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表に影はできる

わしは狐の妖。妖の中でもかなり長命な方じゃろう。 妖は人間のように生と死に深い意味は持たない。 フラッと現れいつの間にか消えて行く。 人間と共に生きておる頃はよかった。 妖と人間が楽しく生き、同じように歳を重ねそして同じくこの世から去る。 わしもある人間と同じ時を共にした。 家が妖に詳しい家だった故、妖術を使える珍しい人間だった。 わしは人間で言うところの恋人のように思い、可愛がっていた。 毎日楽しく過ごしておった。 しかしある日、人間が妖を排除する動きが始まった。 原因などわからぬ。 わしは妖たちをまとめ人間と戦った。 ただ、わしはあの人間がわしのものになって欲しいだけじゃった。 それだけだったのに。 戦いに明け暮れあていたある日、わしは同じ時を過ごした人間を殺そうとした。 わしから逃げてどこかへ行こうとしていたから、だったら殺して永遠にわしと共に居れるようにした。 しかし時を共に過ごした人間は 『俺はお前の玩具(おもちゃ)じゃねえんだよ!』 そう言って自ら命を絶ちわしの前からいなくなった。 わしは戦う意味をなくした。 わしはただ、あの人間と共に生き、共に過ごしたかった。。 その後は人間の言われるままに戦いをやめ世界を二分した。 わしは人間と関わるのをやめた。 たまに迷い込んでくる人間もおったが逃げるようにわしは家に篭った。 次第に妖とも関わりを絶つようになった。 誰にも、何にも会いたくなかった。 一人本を読み飽きれば眠りまた起きては本を読み共に過ごした人間の子を思い出す…… 永遠と思うほど長い時を過ごし、尻尾が一本、また一本と増え続けた。 『なあ、なんで妖って名前ないんだ?』 『妖は個の名前は持たぬ。 同じ狐の妖なら狐と、なまはげの妖ならなまはげと。 人間のように個々を区別する必要は全くないからの』 『不便じゃね? 例えば俺が前の名前呼びたい時に狐って呼んだら狐の妖全員振り向くだろ? じゃあ、俺が名前つけてやる! お前はそうだなー…… (ヒョウ)! 俺の名前が影道だからお前は反対に(おもて)を歩くって意味でどうだ? (おもて)がいなきゃ影はできない、ピッタリじゃねえか?』 六本尻尾が生えた時、不意に自分の名前の由来を思い出した。 そうじゃった、あやつがいなければわしはおらぬ。 あやつがおらねば生きておる意味などない。 わしはすぐにでもいなくなろう、と思ったがあの人間が言ったように表を歩く、その言葉の通り歩いてみようと思った。 あの人間を思い出しながら消えればまたあの人間に会えるのではと思った。 ずっと締め切っていた窓を開けた。 明るい日が降り注ぎわしは目を細める。 すると遠くから何やら声が聞こえる。 何やら人間が迷い込んだ、と言うことじゃった。 ざわ、と胸騒ぎがする。 わしは人間の姿に化けて家を飛び出した。 どこじゃ、どこじゃ、と探せば目当ての人間はすぐに見つかる。 わしは目を見開いた。 妖に追いかけられている人間は会ったこともない。 しかしなぜだか、”会いたかった”そう思ってしまった。 もう人間など会いたくない、そう思っていたが咄嗟にその人間に近寄り抱き止めた。 見上げる目も顔も何もかも違う、しかしわしは泣きそうになる程嬉しかった。 その人間はすぐにわしの姿を見ようとするなど少しヤンチャではあった。 妖術は使えぬが、妖に詳しい人間じゃった。 ああ、あの人間が生まれ変わっていればどれほど良いか、と思い何気なしに名前を聞いた。 ”俺は日森影道、影道でいい” あの人間と全く同じ名前じゃった。 ああそうか、お主は共に同じ時間を過ごした子の生まれ変わりか。 またわしに会いにきてくれたのか。 嬉しさから良い名前じゃと相手の名前を褒めた。 同じ時を過ごせば過ごすほどあの時の人間だとわかってしまう。 また同じ時を過ごしたいと言う気持ちともういなくなることなど許さぬ。 わしの中で気持ちが日に日に膨れ上がっていく。 どうすればわしの元から離れぬ、どうすれば今度こそ一緒にいてくれるのか。 そう思い、わしは距離感を誤らぬように過ごした。 『俺は妖の世界に残る』 そう言われた時わしの頭は真っ白になった。 しかしわしも伊達に何百年も生きておらぬ。 赤子のように泣き叫んだりはせぬ。 しかし、しかし…… わしは目から熱いものがあふれこぼれそうになる ああ、やっと決心してくれたのか。 わしはこの世を去ろうと思っておったのに。 もしまた帰るといえば今度こそ殺してわしもいなくなろうと思っていたのに。 わしは 「そうか、それはよいの。 であれば、契りは今すぐにでも交わそうかの」 笑ってわしの中に溢れる欲望が顔に出ないようにする。 ああ、わしには(おもて)があり、今度は影の道もしっかり着いてきてくれる。 この影道がまたおかしなことを考える前に契りを交わし今度こそいなくならぬようにしなければならぬ。

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