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隠し事 23

「⋯⋯分かった。⋯お前にちゃんと教えりゃ良いんだろ?俺がヤりてえって思う時」 「⋯⋯ふん。⋯別にいいし」 「じゃあ教えねえけど。せっかく考えたのにな」 「⋯⋯っ⋯い、い。」 普段なら俺が妥協してやれば素直に乗っかってくる癖に、何か虫の居所が悪そうな、そんな顔をしている。 何を意地張ってんだか。 はぁ、と息を吐き出しながら夕の肩に凭れかかるように身体を動かして、その顔を覗き込む様に身を乗り出せばどんな顔をしてんのか確認してみる。 「ほんとに良いのか?お前は俺の事知りたくねえの?」 「⋯っ、⋯⋯。⋯そんなわけ、ない」 「じゃあ素直に言えば良いだろ。聞きたいって」 「⋯⋯⋯⋯、⋯ほんと、は⋯⋯あき⋯のこと、きき⋯たい」 一言一言、諭すようにゆっくりと伝えてみればやがて夕の瞳がゆらゆらと揺れて、ついに吐き出されたその本音。 元はと言えば俺が曖昧な事ばっか言って夕の心を弄んだのがきっかけではあるが、それは触れない事にしておく。 「良いか?ちゃんと覚えてろよ。⋯⋯⋯お前のそう言う困った顔とか、泣いてる顔とか、なんかそういう時にぐちゃぐちゃにしてやりたい。っていっつも思ってる。」 「⋯⋯、⋯それ、は」 「だから今みてえな顔だよ。お前が困れば困るほど、泣けば泣くほど、もっとその顔が見てえって無茶させたくなる」 俺の言葉に対して、夕の瞳が段々大きく開かれていく。 想定外の言葉だったんだろうな。 まあ実際、こいつの歪んだ顔が俺の性癖にぶっ刺さってしまう事は既に自覚した上ではっきりとその事を伝えていく。 「だから、俺とヤりたくてたまんねえ時は泣いてみろよ。ヤらせてください、って。そしたらその気になるかもな」 ふっ、と口元に笑みを浮かべながら徐に目の前の夕に顔を近付けて口付けてやれば、まだ言葉が呑み込めないとか、状況が把握出来ないとか、そんな感じの困惑した顔で俺の事をぼんやりと見つめている。 ⋯⋯そう言う顔とか、な。 「⋯⋯⋯あっ!⋯分かった、おれ⋯⋯がんばる、から」 「あぁ、楽しみにしてる」 やっと我に返ったのか、はっ!とした表情でこくこく、と何度も頷き、そしてそのままぎゅっと勢いのままに抱き締められる俺の身体。 正直、雰囲気に流されんのも悪くはない。そもそも俺とコイツの間に性欲の差はそんなに無いと思ってはいる。ただ俺自身の貧弱な体力が追い付かない場面が多いだけで。 今日に関しては如何せん身体が痛え。 今回ばかりは仕方ねえよな。 ふつふつと疼き出した性欲を片隅に追いやり、その隙間を埋めるように空腹だった事を思い出す。 「そういや腹減ってんだけど、飯作る元気は出たか?」 「っうん!!!ばっちり!!あの、今日はね!カルボナーラにしたの!」 さっきまでのしんなりとした雰囲気はどこへやら、嬉しそうに夕飯メニューを語る夕の言葉を頷きながら聞いていれば、既に準備は出来てるからと俺から離れて残りの仕上げをしにキッチンまで戻っていく夕の後ろ姿を見送る。 「じゃじゃ〜ん!カルボナーラと、あと、コンソメスープ。美味しそうでしょ?」 手早く仕上げられた夕食が目の前のテーブルの上に並べられていく。パタパタと忙しくなく俺の分まで準備をしてくれる夕の後ろ姿を眺めていれば、やがて全部が揃ったのか俺の隣に夕が腰を下ろしたタイミングでソファーに埋もれていた身体を起こし、改めて目の前の夕食に視線を向ける。 「美味そうだな」 「でしょぉ〜?アキの為に頑張ったんだから」 「わざわざ悪いな、飯まで作ってくれて」 「ん〜ん!アキの為なら何だってしてあげたいし。