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第4話

「.....なあ、リツ。オマエの言う通り投げてたら、甲子園いけたかな」 後悔なのか後ろを振り返る矢倉の言葉が、らしくなさ過ぎて不安になる。 矢倉のあの時の体力からして要求したカーブを投げられたかは分からない。いつもコントロールはいいほうだが、限界を超えていた。 「もしも、なんて意味がねえだろ」 「リセットボタンがあったらやり直すのにな」 「そんなもんねえよ」 いつもは真っ向からそんな言葉を否定するはずの矢倉に、気落ちされているのがイラつく。 握ったままだった腕をグイグイ引いて歩道を歩いて行く。 前向きだけが取り柄のはずだったし、それだけへこんでいるのもわかる。 「わかっ、てっけど。やっぱ、リツ、怒ってんじゃんか」 まだ泣いているような声がイライラを倍増する。 ずっと歩きで帰るのはキツイなと駅を探す。 「負けたことには怒ってねえよ。オマエがぐじぐじしてるのが腹立つ」 やっと駅前に着くが、のそのそと歩く矢倉は電車に乗りたくないという表情で見返す。 普段、あまり世話をかけられない分それに慣れない。 今、俺にぶつけてくるのは、甘えてるんだろうなと漠然と思う。 「どっか、寄ってく?」 試合だけだと考えていて、あまり手持ちの金もないけどこのまま帰すのもしのびない。 「あ、ああ。あっちの川の土手で、キャッチボールしたい」 指差した方向に確かに土手はあったなあと思う 「アホ、疲れてんだろ。俺はミット持ってねえし」 矢倉は道具の入った荷物を担いでいるが、俺はバスの中に置いてきた。 「三つくらい予備もあるから」 「そんなに予備必要ないだろ」 「ないと、不安だから」 ああ、俺はこいつのことを分かったつもりになっていただけかもしれない。 図体でかいだけで、本当はひどく繊細だったのかもしれない。2年半何を見てきたんだろう。 「あれを、オマエとの最後の投球にしたくない」 矢倉は俺の腕を掴み返すと、駅前の喧騒から遠ざかるように、歩みを速めて歩きだす。 俺だってもっと沢山お前の球を受け止めていたかったよ。 リセットボタンがあったら、俺も、きっと.........。

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