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転校生 2

派手な銀髪は今日も丁寧にセットされていて、バチバチなピアスで強めな印象を与えがちだが、笑うとその印象がガラリ、と変わり人懐っこい印象を与える雰囲気を醸し出している。 出会った時となんも変わんねえな、コイツは。 ⋯まあ、ただ一つだけ変わった所があんなら俺と同じ制服を着ている事位、だろうな。 いや、⋯マジか。まさかこんな所でまた会うなんてな。 こんなのが朝から職員室に居たらめちゃくちゃ目立つ⋯ってか、そりゃ色んな噂が飛び交う訳だわ。 「⋯ってか、2人に言いたい事があるんですけど〜。まあ、今は明樹だけでも良いからさ。聞いてくれねえか?」 「何だ、急に」 ぼんやりと嵐の顔を見ながらゲーセンでの出来事を思い返していれば、今までニカニカと嬉しそうに俺の顔を見て笑ってたその表情が急にガラリ、と変わり、はっ、とした顔で告げられる言葉。 何かしたっけな、俺等。 「夕と明樹さぁ、あれから一回もゲーセンに来なかったろ?また今度な〜って別れた後さ、俺結構通って探してたんだからな?2人の事。」 「⋯⋯それは悪かったな。⋯他の事ばっかで思い出せてなかったわ」 「⋯何してたのよ、俺と会えてない期間。」 「⋯、⋯⋯ゲーム。」 あれから俺等の事を探してくれてたのか。 言っちゃ悪いが、すっかり忘れていたというか、ここんとこ最近は余計に外に出る機会さえ無かった様な気がする。 拗ねた恋人の様な言い回しに対してしばらく考える間を設けた後、ボソッと呟いた俺の言葉に大袈裟な程の溜息が漏らされる。 「⋯だろうなぁって思ってました〜。俺の事を忘れてすぐ他の子の事ばっか⋯⋯」 さっきまで笑っていたかと思えば今度はしゅん、と寂しそうな表情で俺のことをチラリ、と見ていたり。⋯⋯それは、上目遣い⋯というヤツなのだろうか。威圧感しかねえんだが。 そもそも俺よりもでけえ奴にんな事されてもな。 見れば見るほどにコロコロと変わる嵐の表情に、ふと、どこか既視感を覚える。 何だろうな、この感じ。 「⋯⋯まあ、また会えてんなら良いじゃねえか。結果良ければとか何とか言うだろ?」 「⋯そうやってすぐ誤魔化されるような女だと思ってるワケ?!⋯⋯ってまあ、んなのは冗談で。正直、また会えた事がすっげえ嬉しいわ」 よく動く嵐の表情は見てるだけでも面白い、と言うか。 ついさっきまで俺の言葉に拗ねたような表情を見せてた筈だが、すぐにまた人懐っこい笑みがその口元には浮かんでいる。 表情豊かな所とか⋯多分、夕と似てるような表情の使い方をしているような気がするんだよな。 だからどっかで見た事あるような、不思議な感覚をコイツに対して抱いちまうんだろうな。 ⋯⋯だからか知らねえけど、出会ったばっかの奴とは思えない位に緊張感の無い会話が溢れてくる。 「⋯⋯で、俺の事を忘れるくらい夢中になってたそのゲームってどんなヤツなの?」 「あ〜⋯前に嵐が取ってくれたフィギュアがあんだろ?あのゲームだよ。最近復刻版出てっからずっとやってんだけど⋯そしたら見事に寝不足⋯ってとこか。」 「⋯⋯それマジ?!うわ〜、やっぱ俺の事をもうちょい早く思い出すべきだったわ、明樹は。俺もさ、ちょうど昨日からそのゲーム始めてんだよ。⋯ちなみに寝不足なのも一緒」 ヤッタネ、と俺に向けられたピースに驚いた表情を浮かべる事しか出来なかった。 ⋯こんなに気が合うヤツ、初めてかもな。 そっから、気付けば俺達はそのゲームの話題で夢中になっていた。 「で、ステージはどこまで進んでんの?」 「え〜っと、確か⋯3の4とか⋯だった気がするけど。⋯⋯どう?」 「⋯いやいや、流石に間違ってんだろそれは。昨日から始めてんだよな?んな奴がそこまで行けるワケがねえから」 「なーにいってんの、朝までぶっ続けでやればそんくらいよゆーでしょ」 「っ⋯マジか。って事は、寝ないで転校初日やってんの?⋯⋯すげえわ、お前。考えらんねえ⋯元気すぎて馬鹿みてえじゃん。」 「ん、んん??それはどう言う意味、なのかねえ。俺がガキみたいって言いてえの?宮元クン。 ⋯⋯だっけ?合ってる?」 普段はそんな事ねえんだけど、コイツが相手だと調子が何故か狂ってしまう。 思わず俺の口から零れた言葉をしっかりと拾われた挙句、そのお返しとばかりに軽く額を指先で弾かれてしまう。 