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其ノ弐、絆

【主要登場人物】 ふゆは 伊丹 ナギ 【その他登場人物】 幻洛 劔咲 裂 ---------- 「こんな感じ…かしら…」 夕立を予感させる冷たい風が吹く中、ふゆはは屋敷の庭園で結界の術を身につける為に励んでいた。 「飲み込みが早いですね、結界の連結部分も安定しています。流石、ふゆはさんです。」 ふゆはは術を覚えることが本当に早かった。 これも、彼女の意志の強さの為なのだろうか。 「結界の連結部分は、己の精神の乱れによっても崩壊しやすくなります。今の感覚を、よく覚えておくように。」 ここまでは、基礎中の基礎とも言えること。 関門は、すぐ先にあった。 「…さて、本題に入りましょうか。」 「!」 いつもより声音の低い伊丹。 それが合図かのように、突然、冷たい風が強く吹き付ける。 陽の光が、雲により遮られた。 伊丹の隣には、あり得ない者の姿があった。 「なん、で…」 「ああ、安心してください。これも僕の術によるものです。」 怪異の別名、『邪狂霊(ジャキョウレイ)』だ。 禍々しく霊気を放ち、怨み、憎しみによる唸り声を上げ、 強すぎる怨念の為か、その姿はとても生き物とは思えないほど崩れ、口は裂け、眼は顔全体に増殖し、腕や脚には蛆虫のようなものが生えていた。 まさに”邪で狂った霊”の名の通り、完全な異形となっていた。 こんな”もの”が、術で形成されているなど…。 「きゃっ…!」 目の前の現実を受け入れきれていないふゆはに、邪狂霊は容赦なく襲いかかった。 ふゆはは酷く動揺していた為、結界は呆気無く崩壊する。 「痛、っ…!」 崩壊した結界から邪狂霊が入り込み、容赦なくふゆはに攻撃を仕掛けた。 蛆虫のようなものが生えた腕に殴り飛ばされ、ふゆはは庭園の外壁に強打する。 「本物の邪狂霊は、待ってくれるほど優しくありませんよ。」 「ッ…」 邪狂霊に続き、ゆっくりと伊丹が歩いてくる。 「言ったはずですよね。結界そのものを維持するには、気力と体力が必要になる、と。」 そう、これは結界の術を学ぶ為に行われている鍛錬。 いつもの、いつも通りの、術を身につける、自分の師との鍛錬のはず。 なのに、どうしてだろうか。 「ぐっ、…!」 今のふゆはにとって、伊丹すらも恐怖の対象であった。 いつもの、伊丹のはずなのに、伊丹には見えない、これじゃ、まるで… 「立ちなさい、ふゆはさん。貴方が習得したい術はこの程度だったのですか?」 「!」 ふと、我に帰るふゆは。 今、自分と敵対しているのは、この偽物の怪異なのだ。 「っ…!」 意識が朦朧とする中、気力を振り絞って立ち上がる。 同時に、邪狂霊が再び襲いかかる。 「ひ、ぐっ…!」 咄嗟に、自身の周りに結界を形成し身を守る。 暴力的な圧力が結界越しにのしかかり、蹌踉めき、膝をつきながらもふゆはは必死に耐えた。 目の前に、あの悍ましい邪狂霊が、泣き声にも似た叫びを上げながら、血走った複眼でこちらを凝視している。 直視出来ず視界を遮るも、脳裏に目の前の邪狂霊が映り込み、全てが支配される。 本来なら、こうなる前に伊丹やナギたちが自分を守っていたはずなのに。 「この圧力で三十秒耐えなさい。耐えられれば、今日の鍛錬は終わりにします。」 今の伊丹は、”あちら側”にいる。 『自分の身は自分で守りたい。』 そう、これは自ら望んだ結果だ。 だから、助けなど来ない。 これで、良かったんだ…、と ふゆはは自分で自分の心を偽り、そう思い込ませる。 …助けてほしいなど、今更… 「いっ…!!」 