今日だけじゃなくても、これからもずっとね」 へへっ、と笑う夕の笑顔につられて俺の口元も緩んでいく。 そんな俺の顔をじ〜っと観察するかのように夕の視線が突き刺さっている事に気付いては居たが、敢えて触れる事はせずに「いただきます」と軽く手を合わせて食前の挨拶を済ませてしまう。 「冷める前にお前も早く食えよ?」 「⋯⋯うん。大丈夫。」 何が大丈夫なんだか。 よく分かんねえ返事に対して怪訝な表情を浮かべて見せれば、何事も無かったかのように急いで挨拶を済ませ飯を食い始めている。 何が何だかよく分かんねえ奴。 ────── 「っはぁ〜!!おなかいっぱい!!!」 他愛のない会話を交わしながら夕食を済ませた後、ソファーの上でゆったりとした時間を過ごす。 お腹を擦りながら満足気な表情を浮かべてる夕の顔をちらりと横目で確認しながら、俺も身体の力を抜いて再びリラックスモードに切り替えていく。 ⋯⋯そういや俺の携帯⋯何処に置いたっけ。 帰宅後の記憶なんてもっぱら無ければ、さり気なく周りを見渡しながらそれらしき存在を探してみる。 「⋯アキ、もしかして携帯探してるでしょ」 「⋯⋯別に。」 俺の不審な行動に気付いたのか、静かに問われる言葉。 ⋯⋯まあちゃんと当たってんだけどな。 以前から何度も指摘されてる俺の携帯に対する使用頻度。 今回もその事かと身構えてしまったが、不意にソファーの端へと腕を伸ばした夕がその手に携帯を握り締めて、俺に向けて素直に差し出されるソレ。 「はい。隅っこの方にずっと置かれてたよ」 「⋯⋯そうか。」 何か言われるもんだと思ってたが、そうではなかったのらしい。 夕の様子を暫く観察してみたが普段と変わらない姿がそこにあるだけで、特に何かがある訳では無さそうだった。 まあ、よく分かんねえし。 早々に詮索を諦め、真っ暗な液晶画面をサイドボタンで起動してそれとなく触り始めたその瞬間、「ねえ」と静かに問われた言葉。 ⋯⋯結局そうなるのか。 今回ばかりは素直に画面を閉じて、静かに夕に視線を向けてみれば「そうじゃない」と今までとは異なる展開に疑問符が浮かんでしまう。 「あのさぁ⋯もうアキに携帯触んないで、って言わないから、その代わりに俺の膝の上でやってくれない?」 「⋯⋯何で?」 「⋯良いじゃん。だって、アキがそれやってる時暇なんだもん。甘えたら邪魔だって怒られるし」 ⋯なるほどな。⋯それは確かに身に覚えがありすぎるかもしれない 過去の俺の言動を思い返し、そう言う事かと納得する。どうしても俺の気を引きたいコイツの主張を毎回問答無用で追っ払ってた気がする。 そりゃ…気も悪くなるか。 こいつの場合は特に。 まあ⋯⋯そんくらいなら。 「別に良いけど。⋯⋯お前はそれで良いのか?」 「全然良いよ。アキに触れるなら何だって良い」 早速、と言わんばかりに引き寄せられて夕の膝の間に俺の身体がハマってしまう。 そのまま腹部に回される腕、そして肩越しに俺の手元を覗き込む事ように背後から抱き締められる事で、満足気な雰囲気が伝わってくる。 「はぁあ〜⋯⋯アキってやっぱあったかいね」 「まあ、そうかもな。」 「お腹いっぱいだし、アキはあったかいし⋯⋯いますっごい幸せ」 「そんまま寝るんじゃねえぞ」 「分かってるよぉ⋯ちゃんと見てるから。後ろで。」 「別に見てなくても良いんだけどな」 夕の言葉と言うか、言い回しというか、そういうのが少しずつ柔らかくなってる様なそんな気がする。 元々ふやけた喋り方はしているが、一応念押しをしながら時々声を掛けてやり反応を確かめておく。

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