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転校生 5
「ま、ロスだったら俺が相手でもしてあげようか?ってお誘いなんだけど。どう??明樹相手ならいつでもウェルカムなんだけどね」
「⋯⋯勝手にやってろ」
「じゃあ1回だけ試してみない?案外俺とやってみるのも悪くは無いと思うけど。それに、してみなきゃ分かんない事ってこの世の中に沢山あるじゃんね?」
「⋯⋯⋯例えば?」
「例えば⋯?ん〜、こうした時に⋯⋯案外ドキッてしちゃうとか」
今すぐにでも夕を問い詰め、この数日何をしていたのか明確にしてやりたい。段々と募るイライラが吉村との会話にも出てしまいそうだが、それとこれとは話が違う。
一旦冷静になれ、と俺自身に言い聞かせながら適当な言葉を返していれば、突然揺れる視界と共に背中に触れるアスファルトの冷えた固い感触。
と、俺に覆い被さる様に目の前に映る吉村の顔。
「⋯⋯お前ふざけてんのか?」
「違うじゃん。明樹が先に聞いてきたんだよ?俺とヤったらどうなるの?って」
「そんな事一切聞いてませんが」
「嘘だ〜?自分の言った言葉をもしかして忘れちゃったの?」
確かに吉村との会話に意識は無く、適当な受け答えをしていた自覚はある、が、そんな言葉を発した記憶もまったく無い。
今回の目的がどうであれ、こう言う流れになるなら話は別だ。
「さっさと退けよ」
「ん〜?それで、ドキッとしたかどうか聞いてるんだけど⋯どう?」
「は⋯?そもそも吉村相手にする訳がねえだろ」
「じゃあ、これは?」
勝手に倒されてドキドキするか?⋯何を聞いてんだコイツは。全く会話の糸口が掴めず、段々と抑えてきた不満がフツフツと湧き上がってくる。どいつもこいつも訳の分からない事ばっか⋯り、と目の前の吉村を睨み付けて居たが、ふと問われた言葉と共に吉村の指先が俺のシャツの端にゴソゴソ触れている事に気付く。
一体なんだ、と視線を向けてみれば、ひんやりとした指先が直に脇腹を擽り、触れている感触に気付く
「っお前、どう言う事だ?」
「あ〜、どうしようかなあ。じゃあ、次は何処を触るでしょうかクイズでもする?」
「⋯⋯さっきからごちゃごちゃ話逸らしやがって。最初からこれが目的だったろ」
「あっは〜!またバレたの?なら仕方ないかあ⋯。だっていっつも夕がくっ付いてて満足に明樹に触れないのにさあ⋯今日はあっさり嵐の方に行っちゃって。こんな機会俺が逃すと思う?」
「うるせえな。さっさと退けろって言ってんだよ俺は」
薄ら検討はついていたが、いつでもコイツには下心しか無い事には気付いている。その標的がたまたま俺であって、そのチャンスが易々と訪れたと言う訳か。ベラベラと本来の目的を語る吉村の言葉に抱くのは呆れの感情でしか無く、聞く気にもならない。
大人しくされるがままであったが、直接触れられてしまえばこれ以上好きにさせる訳にはいかず、吉村の腕を掴み俺から引き剥がす。
つもりだったが、中々離れてはくれない。そりゃそうか。俺とコイツとでは体格差が違う。夕の馬鹿力でさえ結局対抗出来ずに好き勝手にされていたなら、まあ、それはそうか。
と、思考してる間にも指先は徐々に腹部へと、全体を撫でるように触れながら当の本人は楽しそうに口許を緩めている。
「とか言いつつ、実は触られるの好きなんじゃないの?それともベッタベタ毎日夕に触られてもう慣れっこかなあ」
「良いか?これで最後だからな。さっさと離れろ」
「まあまあまあ、落ち着いて。今みたいにさ、素直に俺に身体を委ねてくれてたら無理にやんないから。だいじょーぶだいじょーぶ」
「⋯⋯はあ。⋯聞き分けの無い奴ってこれだから面倒なんだよな」
何度も忠告してやったが、どうやら聞く耳を持たないらしい。それならば此方にも手段はある。大人しく易々と身を委ねる程、大人しくは無い。⋯俺もなるべくやりたくはないが⋯痛えし。
俺の上に跨る吉村に両腕を伸ばし、その後頭部を掴まえてしまえばゆっくりと俺の方に近付ける。「なになに、キスでもしてくれるの?」と嬉しそうな吉村の表情をぼんやり見つめた後、思いっ切り互いの頭を引き寄せて、力加減も無くその額同士を叩き付ける。所謂頭突きってヤツだが、昔から石頭って言われてんだよな。俺。
悲痛な悲鳴を上げて横に倒れ込む吉村の下から這い出てしまえば、その背中に跨り髪の毛を鷲掴んで俺と視線が合うように吉村の顔を上げさせる。
「もう1回同じ事してみろ、次はお前の頭が割れるまで何回でもやってやるからな。分かったか?」
「⋯⋯⋯っ、い゛っでえ〜⋯!もう既に俺の頭、割れてない⋯?」
「分かったのか、って聞いてんだけど」
「っだあ〜!!!わ、分かった、から!!ギブギブ!!」
「⋯なに、してるの⋯⋯?アキ⋯⋯?」
返事が聞こえない、と更に力強く髪の毛を後ろに引けばやっと諦めたのか、ハッキリと認める吉村の言葉を確認する。こう言う奴はハッキリ自覚させないと後々また適当にゴネて同じ事をやらかすからな。
それでも気が済まずにぼんやりと吉村の顔を見つめながら、コイツ⋯どうしてやろうか、なんて行き場の無い怒りの矛先を考えていれば、驚いた表情の夕がドアの前で立ち尽くしていた。
「別に。⋯⋯ほら、さっさと立て。帰るぞ」
「っ゛!!⋯と、ちょ!!っと蹴ったら痛い、って!もっと優しくしてよ」
この状況を説明する気にもなれず、ゆったりと腰を上げて目の前で転がっている吉村の横腹を蹴れば、再び似たような唸り声を上げて慌てて立ち上がる姿を横目に確認する。
押し倒された事で少し汚れていた背中や腕の汚れを叩きながら夕に近付けば、その場に居ない嵐の存在に気付く。
「あれ、嵐は?一緒に体育館まで行ってやったんじゃねえの」
「あ⋯⋯、途中でバスケ部のヤツに会ったから、一緒に連れてってもらった。そのまま体験もするから先に帰っててくれ、って」
「そうか。じゃあ行くぞ」
「⋯⋯⋯分かった」
俺のピリピリとした雰囲気を感じ取ったのか、やけに素直な夕の横を通り過ぎて先に階段を降りて行く。背後から「何をしてたの」だとか、「その怪我何」と、吉村に問い詰める夕の声が聞こえて来るが、吉村自身も答える気にはならないのか、「自分でやったの〜」と適当に誤魔化している。
あ〜、朝からクソ眠いし余計イライラするわ。
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