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4.天上の雨(3)
唇を重ね、舌を絡め。
ねっとりと味わい続ける。
呼吸を忘れそうになる。
そのまま彼をベッドに倒し、またキスを繰り返す。
上唇を舐めて、下唇を少し甘噛みして。
その隙間から覗く舌を求めて忍びこんで。
柔らかく動く肉を舐める。
濡れた音が聞こえ。
体の芯が熱くなる。
夢の中よりずっと刺激的で、以前よりずっと官能的なキス。
唇を離し、彼の髪を撫で、様子を覗う。
「……っいて……っ。は、やく……っ」
壊れたように同じ言葉を紡ぎ、背に腕を絡めて貪欲に求めてくる。
もう意識がそれでいっぱいになって。
俺は彼のTシャツを脱がせ、それを傍に置いた。
肌理が細かい肌。
またキスを繰り返してその肌に触れる。
汗ばんだ感触が掌を伝う。
キスは次第に首や鎖骨へと場所を変える。
キスをするたびに彼の身体が反応する。
鋭い声を上げて。
でも、どこかぽっかりと穴が開いた、乾いた音。
ただセックスに没頭したいがために上げている。
そんな無理やりな色の音。
彼の上下する腹や腰に唇を這わせて、また唇にキスをする。
彼は飲むように受け入れる。
そして俺は、彼の下着の中へ手を入れた。
「んっ……っ」
彼が声を漏らす。
ほんの少し触れただけで強い反応。
荒い息を吐き出しながらも、手の甲で口元を隠す。
夢と同じ仕草。
彼の愛液が俺の指を濡らす。
その液体で彼自身を包んで、動かしてみる。
「っあ……はぁ……」
ますます濡れてくる。
先端に少し爪を立てた。
「っやっ……あ! ……っ」
彼が大きく頭を振る。
その顔を覗き込んだまま、先端への刺激を強めてみると。
「あっ! だめ……っ、ん、んんっ……っ!」
目を瞑って、片手で口を隠しながら、もう片方の手で俺の腕を掴んでくる。
まだ声は大げさだけど、少しずつ様子が変わりはじめていた。
次々に溢れ出す愛液。
色を変えはじめた涙。
俺は彼のスウェットを下着ごと取り去った。
生まれたままの姿にさせ、彼を見てまたキスをする。
彼の手が俺のシャツに伸びた。
彼の手に脱がされ、俺も上半身だけ裸になる。
そしてまたキスをした。
「……して。……酷くして、いいから……っ。早く、して……」
俺にしがみついてそうねだる。
両性的な甘い声が俺の耳元で囁かれる。
俺は首に絡まっていた彼の腕をほどき、キスをする。
頬に、唇に、首に、鎖骨に、胸に……。
少しずつ下りていって。
ついに、彼自身にキスをした。
「はっ……あん……っ!」
彼の頭がまた大きく振られたのが分かった。
先端を舌で弄びながら、手でも包み込んで上下に刺激してやる。
ビクン、ビクンと仰け反りながら好がるのを感じる。
男のものを舐めるのなんて初めてなのに、全く抵抗はなかった。
彼を気持ちよくさせたい、という感覚からむしろ積極的になれる。
彼も戸惑う姿を見せない。
口元を隠しながらも、声は次々に漏れる。
淫靡で妖しげで、それでいて驚くほど澄んだ声。
彼のものがいっぱいになって反応している。
それでも俺は舌での刺激を止めない。
ツ、と舌先で形をなぞり上げ、また先端を舐める。
そして手で形を掴んで、少し擦り上げた。
「や! だめ……っ‼ 出る……っ‼ で、ちゃう……っ‼ はぁ、あ……っ」
必死に頭を振り、俺の髪に指を絡めてくる。
そんな彼の姿を一度だけ覗いて、俺は続けた。
上下させている手を少しずつ早めて刺激を強め。
先端には止め処なく口で刺激を与える。
ちゅ、と吸い上げてみたり、弧を描きながら執拗に舐めてみたり。
「も、だ……っ。ん! ンんんっ!」
彼の窮屈そうな声とともに、白濁した液体が飛んだ。
「あ……。ハァ……ッ、ハァ……」
彼は浅い息を繰り返して、天井を仰いでいた。
口内にはどろっとした感覚が広がっている。
俺は口の中にあるものを指で掻き出した。
そして彼の脚を開かせて、その指を彼の秘所へ当てた。
最初は箇所を指で撫でてみた。
舐めるように、濡れた指で箇所を濡らしながら撫でる。
ピク、ピク、と箇所が反応するのが指に伝わる。
そうしながら、彼の姿を眺めた。
汗ばんで上下する胸。
目は少し戸惑った色を映して。
まだ完全な快楽を映してはいないものの、ほんの一欠片に曖昧な色が見えた。
何度か箇所を弄んだ後、指を少しだけ中に埋め込んだ。
「っ!」
彼の肩が一度だけ大きく跳ねた。
ギシ、とベッドの軋む音がする。
箇所が急激に狭くなり、俺は一度指を抜いた。
まだ慣れていない。
また箇所を指の腹で撫でてみる。
が、女の『ソコ』とは勝手が違うわけで。
濡れてくるわけじゃない。
このまま奥に埋め込めば、彼を傷つけそうで怖かった。
夢の様に上手くはいかないらしい。
何か無かったかな?
箇所に触れながら、考えてみる。
そんなこちらの事情に気づいたのか、彼が少し頭を起こした。
「いいよ。……きて……。挿れて……」
「それはしたくない」
はっきり断った。
いくらなんでも、それはできる訳がない。
でもどうしようか……?
