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新しい悩み事 1

「⋯⋯っだから、何回言ったら分かんだよお前、はっ!!ぶん殴るぞ!!」 しん、と静まり返った室内に突然響き渡るアキの声と同時に顔面に広がる激痛。その最中で俺の視界に映ったのは鬼の様な形相で怒るアキの顔と、そして、お互いにすっぽんぽんの身体。 あれれ⋯おかし、いな。お互い合意の上だったハズ⋯っ違うか。そうじゃないよな。 簡単に事の事情を思い返してみる。どうしても奥までチンコを突っ込んでみたい俺と、そもそも普通に受け入れるだけで精一杯だと主張するアキ。絶対イけるから、安心して、と強引に突き進んだ結果が、まあ、現状って訳で。 セックス中に思いっきり顔を殴られて鼻血出してる男なんて見たことねえよ。ほんっとに痛い。 ベッドに突っ伏したまま動かない俺を他所に、ぷりぷりと怒りを抑えきれないアキの小言と言うか愚痴と言うか、一応聞き取れたのは「ふざけんな、くだらねえ」でした。激おこです。 「い、っだぁ⋯あ、き、痛いっ、てえ⋯なんでそんな思いっき、り⋯」 「⋯⋯そうでもしなきゃ止めなかったろ。俺の方が痛かったわボケ」 「止まんない、のはそうかもしへないけど⋯だとしてもこんなん⋯酷いよ⋯」 「一々被害者ぶってんじゃねえよ、俺が1番可哀想だろ。あ〜あ、もう萎えた。勃つもんも勃たねえわ。言っとくけど、お前が全部悪いんだからな」 「ちょ、っと待って!!」 普段なら鼻血でも出したもんなら絶対に看病してくれるアキの事、出血さえしてしまえばこっちのもんだと勝ち誇ってきた今までの状況とは一変、俺に見向きもせず、部屋から出て行ってしまう始末。本気で怒らせたか、と募る不安に後押しされるまま、アキの後を追ってリビングまで向かってみる。 「ムードも欠けらも無いエッチなんてあるんだ⋯」 途中までは確かに良かった、と言うか今までと変わらない流れでめちゃくちゃえちえちだった。だからこそ油断してたかもしれない、何でもやらせてくれる、と。その傲慢さがこうなってる訳ではあるが、それでも、やっぱ諦めたくは無い。絶対、頑張れば奥までイけるんだもん。お互い気持ち良いだけなハズの行為をなんで試してみる前に諦めるのだと。 これは、最近の俺のちっぽけな野望なんだ⋯絶対に、絶対にイけるんだけどなあ〜!! これだけ殴られても尚、まだ納得いかない。 ⋯⋯でも、そんな表情を少しでも出してしまえば更にアキの怒りを逆撫でしてしまうだけだと言う事は十分に自覚してる為、一応、眉を垂れ下げて困った様な、弱気な表情を作り出す。アキがこの顔に弱い事は既にリサーチ済みなんですよねぇ 「⋯⋯ねえ、アキ。俺が悪かっ⋯⋯、すっご⋯え?大胆すぎない?」 「うっざ⋯ジロジロ見てんじゃねえよ」 「いや、見るなも何も、そこにしか目がいかないって」 寝室から勢いのままに出て行ってしまったのは良いが、まあ、お互いに素っ裸な状況は変わらない訳で。全裸で腕を組み、シンクを背にして堂々と水を飲んでいるアキの姿を目にしてしまえばそりゃもう、視線の行き着く先は決まってる。顔に合わないくらいやる事が全部男前なんだよな。 んでちんこは、⋯ほんとに萎え萎えじゃん⋯ 「人の事見る前にお前のその汚え顔でもどうにかしたら?」 「汚いって⋯ひどい。アキが力加減もしないでぶん殴るから、こうなってるのぉ」 「⋯じゃあなんで俺がお前をぶん殴らないといけない状況になったと思う??誰が悪かったんだろうな」 「⋯⋯まあ、俺⋯としか言えないんだけど」 「自業自得じゃねえか、馬鹿」 見事なまでに、何も言い返せない。ぐっと唇を噛み締めて悔しい表情を見せてみるも、絶対に同情も何もしてやんねえ。その意志をひしひしと感じ取るだけの空間になってしまえば、言い訳は諦めるしかない。 甘えられないならさっさと今にでも垂れ落ちそうな血で床でも汚してしまう前に洗ってしまおう、とスイッチを切り替えてシンクで顔をゴシゴシと洗い流す。にしても、どんだけ強く殴られてたんだろ俺は⋯。全然止まらない鼻血への応急処置としてティッシュを鼻の中に突っ込んで一旦様子見、と。 「ねえアキ。ほんっとにごめん。反省してるから、さ⋯その⋯続き、しようよぉ⋯俺のちんこが物足りない、って泣いてるもん⋯」 「⋯よくこんな状況で続きだなんて言葉が出てくるわ。ほんと図々しいよなお前は」 「一々空気なんて気にしてたら疲れるだけじゃん。何でもどっしり構えてた方が色んなチャンスが巡ってくるかもしれないでしょぉ?」 「今は絶対に考えるべきタイミングだと思うけどな」 「⋯⋯そんな難しいこと、俺にはわかんない」 掴めるチャンスが有るなら何でも挑戦してみる、一応俺の密かなモットーなんだけど。今だってもしかしたら気が変わって続きをしてくれるかもしれない、僅かな希望に掛けて提案してはみたものの、やっぱり、そう簡単にはイエスとは言ってくれないか。分かってたけど。 