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隠し事 16

とりあえず、体だけ洗ってしまえば問題は無いでしょ。 髪の毛が濡れないように上の方で高めに結び直し、簡単にまとめてしまばさっさと服を脱いで風呂場に繋がるドアを開けば中に入ってしまう。 アキが一人で掃除を頑張ってたのらしい形跡が脱衣所に所々あったけど、まあ⋯ 一旦見なかった事にしておく。 ここは今じゃなくても別に良い。 風呂場に入った瞬間、ツン、とした冷たさが肌を刺し、一気に冷えてく感覚を感じ取ってしまえばぶるぶると震わせながら、シャワーを手に取って暖かいお湯を全身に浴びる事で身体の芯から温もりがじんわりと広がり、体温が戻ってくる感覚にほっと息を吐き出す。 っはぁ〜⋯それにしても、まじで油断も隙も無いヤツだな。 シャワーが体に当たる度にジンジンと首元の痛みが増えていく。 その度に思い出してしまうほんの数十分前の出来事。 もうちょいアキが来るのが遅くて事が進んでたら、多分、吉村は絶対にやられてた。時計をぶん投げられるだけじゃ済まないくらいにブチ切れてそうなアキの姿を想像しただけで肝が冷えてしまう。 大人しそうな見た目のアキの事に対して吉村自身もきっと俺と同じように油断してたんだろうな。 見た目で判断しちゃダメだってのはアキの事を正しく表現している言葉でピッタリだった。 「あったかぁ〜⋯⋯」 暖かなシャワーの感触が心地よくてついぼんやりと長めのシャワータイムを楽しんでしまっていた事に、ハッ!と気付く。 今はアキの事をあんまり待たせない方がいいのかもしれない。一旦落ち着いた雰囲気を見せてたからとは言っても、今回に関しては事情が複雑すぎる。 ⋯⋯多分、さっさと終わんないと八つ当たりの度合いが激しくなっちゃう。アキにされる事ならなんだって受け入れてあげたいけど、さすがの俺にだって限度はあるしなぁ。 ⋯あんまり痛くない事だと良いんだけど。 手早くボディーソープで身体を洗いながら、特に首元は念入りに。傷口でも構わずゴシゴシと強めに擦ればその都度滲み出す血をシャワーで泡ごと洗い流してしまう。 最後にお湯を止めて脱衣所に上がれば簡単にタオルで身体を拭いて、アキから借りた部屋着に着替えていく。 あっ⋯アキのにおいがする。 最近は俺のとこで生活する事が増えた分、なんだか久しぶりに感じる俺の大好きなアキのにおいに包まれる心地良さに段々頬が緩んでいく。 たまにはアキのとこでもお泊まりさせてもらお。 ⋯その前に、部屋の片付けから終わらせなきゃなんだけど。 何だかんだ吉村のお陰でちらりと覗いた先のリビングはだいぶ綺麗に片付いていた。 こうやってまともにしてくれてたらめちゃくちゃ良い奴なのになぁ。もったいな。 はぁあ〜⋯と溢れ出るため息をふぅ、と漏らしながら、アキが待っている寝室まで戻ってみる。 中に入る前にドアの隙間からちらり、と中を覗いてみれば、ベッドにだらりと横になりながらポチポチと携帯に触れてる見慣れた光景が広がっていた。 そのままドアを開いて中に入ればベッドに上がり、アキの胸元に抱き着くように身体を寄せて携帯とアキの間に無理矢理入り込んでしまえばその顔を覗き込み、改めて声を掛けて。 「おまたせ。どお?俺、いい匂いする?」 「っ⋯おい、邪魔だろ。後にしろ」 「え〜?!アキが待ってるかなって急いでお風呂から上がってきたのに、何それ!絶対邪魔なんかじゃないから!」 人の気も知らずにゲームが良い場面だからと明らかに俺の事を退かすように顔が引き離され、意地でも携帯画面を覗き込もうとしているアキの姿にむっ、と怒った表情を浮かべてみせる。 こんなに急いできたのに、また俺よりもゲームを優先しようとしてる?! 「うっせえ。お前が勝手に急いで入ってきただけだろうが」 「はぁあ〜?アキが早く行け、って言うからさっさと入ってきて帰ってきたんじゃん!」 「んなのどうでもいい。さっさと退け、って俺は言ってんの。」 どうやら今のアキは虫の居所が悪いようで、頑固な部分が出ちゃってるようだった。どうしても今は俺じゃなくてゲームが良いと。 ふぅ〜ん! アキがそんなんなら俺だって考えはある。 俺の事を押し退けるその腕をバッ、と逆に払い除けて、アキの両頬を両手で挟むように掴んでしまえばそのままぶっちゅ〜!と勢いに任せてキスをしてしまう。 アキが苦しくないように気遣っていた体制だって、今はもうどうだって良い。アキを下敷きにしてしまうように全体重を掛けて唇を押し付けていれば、やがて限界だとアキの顔を掴んでる俺の腕に、アキの爪がくい込んでいく。 「⋯どうするの?ゲームおわる?」 「っ、うるせえ。んなわけねえだろ」 「あ〜っ!まだそんな事言っちゃうんだあ〜!⋯もう俺知らないからね」 呼吸をする間も与えなかった分だいぶ苦しそうな顔をしてるくせに、変に意地を張っているアキの言葉に更にむっ、と唇を尖らせながらそれならば、とアキの顔から手を離してしまう。 そしてそのまま無防備なその脇腹にぐっ、と手を差し込んむと、力加減もなくそこを擽り始める。 アキ、これが弱いんだよね。

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