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転校生 3
結局、俺と夕、そして嵐に吉村と4人で食堂を目指す事になった。最初は不満げにブツブツと文句を呟いてた夕も、久しぶりに交わす嵐との会話でいつの間にかニコニコと上機嫌になっている。
もしかしたら俺よりも夕の扱いが上手いのかもな
気付けば珍しく吉村と2人で並び会話をしているのらしいが距離的に内容が聞こえない、と言うか意図的に声のボリュームを控えているのか、不透明な会話が目の前で行われている事に疑問を抱く。
が、⋯⋯それにしても2人が大人しく移動してくれるだけでこんなにも気が楽かと敢えて何を話しているのか問い掛ける事は止め、自由な時間を選ぶ事にする。今じゃなくても後で聞けば良い
「ここ便利すぎじゃない⋯?朝早くから夜も結構遅くまでやってくれてて、休日も⋯?おばちゃん達働きすぎじゃない?」
「まあ部活生も多いだろうし、自由に好きなもんが食える時間を全員が平等に選べるのはだいぶ考えてくれてるんだろうな。色々と」
「ま〜じで最高。⋯⋯実は最初めちゃくちゃ不安だったんだけどさ、明樹も居て夕も居て、吉村まで友達になってくれて⋯他の皆も優しいし。すんごい安心したわ」
「分からない事があったら何でも聞いてみると良い。俺じゃなくても、皆答えてくれるだろうし」
「い〜んや、何でも明樹に一番に聞いちゃう!ここでの友達第1号として、頼むよ。明樹じゃないとやだもーーーんって泣いちゃったらどうすんの?」
「お前は皆に好かれたいのか嫌われたいのか⋯⋯どっちかにしろ」
「冗談だって。…それでさ、明樹的には何がオススメなの??」
不安だった、その言葉が一番似合わねえだろと最初から堂々とした態度で過ごしていた嵐の姿を思い返すが、色々と気が利く反面、不安でさえも隠してしまうのが上手なのだろうと器用な彼の一面に気付いてしまう。
⋯俺とは正反対な嵐の姿が何だか輝かしく見えてくる。眩しすぎんだろ、と瞳を細めて居れば、「オススメは」と聞かれた事で改めて俺達は今、学校紹介も兼ねて食堂の説明をしていた事を思い出す。
俺達は、と言っても吉村と夕に関しては相変わらず2人きりでコソコソと会話を交わしてばかりで本来の目的なんて覚えてないのだろうが。
「オススメって言うかこの日替わり定食とかは毎日メニューが変わってて俺は好きだけどな」
「へ〜?んじゃ今日はそれで。え〜っと⋯⋯おーい!!そこの仲良いのか悪いのか分かんないお二人さん!なーに食べんの?!」
いつまでもぺちゃくちゃと喋ってる奴等の事なんて置いて行ってしまおうかと自分の分の食券もサッと購入して居れば、嵐の言葉に反応してやって来た2人と場所を入れ替わる。
「ん〜〜と、アキは何にしたの?」
「日替わり定食。嵐に勧めたら久しぶりに食いたくなったし」
「え〜?じゃあ今日は俺もそれにする!3人お揃いだねぇ」
「俺もその仲間に入っちゃいまーーす」
「はぁ?何でだよ。お前だけは違うやつにしろ」
「いいじゃんねぇ?嵐の転校祝い、って事でお揃いの日替わり定食でお祝いしようよ」
少しはマシになったのかと思っていた2人の仲は相変わらず一方的だったのらしい。今までの光景は幻覚か?と言わんばかりに「屁理屈言うな」だの、「もっと離れろ」と、夕の暴言に対してヘラヘラと更に機嫌を逆撫でる様な言葉で遊んでいる吉村に挟まれた嵐が、珍しく困惑した表情で互いの話を聞いてやっている。
俺も傍から見たらいつもあんな感じなんだろうな、と3人から少し距離を取りながら様子を見守っていたが、いつの間にか落ち着いたのらしい2人の仲裁を終えた嵐から食券の有無を問われ、手渡す。まとめて食堂のおばちゃんに渡してくれたのらしく、「ありがとう」と軽く礼を伝えては出来上がった定食を受け取り近くのテーブルまで運んで腰を降ろす。
「おい、絶対おかしいだろ。⋯⋯ねえ嵐!コイツ勝手に俺の席に座ってる!」
「俺の席とかそんなん決まってなかったでーす。先に座ったもん勝ちだろ?な〜?嵐〜。」