結界に、亀裂が入る。 ここで崩されたら、全てやり直しになる。 この状況を脱するには、ただひたすら耐えなければならない。 時の流れを、残酷なほど遅く感じた。 先に強打した時の痛みなど、今はもう感じる余裕すら無かった。 今、何故この様な状況下にあるのか。 今、誰と敵対しているのか。 今、自分がどの様な姿をしているのか。 「ん、ぐ、あ”ぁぁぁッ!!」 スッ…っと、自身にのしかかっていた圧力が音もなく消える。 伊丹の言う時間通り耐えきったのだ。 「か、はっ……」 身体が、精神が、全てから解放される。 感覚の鈍った全身に、冷たい水滴が当たったように感じた。 土砂降りの雨が降っていたことに、今、ようやく気がついたのだった。 「…よく頑張りましたね。今日はこれまでにしましょう。」 「…はっ…、は…」 冷たい雨と共に、いつもの伊丹の声が身体に染み込む。 「初回にしては良い出来でしたよ、ふゆはさん。」 「は…、」 自分は今、何をしていたのだろう。 何が良い出来だったのだろう。 冷たい雨が吹き付ける中、ふゆははぼんやりした感覚でこれまでのことを思い出す。 「…。やはり…僕が思っている以上に、貴方はお強いようですね…」 そう言う伊丹は、いつもの優しげな表情をしながらもどこか悲しそうだった。 そんな伊丹が目に映り、ふゆはは徐々に意識がはっきりしてきた。 あの恐怖すら感じた伊丹は、もうそこには居なかったのだ。 「…ふゆはさん…。」 「っ…!だ、いじょ…ぶ、だから…」 俯いたままのふゆはに、伊丹は心配そうな声で手を差し出した。 しかし、咄嗟に起き上がろうとするふゆはに、その手は払い除けられる。 大丈夫、私はまだ、大丈夫だから。 だから伊丹、心配しないで。 「…本当に、どうしてもこの鍛錬が辛くなったら、身体も心も、壊れる前にちゃんと言ってくださいね…。」 「!」 ふゆはの心の中で、張り詰めていた何かが崩れだした。 「その時が言いづらい状況でも、僕は必ずふゆはさんの言葉を聞き入れますから…。嘲笑ったり、見放したりはしませんから…。これだけは、約束させて下さい…。」 一番言ってほしかった言葉、だけれども、一番言わないでほしかった言葉。 感情が、グシャグシャになる。 「だめ…」 「え…?」 「どうして…、どうして貴方はそうやっていつも優しいことを言うの…。」 ふゆはは俯いたまま、己の前に座り込む伊丹の袖を掴む。 力を使い果たした反動により、その小さな拳はきちんと握ることは出来なかったが。 「私、は…、いつまでも貴方の足手まといになりたくない…。貴方の弟子になって随分経つのに、怪異に巻き込まれた時はいつも守られてばっかりで…、いつかは、どうにかしなくちゃって、思っているのに…っ」 声を震わせながら、大粒の涙が雨と共に零れ落ちた。 「なのに…っ貴方のその優しい言葉を期待してしまっている自分がいて…っ、嬉しい、はずなのにっ…、辛くて…苦しく、て…っ」 「…。」 本心は助けを求めていた。 しかし、その思いを感情で押し殺していた。 自分で自分を殺してでも、伊丹に伝えた志だけは守ろうとしていた。 「足手まといだなんて…、そんなこと、一度も思ったことはありませんよ…。」 伊丹の優しく温かい声が、冷たい雨に混じり降り注ぐ。 「師として、親代わりの身として、貴方を守るのは当然の事です。ふゆはさんが、僕の足手まといになりたくないという気持ちと同じに、僕も、ふゆはさんを危険に晒したくないのです。」 その言葉に、ふゆははようやく顔を上げた。 涙で視界はぼやけるも、伊丹が優しく微笑むのがわかった。 