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第4話 女の子だったら…よかったのかな(2)
「すみません、先輩。ちょっと時間かかっちゃうかも」
「いーよ。俺もテキトーに見て回ってるからゆっくり選べよ」
不破はそう言って、他の陳列棚へと向かっていった。気をつかわせない彼の優しさに感謝しながら、犬塚は改めて物色をする。
(蓮の方は大体目星ついてるんだけど、問題は由衣なんだよなあ)
女の子として無難なのはぬいぐるみだろうか、と試しにケープペンギンのぬいぐるみを手に取ってみる。愛嬌のある顔をしているし、手触りだっていい――が、如何せん種類が多すぎる。コツメカワウソや、バイカルアザラシだって可愛い。チンアナゴ、メンダコ……あたりはちょっと渋いか。
あれこれ実際に触りながら品定めし、最終的に選んだのはケープペンギンのぬいぐるみだった。こういったときは、やはり最初に目にしたものが印象に残るものである。
弟の蓮については、好みがはっきりとわかっているところで、リアルなサメのフィギュアセットを選んだ。あとは家族で食べられるよう、クッキーやチョコレート菓子をいくつか見繕っておく。やや予算をオーバーしてしまったけれど、たまには奮発してもいいだろう。
会計を済ませて辺りを見渡すと、不破はショップコーナーの前にいた。
すぐに犬塚は駆け寄ろうとしたものの、その足がぴたりと止まる。何故ならば、不破が見知らぬ異性と話していたからだ。
雰囲気から察するに同年代だろうか。ゆるりとウェーブした茶髪に、ぱっちりした瞳が印象的な美人である。背丈は犬塚より高く、スタイルも抜群で、まるでモデルのようだ。
(綺麗な人……二人、お似合いだなあ)
そんなことをつい考えてしまう。ふとショーウィンドウのガラスに目をやれば、そこには自分――小柄な男の姿が映った。
(この髪、「先輩の隣にいてもおかしくないように」って染めたんだっけ)
まだそのときは《自称舎弟》としての感情だったが、恋人になった今はどうだろう。自分は不破にふさわしい人間なのだろうか。
不破はいつだって犬塚のことを「可愛い」と言ってくれるけれど、どうあっても自分は男で、異性には到底かなわないはずだ。
身長だってまだ伸びるだろうし、顔つきや体格も変わるかもしれない。そうしたら、いつか不破も離れていくのではないか。やはり異性の方がいい、と。
(って、何考えてんの! こんなこと考えてたら先輩に失礼でしょっ!)
ハッとなって、ぶんぶんと首を横に振る。せっかくのデートなのに気分が台無しだ。
「せ、先輩。お待たせしましたっ」
おずおずと犬塚が声をかけると、不破は相手と軽くやり取りしてからこちらに向き直った。話はもう終わりらしい。
「あの、さっきの人って」
去り行く後ろ姿を目にしながら問いかける。
すると、不破は微妙な表情を浮かべつつ頭を掻いた。言うか言うまいか迷っているような様子だったが、やがてぽつりと呟く。
「同級生だよ。友達と来てたみてェで偶然な」
「――……」
それだけの関係ではないように思えたけれど、あえて突っ込むようなことはしなかった。
今の反応を見る限り、あまり触れられたくない話題に違いない。こんなことはさっさと忘れてしまおう――そう思いながらも、先ほどの光景が脳裏にちらついて胸がざわつく。
(俺が女の子だったら……よかったのかな)
女々しいことだとは承知しているが、どうしてもそう思わずにいられなかった。
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