ちゃんと覚えてんだよな、俺の苗字まで。 「合ってるけど。⋯⋯いってえな」 「そんな痛くねえだろ〜?ちゃんと手加減してあげてんだから。」 「お前の加減がよく分かんねえんだが」 「そんならもっかいやってみようか?」 「要らねえよ、馬鹿力が」 また口が滑ってんな、俺。 気付いた頃には既に手遅れで、近付いてきた嵐の指先がサッと俺の額を叩き離れていってしまった。 しかも、さっきよりもちゃんと痛え。 「⋯⋯加減してんじゃねえのかよ」 「俺に加減をさせなかったのは明樹だろ〜?お互い様、って事で」 「⋯⋯ば、」 「おっ??」 「⋯っ何でもねえよ」 俺の前にズイっと出される嵐の指先。それが何を意図してるのかすぐに理解してしまえば、俺の口は反射的に言葉を抑え、すぐに口を閉ざしてしまう。 そんな俺の事を見て、『分かってんじゃん〜!!』と、これ見よがしに俺の頭がくしゃり!と大胆に撫でられてる。 ⋯⋯筈だが、その加減もなってねえ腕が俺の頭ごと掴んで左右に振られてる様にしか見えねえんだよな。 ⋯んの握力どうにかならねえのか。 「で、そのさ、明樹の方こそどこまでステージ進んでんのよ。俺よりだいぶやり込んでそうに見えるけど」 「あぁ、ボス戦の手前位⋯だったっけか。確かその辺だと思うけど」 「⋯⋯っセンパイ!!今度教えて欲しいとこがあるッス!!」 そして、ガッ!と掴まれた俺の両手。そのまま祈る様に組まされて、グッ、と力の込められた嵐の両手で俺の手がすっぽり包み込まれてしまった。 ⋯⋯コイツ、あったけえな。 ──じゃなくて、 「別に良いけど。⋯嵐の方が俺よりも上達早そうな気はするけどな」 「まあまあまあ、その時は俺が明樹に教えてあげっからさ。今だけは俺の先輩って事で」 「謙虚って言葉知らねえのな」 「ある程度大胆な方が男はモテる、って言うじゃん。それ目指してんだよな、俺。」 大胆、か。まあ確かにコイツの見た目は何もかもが大胆で派手目な方ではあるか。 じぃ、っと目の前のその風貌を眺めていれば、やがて嵐の顔が気まずそうに、そして静かに離されてしまった俺の両手。 「⋯⋯っあ〜⋯なあ明樹。もうそろそろ前、向いた方が良いかもな。初日からセンセーに目付けられたら流石に困るだろ、俺も明樹も」 視線だけで俺の背後を指し示している嵐の言いたい事が、良く理解出来た。結構長めに話し込んでしまってた様な気もするが⋯まあ、だいぶ大目に見てもらってんのもコイツが初日だからってのがデカいんだろうな。 しれっと身体の向きを変えて授業の準備をそそくさと始めた所で、ツンツン⋯と背後から呼ばれた控えめな合図に気付く。 担任にバレねえように口許を教科書で隠して少しだけ身体を後ろに寄せ、「何だ」と短く返事を返す。 「昼、一緒に食っても良い?学校の事とか色々聞きてえ事あるし。」 「あぁ。そん時は夕も一緒だと思うけど」 「⋯あ?!夕も居んの?!」 「っ声がでけえわ⋯!⋯⋯ほら、向こうに居るだろ」 「悪い悪い。えっと、お〜⋯??あっ、丁度目が合ったわ」 『夕』という言葉を聞いて、急にガッ!と跳ね上がる嵐の声のボリュームを慌てて指摘し、チラリと担任の様子を盗み見てみる。 が、どうやらバレてなかったのらしい。 これ以上は流石にバツが悪すぎる。コイツが一緒だと余計にな。 ⋯っまあ、何も無ければそれで良い。 夕の席の方を指差してその存在を知らせるついでに、俺もチラリと視線を向けてみる。 すると、バッチリ絡み合う互いの視線。 ⋯⋯明らかにずっと俺等の事を見ていたかの様に離れる事の無いその視線と、珍しく無表情な夕の歪な雰囲気に違和感を覚える。 一体何だと目を細めて合図を送るが、次の瞬間にはその視線が嵐に移動し、嬉しそうに笑いながら互いに軽く手を振り合っている。 そん時には普段と変わらないケロリとした表情で、『またあとで!』と分かりやすく口を動かして伝えている夕の意志を汲み取り、改めて視線を前方の黒板へと向ける。 と、そこにも鋭い視線が一つ。 ⋯⋯っやべ。 すっかり油断しちまってたわ。 その視線の意図に気付き、すんません。と軽く頭を下げて謝る。 そっからは真面目に板書を繰り返しながら、そして監視されるかのように熱い視線を度々前方から浴びながら⋯俺の一限目が漸く始まった。

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