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転校生 4
「⋯⋯⋯お前さ、その為にわざわざ放課後まで着いてきた、なんて言ったらまじで殴るからな」
「ん〜?なんの事?俺は別に嵐の身体が逞しくてカッコイイな〜って色々見てるだけじゃん。ね?」
「っ、確かに距離は近いかもな。そもそも吉村って誰にでもそんな感じなのかな、って思ってたんだけど、違うのか?」
「そうそうあたり!良く知ってるじゃーん。だから、お願い!腹筋見せてよ!」
「マジでキモすぎ⋯。他所でやれよそんなん」
放課後、意気揚々とクラスに飛び込んで来た吉村に急かされる形で早速校内を順当に回っていた。筈だったが、いつの間にか吉村は嵐にベッタリと言うか、⋯⋯気持ち悪くらいにベタベタと身体を触りながら興奮した様に一方的に喋り掛けている。
最初の内こそ普段俺がやられている事を見境もなく誰にでもやってんな、と放って居たがいつまで経っても落ち着かない吉村の奇行に痺れを切らした夕が先に前を歩いていた吉村の隣に並び、軽くその横腹を小突いている。
嵐の方も流石に吉村の触れ方に違和感を覚えていたのか、近付いてきてくれた夕に助かった、と言わんばかりに話を振っているが当の本人はそれでも気にせず、グイグイと距離を詰めている。
⋯⋯流石にそろそろ可哀想だな。
暫く様子を見てるだけで成り行きに任せていたが、そろそろ嵐も限界が近いのだろうとその表情から何となく悟れば、吉村の方へと近付いて後方から襟元を思いっ切り引っ張り嵐との距離を引き剥がす。
「っ⋯、う、わ?!?え、な、なになに?!どうしたの明樹!」
「どうしたもこうしたも、嵐が困ってんだろ。顔見て分かんねえのか?」
「あっちゃー⋯俺とした事が⋯。ごめん!嵐、俺全然周りのこと見えてなくてさ、ほんと⋯迷惑だったよな」
「あ、いや⋯迷惑とかそんなんじゃないから。⋯まあ、俺の身体が気になるなら今度体育の時間とか、機会があればゆっくり見せてやるから。それで良いか?」
「本当に⋯?っ⋯嵐ってほんと⋯男前でやさし⋯!」
明らかに演技掛かった吉村のやり取りに思わず虫唾が走る。⋯相変わらず言葉だけで相手を転がすのが上手いヤツだな
嵐の優しさに漬け込んで上手いこと次の機会までもらえた事で、してやったりと嵐に背を向けた瞬間に緩むその口許に気付けば、掴んでいた吉村の襟元を今度は俺の方に引き寄せてその顔を覗き込む。
「あ⋯キュン⋯。なに、今日はヤケに積極的だね?」
「お前、全部バレてるからな。その汚ねえ笑いさっさと引っ込めろ」
「⋯あらやだ。ちゃんと俺の事見てくれてたって事?うれし」
「⋯⋯⋯はぁ」
自分の頬に手を当てて、きゃっと女々しい反応を見せる吉村の言動に出てくるのは溜息しか無かった。
こいつに構ってる方が時間の無駄だと襟元から手を離せば、今度は標的が嵐から俺に移る。何度もしつこく「もっかい、俺の事みてよ」だの、「ちょっと強引な所が好きなんだよね〜」と減らず口がペラペラと⋯やっぱりこいつを連れてきた事自体が間違いだったわ。
あまりにも広すぎる校内を色々と歩き回り、最後に封鎖されている『風』の屋上も一応紹介しとこうかな、と夕の提案で1階から一気に屋上がある4階まで階段を登り切る。
が、ただでさえ歩き回った後に階数のある階段はキツすぎた。3人からだいぶ遅れた後にやっと屋上まで辿りつけば、ドサリとフェンスに背を預けて身体を降ろす。
「つ⋯かれた。⋯⋯⋯悪い、一旦休憩しないか?」
「まったく⋯ほんとに体力ないんだからアキは。じゃあ、嵐、こっち来て」
残りは任せた。とそんなに広くない屋上の案内であればすぐ終わるだろうと夕に任せる事にする。フェンス越しにグラウンドで活動する生徒の姿をぼんやりと見つめていれば、そう言えば!と口を開く嵐に視線を向けてみる。
どうやら部活動にも興味が有るのらしく、夕に色々と問い掛けている姿が視界に映った。
