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転校生 1

『今日から新しい転校生がくるんだって!!』 『めちゃくちゃイケメンらしいよ』 『え〜?俺はなんか怖そうなやつ。って聞いたけど』 『それマジマジ!!俺も一瞬職員室で見ちゃったんだけど、……本気でビビったわ』 登校したその瞬間から四方八方で聞こえてくる「転校生」のワード。そういや昨日帰り際に転校生が来る、なんて話をしていたような⋯そんな気がする。事ある毎に『転校生』、『イケメン』、『ヤンキー』『ピアスがすげえ』だの、似た様な単語ばかりが聞こえてくる。よくもまあ、こんな短時間でそんなに情報を集められたもんだか 正直そこまで話題に上がる様な人物に興味が有るのか無いのか、と問われたら勿論あるに決まってる。こんだけ話題性の高い人物であれば、そもそも誰だって気になってしまうもんだろう。 だが、そもそも転校生に対して印象がどうのこうの、興味があるだのないだの、……一旦どうでも良いか。 それ以前の問題が有るのだ。どうにもこうにも、バチくそに眠すぎる。 寝起き5分で支度をし、部屋を出た瞬間から時間との戦いであった。 いや、起きた瞬間から既に始まってたんだけどな。 全力ダッシュでギリセーフ。こちとら一分一秒の争いを朝イチからしなきゃいけなかった身なんで⋯転校生がどうとか話し合うほど余裕が無い。 まーじで疲れた。今すぐにでも帰って眠りてえ。 あーあ。夕と一緒ん時は別にこんな事になんねえのにな。 俺が夕を起こして朝食まで作ってやって、そっから2人揃ってのんびり登校する。そんな今までの普通の日常が懐かしくも思えてきた。夕と居る時は何故かシャキッと規則正しく生活をしている自分の姿を思い出す。 普段なら2人で一緒に登下校をしている筈だが、最近はルーティンが少し変わっていた。 近頃の夕と言えば、「あき、ごめん!!しばらく俺の部屋使えなくなっちゃうんだよね!」「今日は用事が!!あるかもしんないから!!」と様々な予定を理由にバタバタ先に帰ってしまう事が増えていた。 その度に理由を聞いてはみたが、「ん〜?なに、寂しいの?」と、意図しない答えばかりが返って来る為、核心を突く前に話が逸れてしまう。 ⋯まあ、俺はと言えば久しぶりに帰った自分の部屋で、探し物をしていた時に偶然見つけ出した昔の名作ゲームにどハマり中だった。暇潰しにでもなるかと何気なく始めてみた結果、今でも変わらず神ゲーでした。 毎日睡眠時間を削ってプレイしてた結果が今朝の状況に至るって訳だ。 なので、ここ数日は珍しくお互いが自分の部屋で過ごし、何かに夢中な日々を過ごしている、らしい。未だにアイツが何してんのかは分かんねえけど。 ふと何気無しに離れた席の夕に視線を向けてみれば、じ〜っと真剣な表情で携帯を見つめている。 ⋯⋯今日も忙しい用事、ってヤツか。 大体朝からそんな調子の日は決まって用事が出来るらしく、ずっとソワソワと落ち着きが無かったり、逆にぼーっと上の空だったり。 別にどうでも良いけど。これ以上特に詮索するつもりも無く、本人の自由にさせるのが1番無難だろうと俺自身にも言い聞かせて意識を逸らす。 ふわぁ、と止まない大きな欠伸を一つ。同時に押し寄せてくる眠気に気付いた瞬間、急激に保っていた意識が遠のいていく。 やっぱ無理だわ⋯眠すぎる。1秒で良い⋯一瞬で良いから、目を閉じさせてくれ もう一度、欠伸を漏らすと共に机の上で身体を伏せる。窓際という事もあって冷気を感じやすい位置ではあるが、代わりに陽当たりが良い場所でもある。