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ムカつくヤツ
そもそも運命の相手ってどこにいるんだよ。…まだ分かんねーけど、糸があるってことは近くにいるってことだよな?どんな女なんだ?それさえ知れたら避けられるのに。
「ックソ!」
ガシガシと乱暴に髪をかき混ぜる。本気でどうしようかと悩んでいると、食器を持った母さんが来た。
「あら?こんなところでなにしてるの?」
不思議そうに首を傾げるのを無視して立ち上がった。
「行ってくる」
部屋から鞄を持ってきて、早足で家を出た。顔を見たくないし、声も聞きたくない。
空はこんなにも晴れているのに、俺の心は曇っていて暗い。ヒラヒラ舞い落ちる桜を見ながら歩いた。
母さんは友達をつくれって言ったけど、俺には悪いイメージがついてるし、今更遅い。なのに運命の相手?恋人?そんなのもっと無理だろ。考えれば考えるほど気が重くなっていき、頭を振って思考を振り払った。
学校の門をくぐってすぐそばの校舎の窓に張り出されている。
人が多すぎて遠いし何も見えない。あーもう!初日からツイてない。
次々と人が入ってきて、前後左右から押されてもみくちゃにされる。
「うおっ?!」
後ろから勢いよくぶつかってよろけて、前の大きな背中に顔をぶつけた。
「んぐっ」
ぶつけた鼻をさすりながら顔を上げると、茶髪の爽やかイケメンが振り返って、心配そうに眉を下げた。
「大丈夫ですか?」
「っあぁ、すみません」
ネクタイが緑ということは1年か。それにしても背デカすぎだろ。尚且つイケメンで優しいとかなんかムカつくな。
男はジーッと俺を見て、爽やかな笑顔を俺に向けた。
「先輩だったんですね」
「あぁ。お前1年だろ」
「はい!桜庭琥太郎です」
いや、自己紹介はいいけどさ、ここ人いっぱいだし邪魔になるぞ。
「あっそ。つか、お前クラス分かったか?」
「はい。俺背高いんで余裕です」
嬉しそうに笑いながらジッと俺を見下ろした。
「先輩は小さいんですね」
「…は?」
「いやぁ、同い年かと思いました」
えへへと何故か頬を赤て、後頭部を掻きながらチラチラと俺を見た。
なんなんだコイツ。初対面で失礼だな。つか同い年だと?
「先輩可愛いですね。名前知りたいです!」
キラキラ目を輝かせてギュッと俺の手を握った。
「ま、待て待て。俺は自分のクラス見てねーし。それに失礼なヤツに名前を教えると思うか?」
桜庭はコテンと首を傾げてから、あぁ、と納得したように笑った。
「クラス見えなかったんですね」
「はぁぁああ?!やっぱお前ムカつく!」
怒鳴る俺を無視して軽々とおんぶした。
「これで見えますか?」
「見える。ありがとーー……じゃなくて!べ、べ、別に小さいから見えないんじゃねー!人が邪魔だっただけだ!」
カァッと顔を赤くして怒る俺をハイハイとテキトーに流した。
身長159もあるんだぞ!ほぼ160だろっ!そうだ、160もあるんだ。そんな風に思っているといつの間にか移動していたらしく、広い皆から少し離れた場所に降ろされた。
「先輩、名前教えてください」
悲しそうに眉を下げて、スルリと俺の頬を撫でる。ドキッと心臓が跳ねる。いや、ドキッてなんだよ。男相手だぞ?
なんだか恥ずかしくて慌てて顔を背けた。
「先輩…」
そ、そんな捨てられた仔犬みたいな顔しても絶対教えない。
絶対……
チラリと顔を見ると、一瞬耳と尻尾が見えた気がした。今にもクゥンと鼻がなりそうだ。
「ッ〜〜!!あ゛ーもうっ!分かったから!」
撫でられていた手を掴んで遠ざける。パァッと表情を明るくしてブンブンと尻尾を振った。
「小鳥遊 尊」
ポソッと呟くと、桜庭は飛びついてきた。
「小鳥遊先輩!」
勢いのあまりよろけたけど、桜庭が俺を抱きしめて支えた。
「あ゛ーっ!離せ!」
また腕を引っ張ってほどいて遠ざけると、桜庭の左手の薬指に赤い糸が繋がっていた。
「は…?うそ、だろ…?」
目を白黒させて絶句する俺を心配そうに覗き込んだ。
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