「僕だけではない、ナギも、幻洛さんも、劔咲さんも、裂さんも、みんな同じ気持ちでいるはずです。」 「…。」 ふゆはは目頭に涙を溜めながら、目の前にいる師を見上げた。 「…ふゆはさんの事を大切に想う仲間ですから…。いや、仲間という表現以上の、絆というものでしょうか…。」 それは義務感でもない、当たり前の想いだった。 「だから、無理して独り立ちしようとしなくていいんですよ…。」 「い、たみ…。」 伊丹の優しい言葉に、ふゆはは声を詰まらせる。 「独り立ちするなとは言いません。ただ、その日が来るまでは、僕もふゆはさんのことを支えてもいいでしょうか?」 その言葉にふゆははゆっくりと頷き、再び伊丹の袖を強く握る。 もう、涙は見せたくないと、肩を震わせながら堪えた。 「…随分と、辛い思いをさせてしまいましたね…。」 伊丹は、ふゆはの淡い藤色の頭を撫でながら、赤子をあやすように背中を優しく叩いた。 師ではなく、本当の親のように。 「…ごめ、んなさい…。わたし、は…そんな…。」 「いいんですよ。弟子の心を理解できなかった僕にも非はあります。」 おあいこですね…、そう伊丹は笑った。 「さ…、屋敷へ戻りましょう。風邪でも引いたら大変です…。」 ふゆはは頷き、土砂降りの雨が降る中、伊丹と共に屋敷へ足を進ませる。 『少しでも貴方に近づきたい』 その思いが今、確実に、ほんの少しだけ前進した。 ……… 屋敷へ戻り、ふゆはは湯を浴びた。 先に負った傷に湯が沁み、今日の出来事を痛感していた。 あんなに禍々しい邪狂霊すら、術で再現できるなんて…。 本物と見分けがつかない程、完璧に似せられた怪異。 伊丹は、どうやってその術を覚えたのだろう。 伊丹くらいの術者になれば、自分も使いこなせるのだろうか。 あの邪狂霊の姿は、どうして…、 様々な思いが溢れる中、ふゆはは湯から上がった。 ……… 「おつかれ。今日はまた随分と派手にやったようだな。」 陽の落ちた晩刻、皆で卓袱台を囲み夕食をとる中、劔咲は言った。 劔咲はこの屋敷で家事を担当しており、日頃ここに居ることが多い為、庭先での騒ぎを気にしていた。 術などの特殊能力は持っていないが、女という性でありながらもかなりの怪力を持ち合わせている。 彼女のその怪力は成人男性5人分に相当する。 「お騒がせしてすみません。今回は邪狂霊を交えた模擬戦でして…。無論、その霊も僕の術ですが。」 伊丹が申し訳なさそうに苦笑いをしながら陳謝した。 「邪狂霊も術で成せるのか。霊術といい妖術といい、奥が深いな。」 伊丹と向かいに座る裂が興味津々に答える。 裂はこの万華鏡神社に属する警護隊の一人だ。 いわゆる忍びと呼ばれる者で、伊丹やふゆはが扱う術とは異なる、忍術に長けている。 物陰を使った戦い方を得意としているため、村が静まり返った夜間を主に見回りとして活動している。 「あくまで偽物ですよ。それこそ、裂さんの忍術だって…」 と、それぞれが持つ固有能力について話が盛り上がる。 「…うう、やっぱり疲れた…。」 皆と卓袱台を囲んでいるという日常の安心感により、疲れをズッシリと感じるふゆは。 いつも正座で背筋良く食事をしているが、今日は糸が切れた操り人形のようにグニャリと曲がる。 鍛錬の際にできた傷が、未だにズキズキと痛む。 「それだけ我武者羅にやれば当たり前だ。もっと自分に正直に生きろ。」 これだからふゆはは…、と嘲笑う幻洛。 幻洛も、この万華鏡神社の警護隊の一人だ。 幻洛はふゆはたちのような術を使うことは出来ない。 しかし、生まれ持つ覚の力により察知能力が高く、相手の思考を見透かす力や、遠い景色を見ることが出来る希少な千里眼を所有している。 