ポカポカ、と身体を温めてくれる陽の光を浴びながら、俺はすぐに意識を手放した。 「………、嵐……です。…………しくおね…………す」 急に周りがザワザワと騒音に包まれる。 その後、担任の掛け声で一気にしん、と静まり返った室内で、今度はハッキリと芯の通った声が響き渡っている。⋯⋯様な気がする。 周りの騒がしさで一度は目を覚ますが、覚醒するには脳内の処理がまだ追い付かない。ぼんやりとした思考回路で一旦周囲の状況に耳を澄ませてみる。 『………と言う事で、今日からこのクラスの一員だ。……えっと、席は……み、……おーい。蓮見!!起きろ!!』 チョンチョン、と腕をつつかれる感触に気付き何事かと顔を上げてみる。どうやらさっきから俺の名前が呼ばれていたらしく、前の席の奴が担任を指差し教えてくれた。 寝ぼけ眼を何とか無理やりこじ開けながら、前方に視線を向けてみれば呆れ顔の担任と視線が合う。⋯っやべ どうやら俺の後方に転校生用の席が作られていたらしく、その案内をするために俺の名前を呼んだのだが当の本人はぐっすり夢の中だった、と。 改めて席に着く様にと担任に指示された転校生が此方に向かって近付いてくる。 ⋯もうそんな時間が経ったのか。 改めて伏せていた身体を起こしてソイツが席に着いた頃合を見計らい、噂の転校生とやらを見てやろうと振り返り視線を合わせてみれば⋯⋯、⋯あ?? コイツ、ちょっと待てよ。確か⋯⋯ 「あら、し⋯⋯?」 「⋯⋯っ、うわ、マジかよ⋯!明樹じゃん!!」 そこには、以前ゲーセンに行った時にお世話になった見知った顔が座っていた。 相変わらず派手な銀の頭髪にバチバチなピアスと変わらない見た目で、あの時と変わった事と言えば、俺と同じ制服を着ている事位だった。 マジか⋯いや、また会うとは思ってなかった分ビックリと言うか、⋯確かにこんなのが職員室に居たらめちゃくちゃ目立つわ。 「⋯ってか!2人さ〜、あれから一回もゲーセンに行ってないだろ?!俺あの後から毎週通って探してたんだからな〜。折角新しいゲーム友達見つけたのに、ってな」 「それは悪い。色々忙しかったんだよ。そのゲーム⋯とやらでな」 「そのゲームとやらの名前を聞いてやりましょう」 「あれだよあれ。前に嵐が取ってくれたフィギュアのゲームを最近見つけて、ずっとやってんだよ。そしたら見事に寝不足⋯って訳」 「それ本気で言ってんの?めちゃくちゃ奇遇なんだけど⋯うわ、逆にコワ。俺もちょうどもっかいやりてえな〜って急に思い出して、セーブデータ一気に消して最初から始めてたとこなんだよな。ちなみに昨日から」 「⋯⋯は??最初のステージからやってんの??で、今何ステージ目だよ」 「え〜っと、確か⋯3の4とか⋯じゃなかったっけか」 「⋯いやいや、流石に記憶間違ってんだろそれは。昨日から始めてんだよな?そこまで行ける筈がねえだろ」 「なーにいってんの、朝までぶっ続けでやればそんくらいよゆーでしょ」 「っ⋯マジか。⋯寝ないで転校初日やってんの?⋯考えらんねえ。元気すぎて馬鹿みてえだわ」 「ん、それはどう言う意味??俺が馬鹿みたい、って事?それとも寝不足ってなだけで朝からヘロヘロな自分に馬鹿みてえって言ってんの?ん??」 あまりにもノリが軽すぎて言葉が簡単に滑ってしまったみてえだわ。俺の発言に、お??やるか??とニコニコ笑顔で伸ばされた両腕が俺の両頬を軽くつねり、左右に引っ張られる。 やめろ、と腕を叩けば面白いもんでも見つけた、とばかりにニマニマと俺の事を見つめてくる。 「⋯⋯きも」 「あ、それはマズイ。言葉に出てるって」 「あぁ、悪い。つい思ってた事素直に口に出してたみたいだわ」 「⋯ったくさ〜、そんなんでゲーマーが務まるか、ってんの。