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隠し事 13
「俺も手伝おっか?」
「へ?⋯あ、いや。別に大丈夫。」
「って言ったってさ、夕1人でどうにか出来るもんなの?片付けが必要な場所ってここだけじゃないでしょ?廊下も、リビングも、その他にも色々ありそうだったけど」
つい、不意に吉村から問われた言葉に対していつものように反射的に否定の言葉を伝えてしまった。
いや、本音としては猫の手だって借りたい状況ではある。でも、さぁ⋯!だって、いっつも余計な事しか言わないんだもん。
今回の手伝いに関してもその本質が分からない、と言うか。⋯素直に信用していいものなのか。
うーんと悩む俺の葛藤に気付いたのか、普段とは違う、ふっと柔らかい笑顔が吉村の表情から溢れ出していた。
⋯⋯あんま言いたくないけど、こいつ顔だけは良いんだよな。⋯なんか余計にムカついてきた。
「大丈夫だって、別に変な事なんてしないから。本気で困ってそうだったから助けてあげようかなって。それだけ」
「⋯ほんと、かなぁ。⋯⋯何もしない?」
「しないしない。一旦片付けが終わるまではね?2人でやればすぐ終わるっしょ」
片付けが終わるまで、と謎に宣言されてしまった事に対しては全然見逃せないけど、正直有難い言葉ではあった。
俺一人で何処まで出来るのか不安でしか無かった片付けも、1人増えるだけでこんなに頼もしいだなんて⋯悔しいけど、認めざるを得ないもんな。
こればかりは仕方ない。
そうと決まればアキにも確認した方が良いかもな。一応、部屋の主だし。
リビングに居るアキの元まで一旦戻り、吉村の事を伝えていく。
「あき〜??吉村が片付け一緒に手伝ってくれるんだって。だからさ、3人で頑張ろ?」
「⋯⋯別に良いのに。」
「遠慮しないで良いから、さ!ほら、取り敢えずは、まあ〜⋯俺と一緒にここら辺から始めていこうか。まずはね〜、ん〜⋯⋯一旦このソファー周りをどうにかしていこうかと」
流石に寝室はアキのプライベートな物も多いだろうしそのまま俺が引き受ける事にして、一旦吉村にはリビングに移動して貰ってちらりとその様子を見てみる。
最初は驚いた表情を見せていたアキだけど、段々と片付けに対しての嫌悪と面倒くさそうな雰囲気が溢れ出し、しまいには片付け始めた吉村を仁王立ちで眺めてるだけの光景が繰り広げられている。
「ちょっ⋯明樹??俺が汚しちゃった本人みたいになってるから。そこの棚の中にさ、このゲームソフトを並べることは?ちょっと難しいか?」
「んな訳ねえだろ」
「じゃあやっちゃおう!マジで助かるわ〜!やっぱ明樹のそう言うとこが良いんだよねぇ」
普段は余計だと感じる吉村の口車がこの状況だと良い雰囲気で回っていた。何だかんだアキもゆっくりと動き始め、吉村と一緒に片付けてくれている。
まあまあ、今日だけはあきに対しての褒め言葉だって許してやらんこともない。
リビングの状況をある程度見届けた後、俺も寝室に戻り改めて中途半端で手を止めてしまっていたクローゼットの中から片付けを始めていく事にした。
「どんな感じ⋯⋯おぉ〜?!めっちゃ綺麗になってんじゃん」
「そっちは?終わったの?」
「大体片付いたってとこかな。後は俺がやるからってアキは今お風呂場で頑張ってるみたい」
「それ大丈夫かなぁ〜⋯良い感じにまとまってくれてたら助かるんだけど」
「まあ、それも含めて様子見ってとこかな」
クローゼットが終わり、ベッドの周辺を粗方片付け終えた所で聞こえてきた吉村の声に気付き、顔を上げる。
何度かアキとのやり取りの会話も聞こえては居たけど、まあ、なんと言うか⋯珍しく保護者側として吉村が上手く対応してる言葉が聞こえてくる度に、頑張っている様子は十分に伝わっていた。
やれば出来るもんだな、吉村も。普段からそうしてくれてたら良いのに。