「まあそれはそうだけど⋯夕もほら、俺の隣で悪いな。次はそこに座れる様に吉村よりも早く座ってやれ」
今度は吉村の座る位置が気に入らなかったのらしい。⋯らしい、と言うか、毎回の様に同じ展開で同じ喧嘩をしていてもまだ飽きねえのかコイツらは。だが、今日は俺の代わりに嵐が絡まれ、そしてまた上手いこと場を流している。⋯⋯俺は毎日コイツと飯を食ってた方が楽かもしれない。
結局嵐の隣にドスン、と腰を下ろす夕とは対照的にニコニコと満足気な表情で俺の隣に座る吉村。そんな吉村の顔をギリッと睨んでいる夕の不服な表情からして、まだ未練タラタラらしい。⋯また始まりそうだな
「……ちっ、陰毛野郎のくせに生意気」
「ちょ、っと!ゆう?!吉村のことそんな名前で呼んでんの?!」
「だって頭がそうじゃん。もじゃもじゃしててキモイ」
「ね、やっぱり酷いよね?嵐だけだよ、俺の味方になってくれるの。明樹だって止めてくれないんだもん」
「⋯⋯お前らの喧嘩に俺を巻き込むな」
想像した通りの展開は既にもう聞き飽きている。面倒事に巻き込むなと一切聞く耳を持たない姿勢を見せれば、ようやく切り替える気になったのかお互いが食事に向かい合い、そして昼食が始まる。
「あき、これとかこれ⋯⋯交換しようよ。美味しそうでしょ?」
「⋯⋯自分が食いたくないヤツだけ選んでねえよな?」
「まさか〜!だって、ここにほら⋯サラダとかはまだ残ってるでしょ?そんな酷いことしないよ、俺」
「そのサラダは元々食えるやつだろ?一つだけにしろ」
「えぇ〜??アキのけちんぼ⋯⋯ねえ、嵐!これ!交換しない?」
「ん〜?どれ。⋯⋯なあに、もしかしてこのグリンピースの事言ってんだろ?⋯仕方ねえなあ。んで、なに食いてえの夕は」
日替わり定食だなんて普段選ばないメニューを珍しく選んだかと思えば、薄ら想像していた出来事が目の前で行われる。クリームコロッケのグリンピース、魚、トマト、と、どれも夕の苦手な食材ばっかだなと気付いてはいたが、敢えて様子を見ていた矢先の出来事だ。交換と響は良く聞こえるが、どれも嫌いなものを押し付けるだけの口実だって事に俺が気付かないとでも思ったか。
普段なら俺に断られた時点で諦める。⋯⋯そもそも吉村は選択にすら入っていないらしい
が、今日はそこに嵐が居る。案の定、標的を替えて嵐にあれもこれもと交換して貰った様で満足気に飯を食う夕に鋭い視線を向けながら、今後の事も考えて釘をさしておく事にする。
「おい、コイツの事あんまり甘やかすなよ。そのうちお前の飯の全部いい所だけ持ってかれるからな」
「えぇ?ちょっとそれは聞き捨てならんなあ。少しは頑張らねえとな、夕も」
「そうそう。いつまでもそんなお子ちゃまな態度で明樹の事コロコロ転がしてたらさぁ⋯ほら。どっかのカッコイイ誰かさんに取られちゃうかもしれないからね〜?」
「⋯⋯⋯どういうことだよ」
吉村の一言に段々と夕の表情が険しく、歪んでいく。誰か、とは特定されて居ないが心当たりが有るのか、一瞬俺と重なった視線の奥に違和感を感じる。何だよ、と瞳を細めるが次の瞬間には何事も無かったかのように再び逸らされる視線。⋯⋯この感じ、身に覚えがあるような、無いような。
「まあまあ、さっさとご飯食べて他にも紹介しちゃいたい場所があるんでしょ?早く行こうよ」
「なんでそこまでお前が着いてくるんだよ。いーの俺とアキと嵐だけで」
「良いからいいから。ね、嵐も人数多い方が楽しいでしょ?」
「吉村の方は時間とか大丈夫なの??俺に付き合ってても平気なら、そりゃ嬉しいけど」
「そりゃもちろん!嵐のこと色々友達として知りたいし、俺にも色々教えてよ」
結局、放課後の校舎案内まで吉村も一緒について行く事が決まれば不服そうな夕の表情が視線に映る。
「お前の顔なんてもう見たくもないね」と、隣に座っている嵐と向き合う形で椅子の角度を変える夕に、その視線を浴びながら飯を食い続ける嵐の何とも気まずそうな顔がやけに印象的であった
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