空気は絶対に読みません、分かりません、そのスタンスで突き通せば今までアキが折れてくれてた分、今回もどうにか行けるのではと淡い期待を持って話が通じない人、そんな雰囲気で会話をしているつもりだったんだけど。今回ばかりはどうも上手くいかないみたい。 「さっきも言った筈だが、もう一回伝えとくわ。今日は無理、萎えた。お前とはヤリたくない。それだけ」 「⋯俺とは、ってどういう事??他の人とならヤッても良いって事を言ったの?今??どの口が??絶対許さないけど」 「っ⋯いちいち、細かい揚げ足取ってんじゃねえ⋯よ⋯めんどくせえ、な!!」 「はぁあ〜?めんどくさい、って言っちゃった?!俺の事?!やだね!!俺は絶対にめんどくさくなんて無いんだから!!」 聞き捨てならない言葉を吐き出したアキの顎をガッ、と掴めば俺の方に引き寄せて眉を寄せる。あんなに約束したのに、また簡単にそうやって言っちゃう所は本当に良くない。それでも言葉は止まず、離せ、と俺の腕を掴むアキの力に俺は屈しない。そもそも、お互いの力差なんて分かりきってる事。それでも、負けじと俺を睨みつけるアキの瞳。今日はお互いに意地っ張りの日になっちゃうな。 絶対に引かない、その意志をアキの瞳から感じ取れば、どう収集すべきかこの状況。何を言っても良からぬ方向に転んでしまう事は十分に把握してる為、うーんと言葉を選んで居れば、ふ、と俺の腕を掴むアキの力が弱まった気がした。今の状況で怒りが収まる事なんてあるのか、あまりにもミスマッチな展開に、ん??とアキの表情を確認してみる。 「な、に⋯どうしたの?」 「⋯⋯ってかさ、何で俺ばっかお前のもん入れられなきゃなんねえの??」 「へえ⋯?つまり⋯?」 「だから、なんで俺ばっかがお前のちんこをケツに入れる役をやらなきゃいけねえのかって聞いてんの。最初の方で話したろ?こう言うのは、お互い話し合って決めるって」 「そう、だっけ⋯なんか、あんまり覚えてないかも」 「……なら解散って事で。」 「ちょっ、まって!!冗談だって!ちゃんと、覚えてるから」 この場を去ろうと動き出すアキの腕を掴み、慌てて引き戻す。この、中途半端な性欲を放り出されてしまうのが本当に辛い。これだけはマジの本音 ⋯それにしても、とうとうバレたか。アキから何も突っ込まれない分、お互いのちんこを入れる、入れない問題なんてとうの昔に忘れてしまっていたのだろう、そう思っていたんだけど⋯しっかりと、覚えていたようで。さらりと誤魔化してはみたもののそれだけは許さない、と流れが再び戻ってしまう様なそんな感じがして、一旦大人しくアキの言葉を聞く事がこの場の選択肢として正解だろうと乗り気はしないが耳を傾ける事にして 「お前的にはどうなの。実際、どっちが良いとかあんの?」 「そりゃ、いれるほうが良いんじゃない、んです、か?だって、そしたらアキの色んな姿見れるんだもん。いつも、気持ち良さそうだな、って。俺、アキの事を見てる時間が世界で1番幸せだからさ」 「⋯⋯んだとしたら安すぎんだろ、お前の幸せは。俺の事なんて四六時中、意識しなくても嫌でも視界に入るだろうが」 「幸せに高いも安いも、良いも悪いもないよ。勿論、アキとセックスしてる時は言葉にできないくらい、ハッピーなんだから」 分かんねえ、そう言って呆れた表情で俺を見るアキの視線の方が不思議だけど。何も分からない事は無いし、アキが居ればそれだけでいい、それだけの事。ただ、確かにいつまでも俺が優先的にアキの中にいれさせて貰えるとは思ってなかった分、一応、覚悟は出来ている⋯つもり。 だけどさあ〜!!ええ?それが今、なの?早過ぎない?だって、まだ片手で数えられる位しかヤってないじゃん。 「俺とヤレるだけで幸せなら、別に俺がお前に挿れても変わんないんじゃねえの?」 「いや、それとこれとは話が違うよぉ。やっぱ、こう⋯なんて言えばいいんだろ⋯きっと挿れてもらう方が1番気持ち良いと思うの。だから、それを俺はアキに譲ってあげようかな、と思って」 「はぁ?片方だけ経験して、そっちの方が気持ち良さそうだなんて分かんのか?どうせお前アレだろ、ケツにチンコ入れられるのが怖いとかそんな理由で適当な事言って逃げてんだろ」 「確かに両方経験しないとわかんない事も多いと思うけど、⋯俺は別に怖い、とか逃げてるとか⋯⋯⋯そんなんじゃ無いから」 なんでこんな時は核心ばっかついてくるんだろ、この人は。普段なら適当にはぐらかしてしまえば面倒だから、と諦めてくれる事も多いが、今回ばかりは絶対に本心を探るまで引いてやらない。早く言え、と急かされるばかりで調子が狂ってしまう。アキの言いたい事は理解出来てる。恐らく、お前ばっかが優先的な位置に居るのが気に食わない。そう伝えたいのだろうが、それでも、やっぱり初めての事は躊躇してしまうのが人間じゃんねぇ⋯

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