リビングの奥から聞こえてくる少し物騒な物音は聞こえない事にして、ベッドの上に腰を下ろして休んでいる吉村に一応労りの意味も込めて素直に感謝の言葉を伝える。
「助かった。ありがとう。」
「ん〜ん。俺がやりたくてしてる事だし、全然大丈夫で〜す。」
「⋯⋯そっか」
「んふ、何それ。可愛いんですけど」
「⋯出たよ、いつもの」
別に俺としては普通に会話をしてたつもりだったけど、またいつものようにニコニコとスイッチの入った吉村が含み笑いを浮かべてる姿が視界に映り、げっ、と思わず声を漏らす。
そういう所がなぁ、全然嫌い。
「そういえばさぁ〜、夕って明樹と付き合ってどんくらい経つの?」
「どんくらい⋯⋯?⋯多分そんなに長くはないと思う、けど。⋯⋯⋯って、ちょっとたんま!!何で知ってんの?!」
「へえ〜?!やっぱそうだよねえ〜?今ちょうど夕から教えて貰って知った形にはなるんですけどもぉ〜。ずっと気になってたんだよね、最近やけに仲が良いなぁって」
「⋯⋯くそっ⋯」
つい、やってしまった。
気の抜けた空間で当然のように聞かれてしまった俺とアキの関係性。その流れで口を滑らせてはしまったけど、どうせバレてるんだろうなとそんなに身構えてなかった事も事実だった。
明らかに分かりやすく驚いたフリをしてみせる吉村をキッ、と睨みつけながら念の為に口封じをしておく。
「⋯他の人にベラベラ喋んないでね」
「俺が言わなくたって周りはとっくに気付いてると思うけどね。公認みたいなとこあるでしょ?」
「そんな事⋯⋯ないと思うけど」
「あんだけ人の目も気にせずにベタベタしてたらそりゃ、ねえ?だって最近、明樹に告白する人だってなかなか居ないんじゃない?」
「まあ⋯それはそうかもしんないけど。」
確かに、言われてみれば今でもたま〜にそういう人がアキを訪ねてくる事はあるけど、めっきりそう言う機会が減ってしまった事は事実だった。
現に、俺の目の前にしつこいヤツが居ることに関してはずっと変わり無いんだけど。
「ほんとにモテモテだもんねぇ、明樹は。俺も、だ〜いすきだもん」
「ホントにやめてよそれ。そろそろ飽きないワケ?」
「じゃあ逆に聞くけどさ、夕は明樹に対して『もう飽きたなぁ』って感じる事があるってワケ?」
「⋯⋯無いよ。絶対に。」
「そうでしょ?だから、俺もぜ〜ったいに飽きないの。分かった?」
「わかっ⋯⋯、⋯!分かるわけないじゃん!あっぶな!」
諭されるように続く言葉に危うく乗ってしまう所だった。絶対にこいつの事だけは認めるもんか。
「ふ〜、それにしてもちょっと疲れたなぁ〜っと。」
「あっ!!ダメ!!どさくさに紛れてアキのベッドで眠ろうとしてんじゃん!」
「そんな事ないって。すこ〜し体を休めさせてもらうだけだから。」
「だから、それがダメって言ってんの!」
徐にベッドの上にどさっ、と横になってしまった吉村の行動に気付けば、咄嗟にその行動を止めるために吉村の腕を掴み、引き上げる為に力を込める。
なんだコイツ⋯!疲れてるヤツの力じゃねえし!!
明らかに起き上がる気配のない吉村の腕を引っ張ったとて、その身体が動く気配は一切無い。
その上で近くの毛布を『ヨイショ』と手繰り寄せ、アキの匂いがする、だなんて鼻の下が伸びてるその姿をさすがに放っておく事は出来なかった。
「っほんとに⋯!やめろって!!」
「⋯じゃあさ、夕も一緒に眠っちゃえばいいじゃん」
「は⋯?⋯⋯ッ⋯?!!」
ほんの一瞬、吉村の言葉に気が緩んだその拍子に吉村の腕を掴んでいた俺の腕が逆の方の手で掴まれて、吉村の胸の中に引きずり込まれてしまった。
俺の身体はそのまま抱き締められる様に吉村の腕の中に収まってしまい、抜け出すことも出来ないままぎゅうっっ、と力強く抑え込まれてしまう。
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