俺らまだまだ若いぴっちぴちの17ちゃいなんですけど〜?」 「…それに関しては何も言えねえわ」 「じゃあこの件に関しては俺に1本取られたという事で。GG、ってヤツですな。」 「⋯⋯どうぞ、ご自由に」 負けず嫌いすぎ〜?!とケラケラ笑う嵐を前に、初めて会った時もこんな奴だっけか?と記憶を手繰り寄せてみるが、⋯⋯多分記憶と現状が噛み合わないって事は、それが答えなのだろう。 何だかんだ気の合う奴、って事に変わりはねえんだけどな。 しかもこんなにもタイミング良く同じゲームしてたって事があんのかよ。今話題の、とか新作の、とかでも無く昔の名作ゲーだって事が珍しいんだよな。⋯⋯あ〜、お陰様で一気に目が覚めたわ。 あの時は夕と嵐が知っているゲームが一緒だと今の俺みたいに話が盛り上がり、……少し……ってか、⋯まあ何ていうか、嫉妬とか、そんな感じの⋯よく分かんねえけど。 ガキみたいな感情を抱いた瞬間もあったが、こうして話してみるとただただ話しやすく、その上で趣味が同じの気が合う奴、ってだけだった。⋯⋯そんな奴に勝手に気悪くして、なんか、恥ずかしくなってきたわ。 他には何やってんの?と聞かれた質問に対して俺が今までやってきたゲームの名前を上げる度に、反応を示して喜んでくれる嵐の聞き上手な姿につられて、つい会話が止まらなくなる。 「⋯⋯っあ〜⋯なあ明樹。も〜そろそろ前向いた方が良いらしい、んだけど⋯。転校初日から目付けられたら流石に困るだろ、俺も明樹も」 ふと、俺の背後を指さしながら今まですっかり忘れてた担任の存在を知らせてくれる。 「⋯⋯あぁ、マジで怖い顔してこっち見てるわ。それもそうだな。⋯そろそろ真面目に⋯」 「っちょっと待って!まだぜんっぜん話し足りないし⋯そうだ!昼飯とか一緒にどうよ?その時に色々また聞かせてくれ」 まだまだ話し足りない。その言葉でさえも何だか嬉しくてつい緩む頬をシャキッと引き締めながら、姿勢だけは正した状態で少しだけ背後に身体を寄せてコソコソと担任の目を盗みながら会話の続きを試みる 「あぁ、俺も久しぶりにこんな話できるヤツと会えたから嬉しかったわ。あ〜、っと昼食?⋯⋯それなら、夕も一緒で良いか?⋯えっと……そこに居る」 「あ?!夕も居んの??⋯⋯、⋯お〜、丁度目が合ったわ」 昼飯、と言葉が出た時にそう言えば、とその存在を思い出す。 夕も嵐とまた会えて喜ぶんじゃねえの?⋯⋯でも、そもそも嵐が来た事に気付いてんのか?アイツの事だし携帯でもまだ見てそうだけど 一旦嵐にその存在を教える為に夕の机の場所を指差しながら、今は何してんだろうか、と様子見も兼ねて視線を向けて見れば、バッチリと夕の視線と噛み合う。 ⋯⋯っ、ビックリした ⋯⋯いつから見てたんだこいつ。珍しく無表情な夕の雰囲気に一瞬違和感を覚え、何だと目を細めるが、次の瞬間には俺に向けられていた視線が嵐に移動し、嬉しそうに笑いながら手を振り合っている。 別に…何ともねえか ケロリと普段と変わらない表情で『またあとで!』と分かりやすく口を動かして合図を送る夕の意志を汲み取り、改めて視線を前方の黒板へと向ける。と、そこにも熱い視線が一つ。 やべ⋯すんげえ睨まれたんだけど。 ⋯⋯こちらも、いつから見られてたのだろうか。考えたくもねえけど。 担任の鋭い視線の意図に気付き、すんません。と軽く頭を下げて謝る。 教材の準備も何もされてないまっさらな机の上を誤魔化す為にそっと机の中から教科書を取り出して、ようやく俺の一限目が始まった

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