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体験が終わって、昼食も父親が誘うものだから結局一緒に昼食を取ることになる。 工房で作った器を利用した食事は伊月にとって新鮮だったらしく、空になった器をひたすら眺める姿には昇も嬉しくなった。 「昇、東京からわざわざ来とるんやったら、お前案内してやり」 「ええ……」 そんな時、ふと言われた言葉に難色を示すが、目を輝かせる伊月を見ると断ることができない。 結局昼過ぎからは一緒に町を回ることになった。いつも親が使っている軽トラックがあったので、それに乗って付近の名所を巡ることにする。と言っても、訪れる場所などたかが知れているが。 いくつか似たような場所を訪れ、どこに行っても目を輝かせる伊月は見ていて退屈しなかった。いつも見ている風景も、彼がいることで全く別物に見える。 時たま、初めて出会った時に感じた影が現れるのもまた、彼の一つの魅力となって視線を引き付けた。一体、何を抱えているのだろう、そうした疑問を抱きつつ、それでも尋ねられないまま時間が過ぎる。 そうしてあっという間に日が暮れはじめたころ、帰路についた。 「なあ、東京ってどんな感じ?やっぱこんなとこと違って退屈しなさそうだよな」 「うーん、少し出かければ色んな施設があるから遊ぶ場所には困らないかな」 窓の外を眺めながら、伊月が答える。似たような風景ばかりで退屈だろうなという昇の気持ちを呼んだかのように、伊月は「でも」と続けた。 「こんな風に伝統工芸を身近に感じながら、生活の一部になってるこの場所も、おれにとってはすごく魅力的だって思うよ」 運転中のため昇は伊月の顔を見ることができなかったが、それでも、彼があの微笑みを浮かべていることはすぐに分かった。 「伊月、楽しい?」 「うん。ずっとここにいたいくらい」 なぜかぐっと胸が締め付けられる。伊月が住んでいる街を見てみたいと、昇はふと思った。 「あ……雨」 ちょうど車を止めたとき、雨が降りはじめた。勢いは瞬く間に激しくなり、地面を叩きつける。 車の中には常に傘が乗っていて、2人で同じ傘に入りながら伊月を家まで送った。肩が触れるくらい寄り添って、ぶつかるたび、伊月が笑う。いつもは鬱陶しい雨も、この時は違った。 「伊月、どこ行ってたんだ」 雨で視界の悪いその先に、屋根の下で立っている男がいた。彼は眉根を寄せ、伊月をまっすぐ見つめている。 「貴彦さん」 思わず伊月の顔を見る。それほどまで、彼の声色は今までと別物だった。雨音にさえもかき消されてしまうほど小さく、それでも、届け届けと必死で叫んでいるような、そんな声だった。 「心配したんだぞ。お前、連絡しても出ないから」 「あ……ごめん、気づかなかった」 ようやく屋根の下にたどり着く。どうやらそこが伊月の姉の家らしかった。それと同時に、この男が姉の旦那だと分かる。昇と同じくらいの身長だったが、顔つきはずっと大人びていて、目が合うと思わず逸らしてしまった。 「じゃあね、昇。今日は楽しかった、ありがとう」 「ああ……」 また、伊月の背中。最後に“貴彦さん”が振り返り、昇と目が合う。伊月はこの男に会いに来たのではないか、伊月の背中はそれを静かに語っているようだった。

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