「あ〜、えっとバスケ部?あるよ。ちょうど今体育館でやってるんじゃないかなぁ。一緒に見てくる?」
「良いのか?うわ〜助かる!1人だと心細かったんだよな〜⋯⋯っけど。明樹、大丈夫か?」
「少しここで休んでから降りるわ。夕と先に行ってて」
「俺も俺も〜!階段登りっぱで足がパンッパンになっちゃった!」
「はぁ?お前もかよ。⋯⋯じゃあ先行ってるからね。明樹に何も変な事すんなよ」
「信用無いなあ。大丈夫だーって、安心して行ってきなー?」
「信用なんて言葉がお前にあってたまるかよ。ばあーか!」
俺の隣にストン、と腰を降ろした吉村の言葉に対して明らかに不機嫌です。と表情を隠しもせず睨みつけて居た夕だったが、確かに何度も俺と同じ様に「うわ〜!階段キツすぎるー!」と嘆いていた吉村の言葉を思い出したのか、仕方ない。と一応釘まで刺して、そして暴言も吐いて、嵐を連れて去って行く夕の後ろ姿を見送る。
そして、隣の吉村に視線を向ければその頬を指先で思いっ切り捻ってやる
「い゛っ⋯?ええ⋯?な、なんなのよ」
「お前何が目的な訳?疲れてる奴がピンピンしてる2人と一緒の速度で階段を登れる訳がねえだろ」
「⋯⋯うわ〜、やっぱり気付いちゃった?どうしよ、明樹には全部バレちゃうなあ。」
「そもそもお前の演技自体が胡散臭いっての」
「嘘だあ?結構良い芝居してたと思うんだけど。それにあの二人だって素直に聞いてくれてた訳だし。」
「騙される方が悪いって言いてえのか?」
「っいてて!!違うって!そんな怖い顔しないでよ。綺麗な顔が台無しでしょ」
夕と嵐の事を馬鹿にされるのは話の筋が違う、と更に吉村の頬を抓る指先に力を入れてやれば観念したように肩を竦ませている。って、違うだろ。こいつが何を考えてんのか知りてえんだけど
「で、何の用だって聞いてんだわ。俺に何か言いたい事があるんだろ?」
「おお〜察しが良いと助かりますなあ。⋯⋯でさ、ここんところ夕とはどうなの?」
「どう、⋯⋯ってどう言う」
急な方向性の問いかけに言葉が詰まる。その問い掛けが何を意図しているのか吉村の意志を読み取る事が出来ず、無意識の内に眉間に皺が寄せられていく。
「ん〜?まあ分かりやすく言えば、最近ヤってんの?って聞きたかったんだけど。どんな感じ?」
「⋯⋯⋯っなんでそれをお前にわざわざ答えなきゃいけないんだよ」
「いやあ?なんかさ〜最近やたらと俺にオススメの動画を教えろって連絡くれるんだよねえ。だからもしかしたらロスとか、そんな感じなのかな?って思ってたんだけど」
「動画⋯⋯?何の動画だよ」
「そりゃ俺に聞くんだからえっろいサイトしかないじゃん。ほら、前に教えてあげなかったっけ?URL貼ってさ、これ明樹に似てるあの子の新作動画だから見てくれ〜ってね」
「あ⋯⋯⋯?あれは、夕が勝手に俺の携帯触って消してたから分かんねえ⋯⋯⋯⋯けど」
急に性事情なんて聞かれてしまえば、そりゃ困惑すんのも当然だろ。思わず言葉に詰まってしまったが、それでもその先に何かしらの理由があるだろう、と適当にはぐらかしながら会話を続けていれば、『動画』だの『URL』だの訳の分からない事ばっか⋯⋯⋯。
いや、見覚えがある。吉村からの連絡に怒った夕が確かに俺の携帯の設定を色々触っていた。⋯⋯その時に何をしていたのか、正確にはちゃんと確認していない。
そして、何となく最近の夕のコソコソとした行動の理由に察しが付いてしまった。吉村の連絡先を消す、という目的でURLを開き、動画を見てしまったのだろう。そしてその動画の内容が気になり、わざわざ吉村に連絡をとって毎日1人でせっせと見ていた、と。
そりゃあ、俺の前でそんな事やってたら怒られるもんな。好きな人の前でそんな動画を見るな、と釘を刺した過去の記憶をハッキリと思い出す。
俺の前で見るな、そうは言ったが俺の居ない所でわざわざ隠れながら見てるのもこれはまた話が違うよな
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