また、知略と武力共に高く、文武両道に長けている。 「…私にだって、それなりの矜持があるの。」 ムスッと、ふゆはは頰を膨らませ、幻洛を睨みつけた。 「…誰にだって危機に陥ることはある…。」 それまで黙々と食事をしていたナギが口を開く。 裂や幻洛と同じく、ナギも万華鏡神社の警護隊の一人。 ナギは身体の半分が魔物で出来ている半魔という種族で、万華鏡村に住むアヤカシたちとは少し異なる存在。 伊丹は昔から彼のことを知っているようだが、周囲に危害を加えることは無く、今では普通の一村民として万華鏡村で生活をしている。 そんなナギの固有能力は魔術で、計り知れない力を持っている。 「…その状況下で、仲間に助けを求めるのも一つの戦術だ…。」 取り返しのつかない事になる前に、な…。 そう、ナギは淡々とふゆはに告げた。 「わ…、わかってる、から…。」 普段より無口無表情なナギから直接的な物言いをされ、ふゆははシュンと狐耳を下げる。 「とにかく、今日はゆっくり休んでください。また明日、気持ちを切り替えていきましょう。」 ふゆはの隣に座る伊丹が、優しい笑顔で補佐する。 「あ…ありがとう…。」 伊丹の笑顔に救われながら、ふゆはは止まっていた箸を動かし、食事を続けた。 ……… 万華鏡村がしんと静まる、丑三つ時の時間。 「…!」 ふゆはは自室の布団で横になるも、あの禍々しい怨霊の姿が脳裏で蘇り、眠れぬ夜を過ごしていた。 「寝られない…。」 こんな時間に、伊丹の部屋に行くのも如何なものだろうか。 伊丹も、自らの師である他に、万華鏡神社の神主でもある為、神社の仕事を抱えながら多忙な日々を過ごしているのだ。 流石に、迷惑千万であろう。 「あ…」 そう思いながら廊下を歩いていると、居間から明かりが漏れているのが見えた。 こんな時間に起きているのって… わかりきった疑問を抱きながら、ふゆはは居間の襖を開けた。 「…どうした…。」 黒い羽織を身につけた、フワフワした銀髪の者… ナギの姿がそこにあった。 ナギは半魔の為、睡眠は3ヶ月に1日しか取らない特異体質を持っている。 その為、今日この日も眠る事なく一人静かに起きていた。 「いえ、その…眠れなかったから…。」 素直に、ふゆはは理由を伝える。 「…眠くなるまで居ればいい…。」 ナギは村の書物に目を通していたのだろう。 書物の山が、きっちりと卓袱台に置かれていた。 表情は一切変えず、ナギは再び書物に目を落とした。 長い沈黙が続く。 普段から口数が少ない上に、常に無表情で何を考えているのかわからなく、 そのくせ言うことは直球で心に突き刺さる言葉ばかり… そんなナギの事が、ふゆはは少し苦手だった。 正直、もう自室に戻ろうかとも思っていたが… 「あの…」 先に沈黙を破ったのはふゆはだ。 というより、ふゆはが発言する他無かった。 「ナギは、その…危機的状況になった事とかあるの…?」 夕食の際にかけられた言葉を、ナギに質問する。 「…。」 ナギは暫くふゆはをジッと見たまま固まった。 そしてようやく目をそらし、少し俯き始めた。 必死に、思い出していたのだ。 「あっ、大丈夫、思い当たらないならいいから、うん…。」 これは流石に埒が明かない… そう思い、ふゆはは半ば強制的に長考するナギを止める。 「そう、そうよね…、ナギも、みんなと同じで強いものね…。」 よく考えればわかったことだ。 ふゆはは自分自身に苦笑いした。 「…俺は…、皆と同じではない…。」 「?」 ふと、ナギは独り言のように呟いた。 不可解な言葉に、ふゆはは首をかしげる。 「…ふゆはもわかっているとは思うが、俺は半魔だ…。