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隠し事 22

手にした消毒液を傷に染み込ませて絆創膏を貼り付けていく。 まあ⋯少し歪んでっけど問題はねえだろ。 何度もやって来た事とは言えど間が空いてしまえば少しばかり手元が緩んでしまった。 少しだけ歪んでしまった絆創膏‪に、一瞬手が止まってしまうが思考を切り替えてしまえば処置を終えて、その事を夕に伝える。 「終わった」 「ありがと。⋯⋯ん〜っ、なんか今日は⋯疲れたね」 俺の言葉を聞いて笑みを浮かべながら告げられる感謝の言葉。そのまま俺から消毒液を受け取り、救急箱を元の場所まで戻しに行ったかと思えば、再び俺の隣に戻って来る夕の姿。 俺と同じようにソファーの背もたれに深く埋まりながら、やれやれとひと仕事終えたような雰囲気を醸し出しながら漏らされる溜息。 まあ、それはこっちの台詞だけどな。 「⋯⋯ねえ、アキ?」 「何?」 ゆるりと夕の顔が俺に向けられ、呼ばれる名前。 変わらず穏やかな夕の表情からは言葉の予測が出来ず、何かと視線を向けてみる。 「今日みたいなエッチ、またやろうねって言ったら怒る?」 「俺の体力次第なんじゃねえの。毎日ヤんのは死ぬから、週末⋯とかなら」 「⋯⋯えぇ〜?それは流石におじいちゃんすぎない?」 何かと思えばそんな事か。 ヤる事に関しては別に何も問題は無い。俺だって性欲自体はちゃんと人並みに持ち合わせてる。 ⋯つもりだ。 夕の期待がどんくらいの頻度を指し示してんのか、そこらへんはよく分かんねえが今回のもんを毎日せがまれてしまうのは流石にぶっ倒れてしまう。 「毎日エッチしたらアキの体力も増えてくんじゃない?」 「馬鹿。俺の事をヤり殺す気か?」 「殺すってそんな⋯、⋯⋯なんか、えっちすぎるかもなぁそれは」 「⋯⋯なんだお前」 何を想像したのかは、敢えて追求すんのを止めておく。 そもそも毎日ヤんなくともそれなりの愛情表現で事は足りるだろうと一瞬思考を飛ばせてみるが、⋯多分それだけでは止まんねえだろうな。 夕が⋯⋯じゃなくて、俺自身も。 「⋯お前がちゃんと加減出来るって約束出来るなら考えてやっても良いけどな」 「⋯っ、ほんと?!それなら、毎日アキとえっちしても良いって事?!」 「俺の身体が持つならな。⋯それと、タイミングもちゃんと考えろよ」 「⋯⋯はぁい。⋯ちょっと、頑張ってみる。⋯⋯頑張ってみるから!さ!⋯明日からなんて、どう?」 「無理だろ。俺の状況見ろよ」 許可を出してしまった以上、確実に念を押して伝えておく。勿論明日なんて馬鹿げた事は許さねえが。 「⋯⋯ねえ?たまにはさぁアキからも誘ってくれないの?いっつも俺ばっか⋯な気がするんだけど」 「⋯別にそうでもねえだろ」 「絶対そうだよ。そもそもアキってさぁ、俺の事見てえっちしたい!とか、襲いたい!!とか、思ったことないの?」 「何で?」 「⋯⋯っはぁ?!なんで、って、何で?!」 いや、明らかにこっちの台詞だろうが。万年発情期でもなけりゃそんな事を考えてる方がすくねえだろ。 ⋯こいつがどうなのかとか、そんなんは分かんねえけど。⋯⋯分かりたくもねえけど。 「ふ〜ん⋯毎日ヤってもいいとか言いながら、絶対またそうやって誤魔化す気でしょ?アキっていっつもそうだよね。」 何でそうなるんだろうな。 また始まったよ、面倒なタイプの拗ねモード。こう言うタイプの雰囲気に俺は弱いとでも思っているのか、同情を誘うような、そんな言葉を並べて俺の出方を伺ってくる。 ⋯まあ、実際折れてやる時の方が多い気もするが、別にそんなことでは無いとはっきり伝えていく。 「だからタイミングだって言ってんだろ。お前がヤりたい瞬間があんなら、俺にだってそう言う時があるんだよ。そのタイミングが合う時ならいつでも良いって事だろうが」 「⋯⋯じゃあさ、アキが俺とヤりたいって思う瞬間ってどんな時なの?教えてよ」 「⋯、⋯⋯んなの時と場合によるだろ」 「だからそれが分かれば俺だって誘いやすいって言うか、心の準備がしやすいのかなって」 「お前に心の準備なんてあんのかよ」 理性のままに生きてるやつが何を言ってんだ⋯⋯? 呆れたような表情を見せてやれば夕の表情に怒りの色が溢れ、いつものように唇を尖らせて怒ってしまった。 まあ、怒るだろうな。そりゃ。 「すぅう〜ぐそうやってさぁ!!俺の事馬鹿にするんだ!」 「別に馬鹿になんてしてないだろ。お前に似合わない、ってだけ」 「俺だってこう見えてちゃんとアキとえっちする時に緊張なんてしちゃったりしてるのに!」 「それはそうだろうな」 「⋯⋯何でわかんの」 「お前の顔見りゃそんくらい分かんだろ」 ⋯⋯そういう事か。コイツとヤる度に緊張感を含ませた表情が俺に向けられる事には気付いていた。 だからこそ心の準備が必要、って事か。 こいつもたまにはちゃんと道理の通った言い訳をするんだな。 まあ、それなら。 「俺のヤリてえ時が知りたいんだろ?」 「⋯っだから、そう言ってるじゃんさっきから」 俺の言葉に対して、ドキドキとしたわかりやすい表情の変化が夕の顔に戻ってくる。 怒ったり緊張したり、感情の忙しい奴だな。 とは言ってもんな事を改めて聞かれたとて、正確な答えがある訳では無かった。どんな時、と言われても、気付けばその流れになっている。 答えなんてある訳がない。 「そう言うのはお前が探せよ。んな事くらい一々聞くな」 「んん〜?!何それえ!!ちゃんと教えてよ!」 「俺にも分かんねえもんをどう答えろって言ってんだよ」 「だからぁ!例えばさぁ、こういう時にドキッ!ってする、とか、こう⋯アキのちんこが反応する事とかないの?!」 「⋯⋯時々朝とか勃ってるけどな。勝手に」 「それは誰にだってあるやつじゃん。⋯⋯もぉお〜⋯」 やっと諦めてくれたのか、と言うか話にならない事を察したのか、むすぅ、と膨れた状態のまま俺の事を恨めしそうに見てるだけで話が終わってしまった。 「そう言えばお前、飯は?作ってる途中なんじゃねえの?」 「今はそんな気分じゃない。」 完全に拗ねモードに入ってしまった夕の機嫌がすぐに戻らない事はこれまでの経験上で学んだ事ではあるが、今回に関しては普段よりも少しだけ、長引きそうな予感はしている。 ⋯⋯普通に腹減ってんだけどな。 んな事言っても聞いてくれねえだろうし、⋯どうしたもんかな。

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