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転校生 1

『今日から新しい転校生がくるんだって!!』 『めちゃくちゃイケメンらしいよ』 『え〜?俺はなんか怖そうなやつ。って聞いたけど』 『それマジマジ!!俺も一瞬職員室で見ちゃったんだけど、⋯本気でビビったわ』 登校したその瞬間から四方八方で聞こえてくる「転校生」絡みの会話。 そういや昨日の帰り際に担任がそんな話してたっけか。 クラスに着いた今でも『転校生』、『イケメン』、『ヤンキー』『背がたけえ』だの、余計にその主張が強い話題が増えたような気がする。 よくもまあ、こんな短時間でそんなに情報が集まったもんだか。 正直、俺だって転校生に興味が無いってワケでは無いのだが⋯⋯今はそれ所では無いのもまた事実。 登校前の全力ダッシュで上がった息を整えながら、自分の席に着く。 最近は大概何かと時間に迫られている。 今朝も寝起き5分で支度をし、慌ただしく出てきた所だった。 結構遅刻ギリギリかと思ったが全然そんな事は無えし、逆にまだ余裕なんだよな。学校がちけえと何かと便利だわ。 ──⋯俺一人の生活だと、こんなにも生活が変わっちまうんだな。 俺の生活ってこんなにもギリギリなもんだっけか? 夕と過ごす前の生活はもうちょい余裕があった様な⋯⋯んな事もないか。気の所為だわ。 昨日も結局夕とは別に自分の部屋で過ごし、そんまま登校して来た。 最近は夕がヤケに忙しいみてえで、色んな予定を理由にバタバタと先に帰っていくその後ろ姿を見送る事が増えてきている。 「あき、ごめん!!今日はちょっと、俺の部屋に帰れないんだ。」「⋯⋯っ今日も用事があって。⋯ほんと、ごめんね。」 「⋯⋯っあ〜!!もう、ほんっっとうに!!ごめん!!アキ!!大好きだよ!!」 と、まあ⋯元々落ち着きのない奴だが、帰る時まで賑やかなんだよな。コイツは。 まあ⋯色々向こうにも事情が有るらしいし、仕方ねえ事なんだけど。 ⋯⋯よく分かんねえが。 その度に理由を聞いてはみたが、「ん〜?なに、寂しいの?」と、意図しない答えばかりが返って来る。 大体こいつが嘘をついてる時は何となく分かるのだが、その核心を突く前に話が逸れてしまう。 ⋯逸れるというか、逸らされてる、というか。 前まではんな事も出来なかったのにな。成長してんだか、何なのか。 ⋯まあ、俺も俺で最近は別ゲーにどハマり中で、それとなく充実した日々を過ごしている。 毎日睡眠時間を削ってプレイしてた結果が今朝の状況に至るって訳だが。 なんやかんやでこの数日は互いに自分の部屋に戻り、自由な時間を過ごしている。俺の部屋も定期的に夕が片してくれてたお陰で何も不便なく使えてるんだけどな。⋯⋯少しずつ元に戻りつつはあるけども。 未だにアイツが何してんのかは分かんねえし、明らかに何かを隠してる事に間違いはねえけどわざわざソレを追求する気にもならねえのが現状、って言うか、この数日間の寝不足が効きすぎてて頭が働かねえってのもあるけど。 さっきから欠伸の止まんねえこと。 ふと何気無しに離れた席の夕に視線を向けてみる。じ〜っと真剣な表情で携帯を見つめては、ブツブツと何かを呟いている。 ⋯⋯今日も忙しい用事、ってヤツか。 大体朝からそんな調子の日は決まって用事が出来るのらしく、ずっとソワソワと落ち着きが無かったり、逆にぼーっと上の空だったり。 まあコイツにもプライベートってもんが有るんだろうな。よく分かんねえけど。 基本的に俺からは干渉はしない。 そう言う意識で今までコイツとはやって来た。⋯⋯という事にして、夕から意識を逸らしていく。 そしてまた、俺の口からは止まない大きな欠伸が一つ漏れていく。 何もする事の無い空間。 少しでも気を抜いてしまえば押し寄せてくる急激な眠気に襲われてしまう。 ⋯っ、くそ眠い。 幸い、担任はまだ来てない。⋯その間、1秒で良い⋯一瞬で良いから、目を閉じさせてくれ。 そのまま、机の上に吸い込まれる様な形で身体を伏せていく。 窓際という事もあって冷気を感じやすい位置ではあるが、代わりに陽当たりが良い場所に俺の席はある。 んなもん、自由に寝てくれって言ってるようなもんだよな。 ポカポカ、と身体を温めてくれる陽の光を浴びながら、気付けば俺の意識は一瞬で飛んでしまった。 「⋯⋯⋯です。⋯⋯しく、おね⋯⋯⋯⋯す」 ぼんやりとした記憶の奥で、周りがザワザワと騒音に包まれいくような気がした。 かと思えばその声は一気にしん、と静まり返り、今度は聞き慣れないハッキリと芯の通った声が室内に響き渡っている。⋯⋯様な気がする。 周りの騒がしさで一度は目を覚ますが、覚醒するには脳内の処理がまだ追い付かない。 ぼんやりとした思考回路で少しだけ周囲の状況に耳を澄ませてみる。 「⋯⋯と言う事で、今日からこのクラスの一員だ。⋯⋯えっと、席は⋯⋯もと、⋯⋯おーい。⋯⋯宮本。⋯こら!宮元明樹!!起きろ!!」 ふと、俺の腕を軽くつつかれる感覚に気付き何事かと顔を上げてみる。 どうやらさっきから俺の名前が呼ばれていたらしく、前の席の奴がこっそり担任を指差しながら教えてくれた。 寝ぼけ眼を何とか無理やりこじ開けながら前方に視線を向けてみれば、しっかりと呆れた顔を浮かべている担任と視線が合ってしまう。 どうやら俺の後方に転校生用の席が作られていたらしく、その説明をする為に俺の名前を呼んだのだが当の本人はぐっすり夢の中だった、と。 改めて席に着く様にと担任に指示された転校生が俺に向かって近付いてくる。寝起きの視界ではその姿がよく確認出来ず、俺の後ろの席に座った事だけは確認出来た。 ⋯もうそんな時間か。 ゆっくりと伏せていた身体を起こして噂の転校生とやらの姿を確認するついでに挨拶だけでも、と後ろを振り返ってみれば、その人物とバッチリ視線が合わさる。 ⋯⋯、⋯あ?? コイツ、⋯⋯ちょっと待てよ。確か⋯!! 「あら、し⋯⋯?」 「⋯⋯っ、うわマジかよ!!明樹じゃん!!」 俺の目の前にはなんと、以前ゲーセンに行った時に知り合った見知った顔の彼が席に座っていた。

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