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「俺のものになってください」  雨の中って一番声が澄むんだっけ。 「へ?」  たどたどしい俺の言葉を打ち消すかのような反応。 「そこは即答しろよ……はずいだろ?」 「だって應治が急に変なことゆうから」 「そりゃ、あれだ」 「あれ?」  こう、濡れた肌の光樹が出会ったときより美しい存在に思えて。  愛しく見えて。  今言わなければ一生ない気がして。  凜に殺気を覚えるくらい守りたいって熱くなった熱も覚めてなかったし。  うまく言えないけど。 「雨のせいだ」  嘘は吐いてない。  光樹はにいっと笑って俺の首に抱きついた。 「責任転嫁出来てないよ~。雨は雨男のせいで降ってんだから」 「悪かったな」 「悪くない。俺雨好きだから」  だから? 「雨男も好きー……」 「寝るなよ、胸元で」 「應治のここ暖かいんだもん」  光樹の息が素肌を擽る。 「ねえ。應治のものになるから俺を拐って。どこまでもどこまでも連れていって閉じ込めて應治だけのものにしてよ」 「お前……俺より恥ずかしいぞ」 「恥ずかしくないよ、本音だし」 「それはごめんだ」 「なんで?」  光樹が不満そうに起き上がる。  俺の眼をまっすぐ見ながら。 「姫って言ってくれたじゃん」 「そうだよ、俺は姫って云ったんだ。王子ってのは姫を幽閉する鬼畜か? 俺はお前と一緒に街歩きたいし旅行したいしワガママを聞いてあげたいって思ってる。それが好きじゃないのか。束縛は嫌いだ、俺自身が。だからやる気はねえよ」 「……ヤる気は?」  艶やかに囁いた唇を塞ぐ。  雨音に鈍く振動する互いの水音。  舌を舐め合うような優しいタッチ。 「ふ……挑発しやがって」 「ふふー。乗ってくれると思ったからね」  二人で並んで河を眺める。  少しだけ増量して濁った河を。 「届かないと思ってた」  何かを掴むように手を伸ばして呟く。 「應治に会った日、俺入水自殺しようと思ってたんだ。濁った河の向こうに行けないって知ってたから」  比喩ばかりの本音。

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