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転校生 3

嵐とのやり取りですっかり忘れ去られていた筈の眠気が、静かにその存在を主張し始めてしまっていた。 1限目が終わり、2限目、3限目⋯と時が進むにつれて制御出来てた筈の眠気が遂に頂点を突破し意識を失い掛けたその時、背後からツンツン⋯と指先で触れられる感覚に気付く。 「⋯⋯っ、どうした」 「いや、コッチが聞きたい言葉な、それ。⋯⋯何、もう限界って感じなのか?」 「⋯まあ。⋯⋯それなりに」 「ずっと、頑張れ〜!応援してやってたんだけどな⋯。伝わってなかったか」 「んだよそれ⋯」 俺が眠気と抗ってた事には気付かれて居たのらしい。 応援⋯と言われてもそんな気配さえ感じ取れなかった位には全く身に覚えの無いもんが俺に届いてるワケもなく、⋯⋯逆に何をしてたんだコイツは。 妙に気になっちまうじゃねえか。 「で、さ。ここのオススメの飯ってなんなの?」 「飯⋯?もう昼の話かよ」 「ここの食堂ってメニューが豊富らしいじゃんか?それが今日1番の楽しみだって言っても過言じゃねえからな。」 「まあ⋯そう言う奴も居るよな。⋯⋯じゃあ例えば、どう言う系統の飯が好きとかあるのか?丼、とかパスタ、とか色々種類あるけど」 急にガラリ、と雰囲気の変わった話題に思わず首を傾げてしまう。 ⋯⋯飯、か。 きっと食う事が好きなんだろうな。まあまあ似合ってるが。 ⋯俺も何食うか決めねえとかねえとな。 最近は特に腹が空かねえ、と言うか、そもそも飯に対しての興味がめっきり湧かない事が増えてきた。 「あぁ〜、丼物とか結構好きかもな。カツ丼、牛丼、スタミナ丼。定食なんかもあるんだろ?焼肉定食とかガッツリ行きてえかもな!」 「⋯⋯そうか。今のヤツ全部あると思うけど」 「マジ?!最高じゃん。っうわ〜、飯の話してたらめちゃくちゃ腹減ってきちゃったわ。⋯っきちぃ〜!」 嵐の好みを聞けば聞くほどずっしりとその飯の重みがのしかかってくるような、そんな気分になってしまう。 ⋯どれも見事に重てえもんばっか。 空腹だと告げる嵐とは裏腹にその飯の名前を聞いてるだけでも乗り気じゃねえ俺の腹はどんどん満たされてしまう。 そして、3限目の終了を知らせる鐘が鳴り響いた。 眠気は無事に吹っ飛んでいったが、代わりに俺の満腹中枢が一気に満たされてしまった。 ⋯⋯良いんだか悪いんだか。よく分かんねえわ 授業終了後の僅かな休憩時間にも、嵐との交流を求めて色んな奴がやって来る。勿論その度に夕もやって来ては居たのだが、俺の前に立ちはだかり背を向けながら自分だけ会話を楽しむだけで、俺とは会話も何も無く終わってしまう。 普通に邪魔なんだが。⋯んだコイツは。 そしてようやく4限目が終わり、昼食を知らせる鐘が鳴り響くと同時に後ろの席からガラッ!と椅子を引き立ち上がる音が聞こえ、意気揚々と俺の隣に立っている嵐の姿が次の瞬間にはそこに存在していた。 「食堂に、行こう!すぐに行こう!!」 「⋯っと、待てよ。まだ片付けも何も⋯⋯」 「行くよアキ」 「⋯っ待てって言ってんだろうが、っ⋯!!」 俺を急かす嵐の言葉を制止し、机の上の教材を片付けていく。⋯筈だったが、続け様にやって来た夕が無理矢理俺の腕を取り、引き摺られる様にして教室から出されてしまう。 俺の静止の声も虚しく夕に届かなければ、俺の事を差し置いて嵐と楽しそうに会話している夕をギッ、と睨み付ける。 