41 / 86

touch11

 巧の顔が目の前にある。  ギュッと俺の肩を掴んで。 「なにして……」  柔らかい感触。  唇が触れたと気づいた時には、舌が絡み合っていた。  軽いキスのつもりだった巧の頭を引き寄せる。 「ふッッ……んぁ」  唾液を啜る音が熱を誘う。  甘い桃の香りに、酔ってしまいそうだ。  俺の膝に乗っていた巧がびくりと反応する。  背筋をなで上げただけなのに。  舌先が震える。  奥に引っ込むソレを引きずり出して、強く噛む。  背中が仰け反る。 「はッ……んん」  唇を離す。  顎に液が伝った。  肩の手を掴んで下ろす。 「からかいは相手より上手くなってからにしろ」 「……ッ、下手やないわ!」 「ほら、降りな」  渋々隣に座る。  膝を抱えて。  その仕草が妙にいじらしい。 「オレかて、気持ち良くさせるくらいは出来んやで」 「鵜亥に教えてもらった?」 「それは禁句や」 「真実だろ」 「嫌いや」  俺は微笑んで煙草を吸う。 「い……いや、嘘やでっ?」  突然焦りだす巧。 「どうした」 「だっ……黙っとるから、本気にしたんか思て」  馬鹿だ。  俺は肩を揺らして笑う。 「笑うなや!」  涙が出そうだ。  こんな馬鹿とまさか一緒に住むなんて。  長く関わる気はなかったのに。  家を一つ買い、巧を残して去る気だった。  なのに、声が枯れるほど泣き喚いて大変だったから、居残った。  ズルズルと二年だ。  仕事は近くのホストクラブ。  それを話すと烈火の如く怒り狂ったので、転職したことにした。  近隣の情報も得やすい仕事。  辞める気はない。  それに、一夜限りの関係は自分に合っている。 「ほんまは……いるんやろ」 「なにが」 「奥さん」  煙草を落としてしまう。  すぐに拾って灰を払った。 「あっ、図星や」 「そんな訳ないだろ」 「だって毎晩おらへんし」 「仕事だ」 「襲ってもこぉへんし」 「何言ってんだ」 「どこで発散してん?」  不思議そうに見つめてくる。 「……馬鹿なこと言ってんな」 「ほんまに訊いてんやけど」  立ち上がって灰皿に煙草を置く。  トコトコついて来る。 「なんだ、鬱陶しい」 「好きやねん」  空気が止まる。 「す……好きや」 「二回も言うな」 「聞こえてないんかなって」  足を摺り合わせる。

ともだちにシェアしよう!