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転校生 6
校舎案内をするから荷物は邪魔だと置きっ放しだった事を思い出し、教室まで戻る事に。用事があるから、と逃げる様にそそくさ帰って行く吉村を背に室内に入れば流石に残ってる人は誰も居らず、3人分の荷物だけが残された状態だった。
⋯⋯そうか、嵐も一緒にそのまま出て来たのか
流石に寮までの道は分かるだろうし、先に帰ってても良いと言い残す位なら何も問題は無いだろうと自分の分の荷物を手に取れば、夕の様子をチラリと確認してみる。
「⋯⋯あの、アキ。俺も、今日は⋯用事⋯あるから」
「何の?」
「えっと、寄らなきゃ⋯⋯行けない所があって」
「なら俺も着いて行くわ」
「い、いや!大丈夫だから、先に帰ってて⋯いい、から」
「⋯⋯⋯お前さ、俺に何か言わなきゃいけない事あるんじゃねえの?」
案の定、吉村と同様に逃げるつもりなのか“用事”だと場を濁す夕の言葉に瞳を細める。吉村から事情を聞いた手前、今まで俺に隠れてやっていた事を全部本人から吐き出させるつもりで居れば、逃すつもりなんてない。
普段なら「そうか」と一言で済ませていた答えも、今日ばかりは一切聞く耳を持たずに逆に問い掛けてみる。
「言いたい事なんて、別に⋯」
「吉村が妙な事を言ってたんだよな。お前から、AVを今度は俺に貸して欲しい。だの、アダルトサイトでオススメの動画があったら教えて欲しい、だの連絡が毎日来るってな」
「そ、そんなの⋯あいつのいつもの虚言じゃん。アキの⋯気を引きたいから、言ってるんだよ」
「じゃあ、お前は特に吉村と連絡を取るような事はしてないし、何も見てないって事で良いのか?」
「⋯だから、そう言ってるじゃん」
素直に答えてやれば多少は多目に見てやっても良いか、と様子を伺って居たがやはりそうはいかないのらしい。俺に隠し通すつもりなのらしく、会話から身を引く素振りを見せれば今度は素直にそれに乗ってくる。
⋯そうなれば、俺にも考えはある。
夕の元まで近付いて、片手を差し出す。それだけでは流石に意図が理解出来ないと不思議そうな表情を見せる夕に向けて、改めて言葉を告げる。
「携帯、出せ」
「⋯⋯携帯⋯?誰の⋯?」
「お前以外に誰が居るんだよ。何も無いなら別に俺が今からお前の携帯の中身見ようが、関係の無い事だろ?」
「⋯じ、じつは今日部屋に忘れちゃったんだよね。だから、今は無理⋯って言うか」
「朝触ってたろ。ちゃんと見てる」
「でも、面白いもん何も無いし⋯」
「⋯⋯⋯お前さ、今の自分の立場が分かってねえのか?俺が優しく聞いてやってる内に行動しろ」
「っ⋯⋯⋯わか、った⋯から」
夕の選択次第で俺の言動も変わる、そう仄めかした様な言葉を伝える事で悟ったのか渋々差し出された携帯を受け取る。
「っアキ!!まって、⋯⋯怒らない、でね⋯?」
「お前の態度次第で変わるんじゃねえの。それは」
俺が怒るか怒らないか?んなの既に答えは決まってる。怒ってなけりゃわざわざお前を詰める様な事はしていない。だが、一応俺の言葉1つで夕の態度が変わるなら少しくらいは希望の種を残してやった方が良い。俺の機嫌を断言する様な言葉は残さずに、あくまでもそれは夕次第だと念を押す様に告げる。
不安気な視線が向けられる中、受け取った携帯の画面を開いて中身を確認する。勿論、やるべき事は決まっている為すぐに見慣れたSNSアプリを開いてみる。
つい最近まで連絡していた事が見て分かるように1番上に表示されている吉村の名前。
俺には制限する癖に自分は堂々と連絡取ってます、ってか。
案の定、中を開けば吉村の言葉通りのやり取りが行われていて、念の為に複数添付されたURLの内の1つを適当に選び開いてみれば、見覚えのある顔の人物がそこには居た。
そのまま夕にその画面が見えるように表示されたまま携帯を返せば、緩く首を傾げながら夕に視線を戻して。
「で、それを見たお前からの言い訳は?」
「⋯っ、もう、言い訳、出来るわけないじゃん」
「そりゃそうだよな。んじゃあ、その動画全部消してくんね?AVはお前の部屋にあんの?」
「⋯⋯朝、貸して貰ったから今持ってる。」
「じゃあそれは俺が預かって吉村に返すわ。」
もう一度手を差し出せば数本のAVが鞄の中から取り出され、そのまま手渡される。ってか、普通にこんなもん学校で持ち歩いてて担任にでも見つかったらどうするつもりなんだろうな、コイツらは。
携帯の方も様子を眺めて居ればポチポチと暫くの間操作していた指先が止まり、「終わったから」と改めて素直に手渡された携帯の画面を確認してみれば、全てが綺麗に消されている。「他には?」と、再度問い掛けてみれば、もう他には何も無い。とこれで最終確認を終える。
「お前はさ、それ見て1人でやってたのか?」
「やってる、って何を⋯」
「シコる事しかねえだろ。他に選択肢があんのか?」
「ま⋯まあ、1、2回⋯とかは⋯やっちゃった、かも」
「男だもんな?そりゃあんなもん見てたら勃つもんがあるし、仕方ねえか」
へえ、コイツなんも覚えてないんだなと改めて確信する。俺の雰囲気に妙な違和感を覚えたのか、じっ、と不安気な様子で俺の顔を見つめる夕の視線と俺の視線がぶつかる。
疲れてんのかもな、俺も。全然許す気になれねえわ
朝からまとまらない思考が、疲労や苛立ちも重なり更にぐちゃりと歪む音が聞こえた。
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