「あ〜あ、可哀想に。そんなに引っ張っちゃったらアキの腕がもげちゃうって」 「⋯⋯吉村」 不意に背後から聞こえた聞き慣れた声と共に俺と夕の距離が引き剥がされ、気付けば俺の身体は吉村の腕の中に納まっていた。 平気かと俺の顔を覗き込む吉村の顔が不自然にも傾き、そして俺の身体にペタペタと触れながら問われる言葉。 「明樹、痩せた?」 「⋯⋯んな事ねえけど」 「絶対そうだよねえ。だって肩のとことか結構骨が当たって触り心地が違う、って言うか」 ⋯⋯まあ、そりゃそうだろうな。 薄々気付いてはいたが、まともに飯を食わねえだけですぐ変わっちまうもんなのか。 ⋯⋯だが、それを夕に気付かれてしまうのは話が変わってくる。過去に同じような状況で飯は要らねえ、と突っぱねた事があるが、その日からキッチリ3食無理矢理食わされた記憶が不意に蘇ってしまう。 キツかった、な。あん時は。 だからこそ面倒な事にならねえように吉村の言葉を適当に受け流していれば、やがて背後からズンズン!!と、明らかに怒りの混ざった足音が俺等の元まで近付いて来て、そして再び俺の腕が力強く引かれてしまう。 「⋯⋯吉村、邪魔すんな」 「あれ、なになに?すっごいご機嫌斜めじゃん。珍し」 「べつに、いつもの事だろ!」 「まあ確かによく怒ってるけど。そんな感じじゃなくてさぁ、なんかこう⋯虫の居所が悪いって言うか。⋯もしかして、焦ってる感じじゃない?」 コイツはいっつも核心を突いた様な事ばかり言ってくる。 夕の事に関しても、その態度の横暴さに薄々気付いてはいた。全く俺の言葉に耳を貸さないと言うか、視界に捉える事さえしようとしない。そのくせ、絶対に俺の傍から離れないし離さない矛盾した態度を改めて吉村がズバズバと夕に指摘をしていく姿を静かに見つめる。 多分、一部始終をどっかで見てたんだろうな。 「⋯⋯そんなんじゃないし」 「ふぅ〜ん?⋯まっ、俺は噂の転校生クンの様子を見に来ちゃったんだけどねぇ。⋯⋯うっわ、やっぱめちゃくちゃイケメンじゃん!」 特に深入りはせず、意味有り気な視線だけを残してしれっと俺から離れて行った吉村が嵐の隣に並び、親しげに何かを話している。 そしてこの場に残された夕と、俺。 俯いたまま動かなくなってしまった夕の横腹を軽く小突き、その様子を伺ってみる。 「行くぞ、ほら」 「⋯⋯⋯⋯、⋯。」 「んだよ。いつもはうるせえくらい喋ってんのにな」 「⋯⋯、⋯から。」 「⋯⋯何?」 「アキが、俺の事⋯⋯ぜんぜん⋯見て、くれないから」 ⋯⋯んな事だろうと思った。嵐の相手ばっかして自分に構って貰えないから怒ってます、と。 「だからそうやって不貞腐れてんのか?」 「⋯別にそんなんじゃないし」 「なら良いんじゃねえの。んじゃ、俺も行くから」 ──敢えて普段の様な甘やかしを避けて話を終わらせてしまう。 そもそも、コイツだって最近は俺以外の事に夢中になってんだもんな。何を隠してるのかは知らねえが。 だからこそ俺が一々コイツの不満に付き合ってやる義理は無い。自分でどうにかしろ。 慰めてくれるとでも思っていたのか、素っ気ない俺の態度に対して驚いた様な表情で俺の事を見つめているその視線にさえも目をやる事なく、先に歩いて行ってしまった2人の後ろ姿を追いかけて行く。

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