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第4話 女の子だったら…よかったのかな(5)
犬塚が抱える不安を払拭するため――不破なりの考えがあって話してくれたに違いない。そう思うとまたもや泣いてしまいそうになる。
「……っ、先輩!」
思い余って、犬塚は不破に抱きついた。ぎゅうと力を込めて腕を回せば、不破もそれに応えるように強く抱きしめ返してくれる。
「俺、お前が思ってる以上に本気だよ。男同士つったって、ちゃんと犬塚のことが好きだから」
「ん……うんっ」
「確かに、最初は軽い気持ちで付き合う流れになったかもしんねェけどさ。なんつーか、犬塚は他のヤツとは違うってはっきりわかるんだ」
そこで、不破はフッと笑い、
「なんでかな、べったべたに甘やかして幸せにしてやりてェって思っちまうの。一緒に過ごすうち、お前のことを知るたびに、その気持ちが大きくなってさ……理屈じゃねェんだ、きっと」
そう続けたところで、照れた様子で頭を掻いた。「これが、『好き』ってことなんだと思う」と呟いて。
言葉の端々から伝わってくる想いに、犬塚は胸がいっぱいになる。想像よりも自分は遥かに大切にされているのだろう。
「先輩、ごめんなさっ……俺」
「いーよ。不安にさせちまったのは、こっちなんだから。けど、俺の気持ちにもちゃんと向き合ってほしい――付き合う、ってそーゆーことだろ?」
「っ、はい」
不破の腕の中で小さく息をつき、その胸に顔を埋める。それから、すりすりと頬擦りをして甘えた。
「好き……先輩、だいすきっ」
何度も「好き」と繰り返せば、不破も負けじと囁き返してくれて、より心が満たされていくのを感じた。
しかし、その一方。欲張りな自分がいるのも確かで、どうにもこれ以上を求めてしまう――犬塚も健全な男子高校生なのだから、性への関心がないわけではない。
「先輩」
顔も上げないまま呼びかける。少しの間のあとに、
「……えっちしたい」犬塚はぼそりと告げた。
「エッ!?」
予想だにしない発言だったのか、不破は声を裏返す。が、構わず続けてやった。
「だめ? 俺だって男なんだから……え、えっちなことだって、フツーにしたいってゆーか」
「や、犬塚。ちょっと待て、いーから待てっ」
「そんな……俺、待ってましたよ? 先輩に手を出されるの、ずっと待って――」
「だから、そーゆーの反則! こんなとこで煽んなよっ。こっちだって前から我慢してたんだから……ったく、襲いたくなんだろ」
ため息交じりに言われてドキリとする。見上げてみれば、不破はあからさまに余裕のない顔をしていた。
「そ、外ではさすがにだめですよ……?」
「わかっとるわ!」
無粋なやり取りをしながらも、期待で胸がドキドキと高鳴ってしまう。不破が自分に対して欲情してくれているのだと思うと、それだけで体が熱くなった。
不破は気恥ずかしさを隠すためか、わざとらしく咳払いをしてみせる。
「……うち、来るか? 門限までになっちまうけど、お前んちは家族いるし微妙だろ?」
その言葉に、犬塚はこくりと頷く。
日はいつの間にか傾き、辺りには夜のとばりが落ち始めていた。
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