かな?これ」
ゆっくりとなぞられる傷痕。忘れていたが、そう言えば、まだ痛覚が引いてる訳では無い。ピリリ、と痛む痛覚に引き攣る口許。
吉村の指先を遠ざけるべく、触れているその手首を掴んで引き剥がせば楽しそうに笑っている姿が視界に映り。明らかにムカつくし目障りだと、ガッ、と伸ばした手でその顔を鷲掴みにして。
ともだちにシェアしよう!