元より、この村では存在し得ない種族…。」 ナギは半魔という珍しい種族。 そんなナギが、何故この万華鏡村に住んでいるのか。 もはや共に暮らすことが当たり前となっていた為、ふゆははあまり深く気にしたことがなかった。 なんでも、魔物が暮らす世界から投げ捨てられ、落ちた先がこの世界だった… そんな話を、昔伊丹から少しだけ聞いていたが…。 「…俺は余所者だ。だから、皆と同じではない。同じになることなど、不可能に値する…。」 「!」 ハッと、ふゆはは我に返る。 「ご、ごめんなさい…!私、そういうつもりじゃ…」 「…わかっている…。」 決して皮肉を言っているわけではなかった。 しかし、ナギからすれば、そう捉えてしまうのも無理はないだろう。 再び、気まずい沈黙が続く。 「…みんなと…、同じになれなくても、それに近くことは出来るはずよ。」 「…?」 またも沈黙を破ったのはふゆはだ。 「一緒にご飯を食べたり、一緒に過ごしたりするだけでも良いんじゃないかしら。」 「…。」 貴方は余所者なんかじゃない。 たとえこの世界ではあり得ない存在であっても、 私達からすれば…、少なくとも私からすれば、もはや当たり前の存在なのだ。 だから、今まで通り、一緒に居てほしい。 そう伝えたかった。 「…、そうか…。」 理解出来たのか出来なかったのかはわからないが、ナギはいつもと変わらない表情で呟いた。 「それに、ナギにもそんな悩みがあったなんて、少し安心したわ。」 「…安心…?」 相変わらず無表情のままのナギに、ふゆはは笑顔を向けた。 「内容は同じじゃないけれど、悩みを持っているという点では、少なくとも私とは”同じ”よ…。」 身体が病弱なことにより、伊丹や皆に迷惑ばかりかけてしまう自分に落胆しているふゆは。 この世界にあり得ない存在として存在することにより、皆と同じように生きることができないナギ。 それが他者からの理解を得られなくとも、皆、それぞれ悩みというものを抱えながら生きている。 「…そうなのか…、俺には…少し理解し難い…。」 ナギは無表情のまま、ふゆはの言葉を理解しようとしていた。 「……うん…、だから…、だいじょ、ぶ…、」 「…ふゆは…?」 突然、呂律が回らなくなったふゆは。 うつらうつらと、頭が下がる。 「…だい…、じ…、だか…ら…、………。」 そのまま卓袱台に頭を突っ伏し、すやすやと寝息を立て始める。 普段あまり話したことがなく、少し苦手意識のあったナギとこうして話が出来たこと、 そしてまた、そんな無口無表情で力の強いナギも、実は自分と同じように悩みを抱えていた親近感と安心感により、眠気が一気に襲いかかってきたのだろう。 「…。」 無言のまま、ナギは立ち上がった。 卓袱台に突っ伏して寝ているふゆはを、寝室に戻そうと横抱きにする。 余程疲れていたのだろう、横抱きにされても、ふゆはは起きる気配がなかった。 寝室の布団に、抱えていたこの部屋の主を下ろすナギ。 月の光が、ふゆはの色白の顔を照らす。 ふと、ふゆはの頬に小さな傷跡を見つけた。 鍛錬の際に出来た擦り傷だろう。 無意識に、その小さな傷跡にナギは右手を出した。 魔物としての、右手を。 「…!」 いつも無表情なナギが、少し驚いた表情をした。 自分は今、何をしようとしたのだろう。 所詮、自分は魔物にも、この世界の種族にもなりきれない失敗作なのだ。 そう思いながら、ナギは足早にふゆはの寝室を後にした。 初めての感情に心を惑わせながら。

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