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touch09

 衝撃の後に意識がもっていかれる。  必死で歯を食いしばり、ハンドルを操作するが、林に突っ込んだ。  タイヤは二重だから、パンクはしていないだろう。  あの距離から命中されるとは思わなかった。  ガッ。  木にぶつかる。  巧はずっと叫んでいた。  場慣れもしてないガキ。  怖いに決まっている。  人影が近づいてくる。  だが、まだ遠い。  エンジンを掛ける。  いくか。  いけ。 「もうあかんってー……」 「泣くな、煩い」 「泣いてへんわ!」 「喚くな、煩い」 「煩いのはお前やっ!」  こんな所で漫才している場合ではない。  ギキッ。  嫌な音の割に、車は息を吹き返す。  人影が止まった。  そして、銃を構えた。  二度目を許す訳がない。  全速で発進する。  男達が散った。  頭が痛い。  触ると血が付いた。  気にしていられない。  ライトに照らされた黒髪の男。  にっと笑う鵜亥。 「さよなら」  そう口が動き、窓ガラスを弾が貫いた。  血が吹き飛ぶ。  自分じゃない。  助手席を狙ったんだ。  頭が真っ白になる。  そちらを見るのが怖い。  急いでハンドルを切り、離れる。  追っ手はない。 「巧!」  すぐに手を伸ばす。  返事はない。  山中に車を止め、ライトを点ける。 「たく……」  耳の上から流れる血を押さえ、小さく呻く。  良かった。  背もたれに大きな穴が空いていた。  数センチ。  奇跡みたいなものだ。 「ふ……ふふ」  嗤いが洩れる。 「見たやろ? 鵜亥さん、躊躇いなくオレ撃ちよった……はははは」  ポロポロと泣きながら。 「ほんまやったんや。あの人……最低な男なんやね」  わあっと泣き喚く。  耳につんざく。  でも、耳障りじゃない。 「これからどうする?」  啜り泣く。 「もう追われはしない。鵜亥はお前が死んだと思ってる」 「……イヤやね、嘘は」 「嘘じゃない」 「じゃあ、オレは死人か」 「不満か?」  巧の動きが止まる。  ゆっくりと俺を見る。 「俺も同じようなもんだ」 「せやねー……そんなに悪くはないかもしれん」  山を抜ける。 「生きててなんぼやしね」  巧の言葉が脳に何度も響いた。

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