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手早く準備を済ませ、伊月をろくろの前に座らせる。教室用に使っている白いエプロンは、彼が着るとちょっとしたファッションにも見えた。
周りでは他の体験者たちが悪戦苦闘しながらそれぞれ楽しんでいる。工房の従業員が2人、講師として近くをうろついているが、昇が講師をするのは初めてだ。といっても今回は伊月専属講師だが。
「む、難しい」
コツさえつかめば小さい子どもでも綺麗な器を作れるはずなのに、伊月の粘土は歪なままひらすら形を変えるだけだった。眉根を寄せ、じっと睨みつける彼がおかしくて、昇は思わず吹き出す。
「力入れすぎなんだ。ほら、こうして」
手を伸ばし、粘土に触れる。ぬるりとした感触が指先に広がり、優しくもう片方の手を側面に添えるといとも簡単に美しい形へ変化した。
「な、簡単だろ。手、貸して」
「う、うん」
今度は伊月の手を取り、そっと粘土に触れさせる。彼の手は冷たかった。昇の手の方が一回り大きいことにそこで気づく。
「すごい、昇がすると綺麗になる」
「そりゃ、俺はいつもやってるから」
何気なく返事をしながらも、内心嬉しかった。ただ、綺麗という言葉は、誰よりも何よりも、伊月に当てはまる。白い肌や細い指を見ながら、理由はわからないが昇はそう感じた。
あっという間に時間が過ぎ、伊月の粘土は若干歪んだ形としてろくろから切り離された。
「結局歪んじゃってるや」
乾燥途中であるお茶碗型の器を眺めながら、伊月は言う。また笑いそうになった昇は、しかし、突然伊月の瞳が憂いをおびるせいで思わず黙り込んでしまう。
「でも、その方がおれにあってていいかも」
「え?」
「なんでもない。昇、ありがとう。これってこの後どうするの?」
伊月は、それ以上の問いかけを許さない空気を纏っていた。知り合ったばかりの昇はもちろん、何も訊けない。
「1週間くらい乾燥させて、素焼き、それから絵付けしてまた焼く。完成までに結構かかるけど、さすがにそれまでここにはいないだろ?」
「へえ、そんなに時間かかるんだ。そうだね、いつ帰るかは決めてないけど……さすがに完成する前に夏休み終わるだろうね」
「じゃあ俺が絵付けまでして、出来上がったら送ってやるよ。俺がやってもいいなら、だけど」
そこまで言って、伊月の瞳がぱっと輝く。ころころ表情が変わるのは退屈しないが、それは奥にある影を隠すためのように感じた。
「ほんとに?それ、すっげー楽しみ。絶対だから」
「……あんまし期待すんなよ」
昇の言葉に、伊月はまた子どものような笑顔になった。
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