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俺がお前で、お前が俺で

来栖の家から戻った後、(ヒョウ)に本を渡し来栖に聞いたことを伝える。 表としても可能性はあるかもしれないが難しいだろう、という答えだった。 やっぱりかと少し落ち込む。 表は「来た以上帰り道もあるはずじゃ、そう落ち込むでない」なんて慰めてくれる。 そんな優しくされたら俺が泣きそうなんだけど。 表も来栖も俺のために探してくれている。 迷い込んだだけの縁もゆかりもない俺のために。 俺も何かできれば、と思うけれど表のように知識もなければ来栖のように妖の知り合いもそう多くない。 できることがかなり少なく落ち込んでいる時にリオンから手紙が届く。 手紙といっても何も書かれていなくてリオンの名前が書かれたタグが入っているだけだった。 来いってことでいいのか? 表に出かけることを伝えリオンのタグに呼びかける。 「……」 「あ、えーっとリオン、久しぶり。何か俺に用事?」 リオンは無言で俺の前に差し出す。 タグ? 俺の首輪についている表とか来栖とかと一緒な感じだ。 タグに書かれているのは『日森』の二文字。 俺の苗字だった。 「あっ、これ、俺の名字じゃん! なんでリオンがこれ持ってんの?」 「……」 リオンが何やら手振り身振りで伝えようとしてくる。 「……偶然見つけたってこと?」 「!」 伝わったのが嬉しいのかブンブンと首を縦にふる。 「俺と同じ名字のがあったからとっといてくれたんだ?」 「(コクコク)」 「ありがとうリオン!」 「お礼は全身舐めさせてくれればいいよ」 「しゃべれんだ?!」 早速舐めて来ようとするリオンを後でしていいから、と宥め俺はタグを握りしめる。 『日森』と呼びかける。 すると俺の体がぐっとタグの中に引きずり込まれる感覚がする。 表や来栖のタグを使った時の感覚とは全然違っている。 踏ん張ることもできず俺はタグの中に引きずり込まれる。 「うわっと……」 体勢を整えようとしたけれど地面に足がつかない。 重力が無くなったみたいにふわふわ浮いている。 辺り一面真っ白で何もない。 何かないのか泳ぐように体を動かし辺りを散策する。 すると何か人影らしきものを発見する。 というのもはっきりと見えないからだ。 どれだけ目を凝らしてもぼんやりとした人影にしか見えない。 けれど俺はそれを『別の俺だ』と思った。 俺は声をかけられる。 『あ、あのさ。もしかして、お前って俺?』 「日森影道で合ってるってこと?」 『そう!』 「うん、俺は日森影道、今は妖の世界に迷い込んじゃって、でも元は人間界にいたよ」 こいつは俺と同じ世界にいる俺、なんだろうか? 『あのさ、えーっと、ここにいるってことはお前もコケ蔵のとこであのタグに触ったからなのか?』 「……? 俺はリオンからもらったタグ触ったらここに来たよ。コケ蔵ってやつは知らない」 俺はコケ蔵、というやつは知らない。 ということはもうそこから世界が分岐しているのか。 俺は一つ深呼吸をして落ち着かせる。 またもう一人の”俺”から声をかけられる。 『なあ、お前の方ではさ、人間の世界に帰る方法って何か知ってるか?』 「知ってる、けどそれは違う世界の”俺”が妖の世界に残るって決断をしたら。 そうすればもう一つの世界の俺は人間の世界へ帰れる」 『それだ。なぁ、もう一人の俺。 お前はさ……人間の世界に帰りたいと思う?』 「俺は……正直わからない。 帰りたい、とも思うけど戻って何かあるのかって考えている俺もいる。 そっちの”俺”はどうなんだ」 『俺も、正直迷ってる』 人間の世界に帰れるなら帰りたい、けど妖たちは人間の世界で聞いていたような奴らじゃなかった。 そりゃ、全身舐め回す奴もいるし少し嫌だけどそうでもないし…… ここで会った表や、リオンは怖くないしなんなら優しいし…… ここを出たらもう二度と会えないと思うと寂しい、と言うより人間の世界に戻っても俺はもう満足はできないだろう。 「なあ、どうする?」 うんうん考えていたってここにいられるのもいつまでかわからない。 俺は”俺”に声をかける。 早く答えを出さなければいけない。 俺の答えはすでに決まっている。 「一斉にさ、今どう思ってるか言おうぜ。 帰るか、残るのかの二択で」 『もし同じだったら?』 「そんときはじゃんけんでもして決めようぜ。一番いいのはお互いの気持ちを尊重することじゃねえのかな」 『いいこと言うな、”俺”』 「まあ、”俺”だからな」 くっくっく、と二人で笑って顔を上げる。 俺は”俺”に向き合う。 「『せーの』」 「『――――――』」 「影道、起きて」 「大丈夫じゃ、垢舐めと人間の子。気を失ってるだけみたいじゃ。 もう少しすれば……おお、影道! 垢舐めと人間の子、目を覚ましたぞ!」 「おはよう」 なぜか俺の尻を舐めながらリオンが挨拶してくる。 目を開けたら表がいるしリオンは俺の尻舐めてるしカオスになってて意味わかんないんだけど。 「影道、どこか痛いところはないか? このタグにおかしな妖術がかかっておったようじゃな。一回限りだったようでもう使えぬがな」 表が持っているタグは先ほど『日森』と名前が書いてあった。 だが今は名前の書いてあったところが燃えたようになっていて名前は見えない。 俺はリオンに尻を、ナカまで舐められている快感に耐えながら先ほどのことを反芻する。 相手が言ったことが本当なら…… 「表、話があるんだ」 「なんじゃ、かしこまったような表情して」 「俺、さっき別の世界線の”俺”とあってきたんだ。 そこで”俺”と話してどうするか決めたんだ」 ふーっと大きく息を吐いてしっかり表の顔を見据える。 「俺は……妖の世界に残る。」

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