ふと洗面所が頭を過ぎる。
あそこなら何か使えそうなものがあったかもしれない。
少しマヌケだが、探しに行くしかない。
「ちょっと待ってて」
彼に一度軽いキスをして場を離れた。
洗面所のアメニティグッズが入ったボックスを漁ってみる。
その中から一本のボトルを見つけた。
『ボディローション』
あとこれも必要かも、とバスタオルも一枚引っつかんで洗面所を出た。
ベッドに戻ると、生まれたままの姿の彼が膝を抱えて横になっていた。
胎児の様な姿。
俺が戻ったことに気づくと、不安に揺れた瞳に安堵の色が灯った。
また一筋だけ、涙が零れる。
「して……。早く、して……」
俺に手を伸ばし、必死な様子で求めてくる。
鼻にかかる透き通った甘い声で。
どんなに淫靡な台詞を吐いているのかにも気づいていない様子で。
俺はその手を取って、一度彼を抱き寄せた。
小柄な彼の体は、俺の腕の中にすっぽり収まってしまう。
片手で無造作にバスタオルを置いて。
そしてまたキス。
空白となった時間を埋めるように唇を合わせる。
そんなキスをしながら、ローションの蓋を開けた。
とろっとした白い液体で掌を濡らす。
指先を下に向けると、とろとろと指を伝い流れ落ちる。
その指をまた彼の秘所に当て、そこを撫で付けた。
箇所をよく濡らして、これでもかと言うほど指を濡らして。
もう一度、彼の入り口を割って中指を中に埋め込んだ。
「ア…………ッ……!」
やっぱりまだきつい。
彼の呻くような声が聞こえる。
彼の爪が俺の腕に食い込んで少し痛い。
俺は手前の辺りで、埋め込んだ指を少し動かした。
そしてまた引き抜くと、またローションで指を濡らして中へ埋め込む。
焦らず何度も何度も繰り返して。
すると少しずつ彼の秘所が綻びはじめ。
ついには俺の指を根元まで受け入れた。
俺は彼の様子を覗った。
苦痛に、というよりは自分の身体に起こる違和感に顔を歪めているように見えた。
「ねぇ」
声をかける。
「指、増やすよ……?」
彼の目が開いた。
戸惑いながらも官能的に潤んで、艶っぽい光を含む瞳。
彼の唇から柔らかい吐息が漏れた。
「もう、いいよ……」
「え?」
「もう、挿れて……」
「まだ駄目」
彼のねだる声をまた断る。
別に焦らしたいわけじゃない。
まだもう少し慣らさないと彼に負担がかかりそうだったからだ。
それに、俺自身もつらそうだと思った。
彼は少し不満げな顔をしたが、俺は気づいていないふりをした。
彼のねだる声が欲望からでなく、逃避からだと分かっていたから。
ただ、不安と恐怖から逃れるためだけのセックス。
激しければ激しいほど良い、暴力まみれのセックス。
それが彼の求めるものだったとしても。
俺がそんなことをしたくない。
もっと心地の良いセックスがしたい。
同情から始まったセックスだけど。
最後は愛情で終わりたい。
俺は中指を一度指先まで引き抜くと、次は薬指を足して、彼の中へ埋めた。
「ヒ……ァ……ッ!」
ますますの圧迫感にまた彼の上体が跳ねた。
「あああ……ぁ……、あ……ぁぁ……」
欲望がそのまま気管を伝って流れ出たような声が上がる。
思わずゾクッとするほどの、艶のある声。
俺の腕を掴む彼の手の力がますます強まる。
荒い呼吸を繰り返し、目の色が少しずつ逃避から欲望に変わりはじめる。
体をあまり離さないようにして。
時々キスをして。
ゆっくり二本の指を動かす。
濡れた卑猥な音が立つ。
もうだいぶ慣れてきたのか、指が動かしやすい。
ローションが中から溢れてきたように見えて。
女のものと変わらない様子。
秘所を解しながら、また彼のものを舐めてみる。
「あ……んっ!」
跳ねるように体を丸め、彼が俺の頭を遮った。
「それ、や、だっ……。どっちか、だけにして……っ」
熱に潤んだ瞳で、懸命に頭を振る。
刺激が強すぎるらしい。
何もかもを忘れるセックスがしたいくせに。
快楽にも恐怖している。
でもそんな彼の姿に、妙に安堵する。
「分かった」
俺は少し微笑んで、指だけに集中することにした。
ゆっくり動かしていた指を早急に動かしてみたり。
抜けそうなところまで引き出してから、また奥の方まで深く埋めてみたり。
そうしているうちに、奥の上側に少し膨らんでいる部分を見つけた。
気になって、そこを少し押し上げてみた。
「ヒ……ッァ……ッ! ああぁ……ン……っ!」
彼の身体が大きく撓り、ビクビクビクッと震えた。
「ここ、好いの?」
少し意地悪ながらも、そこを擦りながら訊いてみる。
「ん、んんン……っ」
必死に頭を縦に動かしながら、手の甲を口に当てて、声を抑える。
俺はその手を払い。
「ちゃんと声で教えて」
と、願うけど。
彼は「ん……」と唇を噛み、目をぎゅっと瞑ってしまう。
それだけ快感が強い?
俺はまた意地悪な気分になって、そこだけへの刺激に集中した。
「あっ……‼ やだっ……! そこ、ばっかり……! やだぁ……」
俺の腕を掴んで頭を大きく振る。
かなり刺激が強いようだ。
彼が荒い息をぶちまけながら、生理的な涙を零す。
俺の腕を掴む腕の力が弱まり、小刻みに震えて。
もう恐怖は瞳のどこにも映っていない。
ぼんやりと、ただただ快楽だけが映っている。
俺は彼の中から指を引き抜いた。
「あ……」
彼が空気の様な声を漏らした。
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