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番外編 アフターストーリー(2)
「だ、だとしたら、俺たち新婚さんみたいなかんじ……になっちゃうんですかね」
なんちゃって、ともじもじしながら言うものだから、こちらだって恥ずかしくなってしまう。そういった発想になるあたり、まだまだ子供じみているとは思うが、胸の高鳴りは抑えようがなかった。
「なんつーこと言うんだよ、お前」
「ええっ、先に先輩が言ったんですよ!?」
「俺はそこまで言ってねェだろ? ま、拓哉がそんなふうに考えてくれるなら――」
「か、考えてません、考えてませ~ん! 冗談ですよっ!」
「おい、なんでそこで否定すんだ」
照れ隠しのつもりなのだろうが、こうも全力で否定されるのも面白くない。
不破は不意打ちのように距離を詰めて、その小さな体を抱きしめてやる。すると犬塚はすぐに大人しくなり、思わずフッと笑ってしまった。
「ほんっと、可愛い新妻さんだな?」
調子に乗ってそんなことを言えば、腕の中の犬塚はますます顔を赤らめる。
「もおっ! なに言ってるんですか、先輩ったら!」
「ははっ、まんざらでもねェくせに」
「むう~……」
不服そうな声を漏らしつつも、犬塚は素直に抱きついてくる。頭をすりすりと擦りつけるのは、わかりやすい甘えのサインだ。
「拓哉」
耳元で囁くと、犬塚の体がぴくんっと跳ねた。
顎に指を添えて上を向かせるなり、柔らかく唇を重ねる。舌先がおずおずと差し出されれば、吸いつくように自分のものと絡ませ、深く口づけを交わし合った。
「ん、ふ……先輩」
息継ぎのたびにこぼれる吐息は熱く、いつの間にやら互いの唾液を交換し合う濃密なキスになっている。
やがてどちらともなく口を離すと、二人の間を銀色の糸が伝った。それがぷつりと途切れるまで、互いにぼんやりと見つめ合う――犬塚の瞳は熱を帯びており、はっきりと情欲の色が浮かんでいた。
「先輩、えっちしたくなっちゃった」
上目遣いで物欲しげに見つめられれば、もう堪ったものではない。逸る感情を抑えることができずに、不破は意地悪な笑みを浮かべた。
「こんなに明るいうちから? まだ荷解きも終わってねェのに?」
「だって……」
「拓哉、キスだけでエロい気分になっちゃったんだ?」
「そ、それもあるけどっ。さっきの新婚さんとかって話――意識したら、なんか余計に」
犬塚は恥じらうように視線を落としながら言う。
まさか、先ほどの発言をきっかけにこのような展開になるとは。もう愛おしさが込み上げてきて仕方ない。
「なら、今日は可愛い新妻さんにご奉仕してもらうか」
我ながらどうかとは思うが、口をついて出たのはそんな言葉だった。
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