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※隠し事 18
(アキ side)
──死ぬかと思った。
今日はなんか分かんねえけど、朝からずっと気が悪い。部屋の掃除から始まり、吉村の1件と、そして今現在の状況。その殆どにこいつが絡んでる事が確かではあるが。
ようやく解放された身体は使いもんにならねえくらい色んな感覚を瞬時に拾い集め、服の擦れでさえも気になってしまう。
一旦休憩だと呼吸を整えて居れば、明らかに欲に満ちた夕の表情が俺に向いている事に気付く。
こいつはいっつも⋯、本当に懲りねえ奴だよな。
今後の流れ的に俺に怒られる立場に居るはずの夕が立場が逆転してしまった事で優位な位置に居ること自体がそもそも気に食わないと言うか、流れ的に次はヤらせろと?
こいつも吉村と一緒にぶん殴ってやれば良かったな。
とは言っても、現状況でまた何かしら反論してしまえば俺の状況が明らかに不利になる事は目に見えてる為、様々な言葉を静かに飲み込みながら目の前の夕を睨み付ける事しか今の俺には出来なかった。
「⋯⋯ねえアキ」
「無理」
「まだ何も言ってないじゃん」
「何も無くてもお前の言いたい事くらい分かってんだよ」
「じゃあちょっとだけ良いじゃん」
ほら、やっぱりな。俺に触れたがる夕の腕を払いのけながら、止めろ。と短く俺の意思を伝える。
力加減も無く長い間擽られ続けた俺の身体は完全に力が抜けた状態のまま指先1つでも動かすのがダルく、そもそもコイツの相手をする余裕なんて無かった。
それになんと言うか、刺激を拾いやすくなってる⋯気がする。
夕が我慢出来ずに俺の肌に触れる度に普段とは異なる感覚が走り、違和感ばかりが伝わってしまう。
んな状況でこいつとヤれる訳が無い。正直、頭が狂いそうな位の感覚過多を与えられた事でそもそもが既に精一杯ではある。
「そもそもさ、俺の首は噛んでくれないの?せっかくお風呂まで入ってきたのに」
「もう良い。んな気力もねえわ」
「えぇ〜?せっかく綺麗に洗ってきたのにぃ⋯」
目の前でパーカーの首元をぐいっと引っ張り、俺に向けて差し出された傷口に改めて視線を向ける。風呂場で何度も擦ったのか、最初に確認した時よりもそこは周囲が赤く腫れ上がり、再び血が滲み溢れていた。
「お前さ⋯んな綺麗に洗った、ってわざわざ擦ったのか?」
「そうだよ。だからもう大丈夫。吉村のもちゃんと落ちたと思うし」
怪我ばっかで痛覚が鈍って来てんじゃねえのか?
明らかに痛みの強そうなその状態でも俺にわざわざ噛んで欲しい、と更に痛覚を要求する夕の行動が俺には理解し難い行動ではあった。
⋯⋯そもそも見た目ほど⋯あんま痛くねえのか?
あまりにも平然と表情1つさえ変えない夕の姿に対して疑問が生まれてしまった。
片腕を伸ばして夕の胸元を軽く掴めば、俺の元まで引き寄せて、そのままその首筋に顔を寄せる。
⋯さっきまでの腹いせも含めて口を開けば、ガリッ、とそこに軽く歯を立てた瞬間、ビクリ、と大きく震える夕の体。
「い゛ぃ!!痛゛っ、つぅ⋯!!」
ある程度加減はしたつもりだが、ちゃんとそれ以上に痛みを感じてるらしい。という事は、やっぱり元が痛いじゃねえか。
「馬鹿。わざわざ我慢してまで噛ませんな」
「⋯⋯アキにだったら何されても我慢出来るもん⋯」
互いに顔を合わせながら軽く瞳を細めて睨み付ければ、逆に不機嫌そうな表情が返される。
んな事でわざわざ怒んなっての。
⋯まあ、人の事なんて言えた立場でもねえけど。
自分の首元をそっと片手で押さえる夕の姿を静かに眺めた後、まだ掴んだままの夕の首元を更に俺の元まで引き寄せてその唇に軽く触れるだけの口付けを落とす。
⋯⋯ヤんねえとは言ったけど、別にその気が無いわけではない。
「ちゃんと消毒しておけよ」
「ん、⋯分かった。⋯⋯でも後で、ね?」
俺が夕のスイッチを入れてしまった事はちゃんと自覚している。今はダメだと伝えておきながら、ふとした瞬間に全てがどうでも良くなってしまう瞬間がある。こいつと居ると余計に。
やがて俺のキスをきっかけに再び近付いてきた夕の顔が俺の唇を捕らえ、深く重ねられていく。
角度を変えながら、それは段々と激しく俺の口内を割り開く様に夕の舌が差し込まれ互いの舌先が絡み合っていく。
「っ、⋯⋯は⋯ぁ⋯⋯。あき、もっと口開いて」
「ん、ッ⋯」
奥へ、更に奥へと夕の舌が俺の全てを求めるかのように口内を荒らしていく。口付けの合間に伝えられるがまま口を開けば、俺の口元は何度も夕の口に覆われてしまう。
互いの舌先を絡め合う度に時折夕の犬歯が舌に当たり、心地良さが全身に伝わっていく。その快楽を求めるように舌を押し付けていれば、それに気付いたのか何度も甘噛みをするように舌先を軽く噛まれ、そこからピリピリと快楽が広がり始める。
「⋯ふっ。俺の歯で噛まれるの好きでしょ?⋯下も、俺の口でやってあげようか?」
「⋯⋯別にそんなんじゃねえけど」
無意識の内に求めていたのか。そもそも自覚が無ければ改めて指摘された事に対して何ともむず痒い複雑な心情で溢れ返ってしまう。
んな事で素直になれる訳がねえよな。
つん、と済ました顔で伝えてみれば、何故か気を良くしたのらしい夕が俺から離れ、モゾモゾと俺のズボンを下げている。
⋯もう、好きにしろ。
「やっぱアキの大っきいね」
「ッ⋯あんま近くで喋んな」
「これだけでも気持ちいい?そしたらふ〜ってしてあげよっか」
外気に晒されただけで俺のものが余計にピン、と張り詰めてその存在感を主張している事は嫌でも伝わってくる。その上で夕の息がそこに当たり、僅かな刺激でも震える俺のを見てニタニタと笑いながら更に間接的な刺激が与え始められてしまえば、流石にそれだけは見過ごせなかった。
大人しくしてりゃふざけやがって⋯!
「ッ、⋯⋯!やんねえならもう終わるからな!」
「ちゃんとやりますよ〜って。ちょっと遊んじゃっただけじゃん」
少しだけ不貞腐れたその表情を向けられても実際に感じるのは怒りやイライラ。それだけだった。
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