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* 「や、昨日ぶり」 早朝から工房で父親の手伝いをし、休憩がてら外に出た時だった。聞き覚えのある声がしたと思うと、昨日のあの男が工房の駐車場に立っているのを見つける。 「なんでここに?」 「姉さんが教えてくれたんだ。ここの工房の子じゃないかって」 「……ああ、なるほどね」 額から流れ落ちる汗を拭いながら息をつく。父親の顔はよく知られているし、その息子である自分の顔を知っていてもなんら不思議ではない。ただ驚きなのは、昨日出会った場所より離れたこの場所に、この男がわざわざやってきたことだ。 「昇、友達か?」 ちょうど外に出てきた父親が男に気づいて声をかける。タンクトップ姿にくわえ煙草、手入れ忘れの無精髭。我ながら、父親のその姿を見られるのはあまり良い気がしない。 他人を装いたい気持ちを抑え、まあ……と返事する。 「せっかくここまで来たんなら、ろくろでもやらせてやり」 「……俺が教えんのかよ」 「友達なんやろ?教えてやらんか」 煙を吐き出しながら、父親はさっさと去っていく。その後ろ姿を見送りながら、ため息をついた。 「時間があれば、だけど。体験教室みたいなのあるから、やってく?」 「え、いいの?」 「この時期は平日でも予約制でやってるし、1人増えようが変わんないしな」 「じゃあやる」 子どものように笑う彼を見ていると、なぜかほっとする。癒し系、とは違う。儚げで、脆くて、すぐ割れてしまいそうな陶器みたいだと思った。 「おれ、いづきって言うんだ。よろしく」 「よろしく。俺は昇」 名前は知ってるけど、心の中で呟く。そばまで歩み寄っていた彼に、昇は尋ねた。 「いづき、って、漢字どう書くんだ?」 「イタリアの漢字表記の伊に、空の月。伊月」 「へえ」 なんだか、綺麗だ。 太陽を背に立っている伊月を、目を細めて見つめた。

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